幸せ調査アンケート
「マコトさん、こんなアンケートが役所から届いてたわ」
最愛の妻から一枚の紙を手渡された立野マコトは、その文面を見て「なんだこれ」と苦笑した。
「ねえ、なんのアンケート?」
妻はマコトの肩越しにそのアンケートを覗き見る。
朝も夜も変わらずにべったりと寄り添ってくる妻の姿に、マコトは内心ドキドキしながらも何食わぬ顔で答えた。
「幸せ調査アンケートだって。今の生活が幸せかどうかを5段階で評価して送ってくれだとさ」
「なあに、それ? それが国の仕事なの?」
妻はあきれたように言う。
「全国民を対象にした調査らしい。バカバカしい、こんなのでいくら税金を使ってるんだ」
「ほんとね。こんな調査をするくらいだったら、もう少し社会福祉を充実させてほしいわ」
マコトは憤りながらも、「ものすごく幸せ」に〇をして返信用封筒に入れた。
「じゃあ、いってくる」
革靴を履き、ビジネスバッグを手に持つと、玄関先で見送る妻に軽くキスをする。
「いってらっしゃい。あ、ネクタイ曲がってるわ」
妻はそう言ってネクタイをクイッとなおし、再度マコトと口づけをかわした。
「今日は遅くなる。大事な取引があるから。だから先に食べてて」
「そう? じゃあ、あなたの大好物のハンバーグを作って待ってるわね」
「おいおい、聞いてなかったのかい? 今日は遅くなるから先に食べてろって」
「いやよ、あなたと一緒じゃない夕飯なんてつまらないもの」
マコトは「やれやれ」と肩をすくめた。
「じゃあ、なるべく早く帰ってくる。ハンバーグ、勢い余って僕の分までつまみ食いするなよ?」
「うふふ、大丈夫。その時はまた作るから」
「そこは否定しないんだ!」
ニヤニヤしながらもう一度口づけをかわして家を出るマコト。
同じように、彼の家の隣から一人の会社員が玄関から出てくる。
目元まですっぽりとおさまったヘルメットをかぶり、「いってくる」と誰もいない玄関先に向かって手を振る男。
そのさらに向こう側では、同じようにヘルメットをかぶった男が誰もいない空間に口を突きだして幸せそうな笑みを浮かべている。
西暦2100年。
独身者の割合はすでに既婚者を上回り、世の中はバーチャルで作りだしたパートナーで満足する世界へと変わっていた。
余談だが、国が行った幸せ調査アンケートでは独身者のほうが圧倒的に「幸せ」なのであった。
お読みいただき、ありがとうございました。




