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純白の硝煙  作者: Xeno
今に至るまで
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#0 天地開闢

※この#0は世界観設定についての話です。本編は『#1 青天白日』から始まります。

この世界は、地殻変動により生まれたユレースア大陸、オルトリア大陸、南北ウルメル大陸、エーファ大陸、諸所島国からこの世界は成立している。


 この世界が神によって創造されたか、それとも宇宙の塵が集まって出来たか。真相ははっきりとは解っていないが、生物が産声をあげるには最適な場所だった。


 5大陸と諸所島国では様々な種が進化に進化を重ね、滅び、繁栄し、現在に至る1万年の間世界の覇権を握り続けたのは、人類であった。


 狩猟採集の時代が続き、その日を生き残ることで精一杯な生活を送る人類だったが、紀元前5200年、ユレースア大陸西部にある3つの川の流域に人類最初の文明社会、ベギハランが誕生する。

 狩猟採集の獲得経済から農耕により安定的に食物を確保する生産経済への移行を象徴する文明だった。

 ベギハランは乾燥地帯に成立したが、当時にしては高度な灌漑(かんがい)技術によりこれを解決、水場を確保。主食となる穀物を生産し、羊を繁殖させ衣類、食物にすることにより安定した生活を送るようになった。

 また、現在使われている七曜制や照陽暦が発明されたのも、このベギハラン文明の時代であった。


 しかし、ベギハラン文明は紀元前5000年頃に東方の遊牧民族によって滅ぼされる。


 その遊牧民族が定住するのはもう少し先の時代であった。


 紀元前1500年頃には、遊牧民族がユレースア大陸東部のエウロピナに定住してルーノ帝国が築かれていた。

 ルーノ帝国は周辺の民族を征服し、巨大な国家を形成していた。

 首都ルーノをはじめ、サパタン、エッシリア等の地方都市は特に繁栄し、世界への影響力はすさまじいものだった。「ルーノ時代からそう決まっている」という言葉があるように、現代に話されている言語の多くはルーノ語から派生しているほどだ。さらに、娯楽においても原点を辿ればルーノに辿り着く。それほどの影響力を持っていたルーノ帝国であったが、やはり繁栄は永遠には続かなかった。


 大きくなりすぎたルーノ帝国は同じく大きくなりすぎた地方都市が独立することで内部から瓦解していき、滅亡する。


 その後3000年間、正暦を跨ぎ人類は栄枯盛衰を繰り返した。そんな人類が落ち着きを取り戻したのは正暦2500年代に入ってからだった。


 正暦2500年代、エウロピナではブルギスをはじめとした、ポメルナス、フローレア、ゲルス、セプアン等、多くの国々が成立していた。


中でもこの時期に台頭したのは、航海技術をいち早く発展させて海外進出を成し遂げたセプアンだった。

 正暦2561年。エヴェラ2世の治世の時代に、セプアンの冒険家フリアデス・クレークは西方世界が香辛料の産地であるということを発見した。セプアンはこの香辛料を輸入、エウロピナ各国に販売することで莫大な利益を得て、エウロピナの中でトップクラスの国力を誇る国になった。


 その頃にはゲルスで火薬が発明され、銃が生まれた。


 それぞれの国家が大きくなり、平衡を保っていたエウロピナだったが、思わぬ形でその平衡を崩されることとなる。


 正暦2674年、突如フローレアで謎の軍勢が現れた。首都ペレンは瞬く間に陥落、世界に衝撃を走らせた。

 火薬が普及し、戦争のやり方が近代的になったこの時代。フローレアを打ち負かすような軍勢は、セプアンかブルギスのいずれかしか無かった。たが、いずれの国にもフローレアを強襲する理由は無く、むしろ友好的ですらあった。また、西方の国は当時フローレアを攻撃出来る国力は無かった。


 では何がフローレアを攻撃したのか。答えは単純かつ非科学的なものである。


 フローレア、ペレンは異世界の軍勢に打ち負かされたのだ。

 魔法使いやドワーフ、エルフ等といった幻想的な存在による軍勢ではなかった。幻想的と言うには敵はあまりにも強大な力を誇っていた。それはまるで、欲望の赴くまま弱者から甘い蜜を吸い上げていたエウロピナ諸国に対する天罰のようにも見えた。


 「神世から」その敵はやって来た。つまり、神が攻めてきたのである。

 神と言っても、人類を見守るような存在ではなかった。神にも神の国があり、そのうちの1つがこの世界へ植民地を求めてと侵攻してきたのだった。神々はその権能を思うがままに発揮していった。後に「魔術」と呼ばれるようになる力である。

 フローレアが陥落したことにより、正暦2675年にはブルギス、セプアン、ゲルス、ポメルナスの主要国をはじめとした連合国軍がエウロピナで結成され、徹底抗戦を始めた。後に「フェンリール抗戦」と呼ばれる戦いである。

