追う me 愛
*ウルトラC級料亭 聖域
私は人々が忌み畏れる魔王。
顔が嫌いと避けられる毎日。
それでも諦めず、一途に愛を追い求めて四十年目の晩秋。
中庭の黄葉みたく恋散らぬよう、ある決意をして私はここに来た。
置き時計の針をへし折ってやりたいぐらい、長い長いこの時間。
ああ、待ち遠しい。
約束の日から二日も過ぎた。
それでも諦めず、私は今日も君を待つ。
勇者「失礼します」
突然の声に、背筋が自然と伸びる。
ついに君は来てくれた。
魔王「どうぞ」
襖がゆっくりと開く。
この瞬間。
私にはまるで、冬を越して春がきたように感じた。
魔王「美しい」
つい口から漏れたその言葉に、君は顔を背ける。
私は小さく照れ笑いをした。
勇者「失礼します」
山の沢のように流れる、青く澄んだ長い髪。
瞳は希望や未来を映したように輝く、丸く大きな黄金色の月。
そして、鮮やかな淡い桜色をした小さな唇。
最後に守りたくなるような、華奢なその身体。
全てが愛おしく、今にも強く抱き締めたい衝動に駆られた。
魔王「今日は」
勇者「ごめんなさい」
魔王「え?」
勇者「二日もお待たせしてしまって。本当にごめんなさい」
君は瞳を潤わせてそう言うと、私に頭を下げた。
しかしそれは、私の望むことではない。
魔王「謝らなくていい。私はこの二日で、君を永久に愛することを覚悟できた」
勇者「私達は敵同士です」
魔王「しかし、こうして会いにきてくれたではないか」
例え敵同士であろうと、それが宿命であろうと。
私にはそれを変える力がある。
勇者「それでも。叶わぬこと」
魔王「叶わぬ、なぜだ?」
勇者「それは……」
魔王「私が、気にいらぬか」
つい、そう言ってしまった。
自分を卑下してはならないと、強い自信を持つことが大切だと、それを私は常に信じていたのに。
君のその悲しい顔を見て、つい、そう言ってしまった。
勇者「ごめんなさい……」
君は体を震わせ涙を流す。
どうか、泣かないでくれ。
魔王「君が気に入るよう、私は努力する。顔は変えられぬが、他は何であれ変えて見せる」
だから、私に笑顔を見せてくれ。
勇者「本当に!本当に変えられますか?!」
魔王「ああ。君の為ならば」
私はそう言って、君を安心させる為に優しい笑顔を向ける。
勇者「では……!」
何かを言いかけた後、口を結んでうつむく君。
すかさず私は、遠慮はいらぬと申した。
勇者「では、世界を!家族を返して下さい!!」
強い君の叫びに、私はただ驚いた。
まさか、君がそんなことを言うなんて。
魔王「それは……」
私は、これからの君の幸せの為に。
勇者「…………」
愛する君だけの為に、邪魔なものは全て壊した。
魔王「無理だ」
勇者「魔王っ!!」
それなのに君も、気に入ってはくれなかったか。
魔王「勇者よ」
君を強く抱き締めるも、愛が二人を巡ることはなかった。
魔王「私は、君を愛していた」