 連合国軍は南北に分かれてのフローレア奪還作戦(5月分裂作戦)を開始し、作戦開始直後の1ヶ月には主要都市の1つであるマルガリーを奪還、ペレン攻略も順調であり、連合国軍優勢と言えた。このままいけばあと数週間もしないうちに奪還に成功し、この戦いに勝利すると誰もが考えていた。


 人類は、神を殺すことは出来なかった。

 当時の神々は戦争ではなくフローレア国民の懐柔に力を注いでいた。人類との戦争どころでは無かったから、劣勢になっていただけである。


 結果として、人類は敗北した。エウロピナ限定ではあったが、多くの人々が犠牲になった。戦争の後半は総力戦になっていたため、その敗北は世界経済をはじめ様々な箇所に響いていった。さらに多くの男が奴隷として彼方の国に連れ去られ、女は慰み者として神々に使役されていった。


 この慰み者となった女達が身籠った子らが、後の歴史に深く関わっていくこととなる。


 正暦2718年8月、悪夢の時代に光をもたらした出来事が起きた。

 権能が「魔術」と呼ばれるようになって間もない頃、ゲルスのバルレンで、神に反旗を翻した青年が現れた。その青年の名はジェイル・ドレク。神と人の間に生まれた子、その2世であった。

 半神の子であったが故に魔術を行使出来た彼はバルレンで数十人ほどの義勇軍を募った。そして同所にある神の領事館を襲撃、これを制圧した。だが神々は高々数十年しか歳を重ねていない小童の悪戯程度のものという捉え方をしており、直ぐに収まると考えていた。

 この襲撃事件がエウロピナ全土の人々を鼓舞し、自分達の世界を取り戻そうという意識を蘇らせた。

 同年10月にはブルギスで、その1ヶ月後には同時多発的にポメルナスとセプアンで領事館襲撃が起きた。人類は完全に世界を取り戻す動きを始めていた。後の世で「ケラノウス奪還戦争」と呼ばれることになる戦争の幕開けだった。


 結果は驚くべきことに、人類はこの戦争に勝利したのだ。

 前回と違って魔術が使える人間が存在したことが勝因でもあったがそれは決定的なものではなかった。強力な神のうち一柱を人類側に引き入れることに成功したことが最も大きな勝因だった。

 その神の名はレキアスといった。彼の権能は攻撃することではなく、守ることに特化していた。そのため人類は守りを彼に全て任せることで「攻めつつ守る」という概念を捨て去り、「攻める」ことだけを考えればよくなり、守りの分の人員を攻めに転じさせることが出来たためだと考えられている。

 人類が華々しい勝利を飾った一方で、神々の裏切り者であるレキアスは人間世界の終焉を見届けるまで死ぬことが出来ない呪詛を刻まれた。そして今も世界のどこかで我々を見守っている。そういう意味では、彼は人類にとって本物の「概念としての神」になった。


 その後も各地の戦場で活躍したジェイル・ドレクは救世の英雄として世界にその名を轟かせた。そして彼の政治においての発言力が日に日に増していった。


 正暦2722年、ジェイル・ドレクはブルギスの首都リヨンドで催される舞踏会に招待された。

 貴族階級は勿論、政界の要人も多く参加するこの舞踏会で、彼は特別ゲストとして会場に姿を現した。パーティが佳境に差し掛かる頃にブルギスの国会議員、チャリウス・ヴェーリはスピーチで、


「ジェイル・ドレクは半神の子であり、魔術が使える。彼や彼と同じ能力を使えるものを人類のために最大限利用するべき、そうだとは思わないか」


と言った。


 世論は彼を批判した。救世の英雄をはじめとした半神の子らを実験動物のように扱うのは道徳に反することである、と。

 当然チャリウスは失脚し、政界を追われた。しかし、その2年後には世論が逆転することになる。


 正暦2724年、半神の子が魔術を利用した凶悪な殺人事件がリヨンドで起こった。犯人の名はリヴィ・ゼルコフ。体から発生するあらゆる音を聞こえにくくする魔術を利用して夜のリヨンドで老若男女問わずに刺殺し、被害者の遺体は決まって右腕が欠落しているというものだった。


 この事件が起こってから半神の子らの立場は日に日に悪くなり、都市から追いやられ辺境の土地で暮らすようになった。そして救世の英雄として名を馳せたジェイル・ドレクはブルギス最高裁に「危険な罪を犯しかねない」として裁判にかけられ、理不尽にも彼は判決により勾留処置となった。その数週間後、異端審問裁判にて異端判決を受けたジェイルは正暦2725年2月5日、火刑に処されて命を落とすことになる。皮肉にも生前に彼が得意としていた魔術は、火を操る魔術だった。


 そして各国は半神の子らの魔術を恐れ、強く取り締まった。結果として彼らによる反乱が起こることは無かったが、彼らの人権を踏みにじることになった。



 時は進み、正暦2945年1月。ケラノウス奪還戦争から約230年後、ゲルスで異常な事象が発生した。

 気温が日毎に上昇し、果ては摂氏28℃まで上がったのだ。本来ならゲルスの1月の平均最高気温は8~9℃のはずだが、それを20℃近く上回る異常気象が起こった。

 ゲルス政府および気象台は原因を究明した。それは驚くべき結果だった。当時の報告文書には、


 「気温の上昇原因は高濃度の謎のエネルギー放出の余波によるものであることが判った。謎のエネルギーの正体は恐らく300年前のように別の世界からの干渉によるものであることが推測される。我々は今後この高濃度エネルギー源を観察および警護するべきである。」


と記されていた。


 ゲルスの予想は当たっていた。発見から2ヶ月後に、そのエネルギー源からこの世界の生物とは思えないものがやって来たためだ。


 230年前のフローレアの二の舞を避けるためにゲルスはエネルギー源付近一帯に軍を配備し、迎撃体制をとった。


 二つの世界が再び繋がった。


 時間が経ち、ヒトによく似たものがやって来た。それは軍勢が押し寄せてきたわけではなかった。使節と表現するべき存在がやって来ただけだった。

 彼らははじめこそ未知の言語を喋っていたが、彼らの進んだ翻訳機技術により人類とコミュニケーションをとるに至った。彼らは機械技術が発達し、栄えている世界から来たとのことだった。会話の記録文書を一部抜粋すると、


『彼らは試験的に超科学文明から此方の世界にやって来た。(中略)魔術を使えるものを引き換えに彼らの技術を伝授してもらえるということだ。』


というものだった。


 ゲルスにとってこの提案はかなり魅力的なものであった。世論は未だ半神の子について厳しい物言いをしており、政府は既に勾留した半神の子の処遇に頭を悩まされていたためだ。ゲルス政府は勾留していた半神の子のうち8割を彼らに引き渡した。

 そうして超科学世界から今日に伝わる現代技術の原型が伝わったのだ。


 その年からゲルスは他の国よりも現代化が急速に進み、世界トップクラスの技術力を誇る国になった。



 その後の戦争においてゲルスは負けることが無くなり、エウロピナ全土を股にかけんとするほどの巨大な帝国になっていた。

 正暦2962年、ブリッツ5か国を手中に納めたゲルスは破竹の勢いで北西の共産主義国であるであるセヴェトスに進撃した。

 ゲルスはセヴェトスへの侵略戦争は半年以内に終わると想定していたが、予想以上の苦戦を強いられたため正暦2964年、ゲルスはセヴェトスと停戦協定を結んだ。


 しかし、2年間の戦争は国民を疲弊させた。

 税金が上がり続ける一方で民間企業による保険システムの発達により、『官より民』という考え方がゲルス国民の間で浸透していた。

 次第に政界も民間企業の有力者が台頭し始めた。選挙活動にも商業資本が蔓延っていき、賄賂が横行するなど政界の腐敗は進んでいった。

 政治家としての頭角を現し始めた6人の財閥社長は、自財閥の傘下にある会社に有利で他の財閥に不利な政策をお互いにとっていった。

 時間が過ぎるにつれて、財閥間の亀裂は次第に深まっていった。ゲルス分裂の時は着実に近づいていた。


 正暦2968年、6つの財閥のうちの1つであるニュー・スクエア商社がゲルスから独立し、新たな国家となることを宣言した。前代未聞の出来事にゲルス国内外は震撼した。その1ヶ月後、ニュー・スクエアの商売敵であるデルミトン・コーポレーションも新たな国家となることを宣言した。その流れに乗り、他の4つの財閥も独立を宣言し、巨大な帝国であったゲルスは6つに分裂し、対立した。これによりゲルスは実態の伴わない国家となった。

 翌年、ニュー・スクエアが無尽蔵のエネルギー源を取り出す方法を確立した。かつて神々との戦争があった時に神々は権能を使用し人類を苦しめた。その権能の残滓が大気中に充満し、残滓同士が反応を起こして増殖していたのだ。それを取り出すことで無尽蔵のエネルギーを手に入れることが出来るようになった。ニュー・スクエアはこの装置を『コア』と名付け、兵器に転用する方法を模索した。

 しかし、コアには問題点があった。どんなに強力な装甲で覆っても、少しの衝撃で暴走し、周囲の空間を巻き込みながら爆発する、所謂疑似小型ブラックホールとなってしまうことだった。この問題点を解決する方法は未だに確立されていない。


 財閥間の闘争は激しさを増していき、それはゲルス内戦とも呼ばれるほどになっていた。それぞれ独立した財閥が軍を編成し、商売敵を攻撃するようになり、最早それは闘争ではなく戦争と言うべき状態になっていた。



 そんな中、ニュー・スクエア管轄下、他勢力との境界線付近の町で男の子が生まれた。だが、彼がこの戦争に関わるようになるのはもう少し先の話である。

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