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異世界ダイナー 異世界に赤と黄色のハンバーガーチェーンが出店してきて僕の店がヤバい  作者: ヤマモトユウスケ@#壊れた地球の歩き方 発売中!


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完全無欠のパーフェクトフード 1-6


 翌日の昼営業は、シンプルでベーシックなハンバーガーにした。ただし、パティは粗挽き牛ミンチの量を増やして、コショウを強めに振ったパンチのあるものに。チーズソースは少なめに調整してある。見た目はいつも通りのハンバーガーだけれど、食べてみればずいぶんと違う印象を受けることだろう。

「昨日が味濃いめだったからかなぁ。こういう肉とコショウが殴り掛かってくるようなバーガーは不思議とフレッシュに感じる」

「でしょ」

 プリムはにこにこしながら、さらっとスライストマトをさらに一枚挟んだ。

「こういうの、どうかな」

「――天才か?」

「へっへっへ」

 二人で顔を見合わせて笑う。

 なるほど、トマトを追加したバーガーは、トマトの酸味、甘味がコショウによって引き出され、相乗効果で美味しく感じる。

「これ、レギュラーメニューにしてもいいかもね。材料自体はベーシックで比較的手に入れやすいし。どうする?」

「うーん、今日の反応見て決めよっか。好評だったら、シェフのお墨付きバーガーとして売り出そうよ」

「了解、オーナー」

 実際に昼営業が始まると、それなりに好評だった。昨日が雨で客足が遠かった反動か、今日はお客さんが多く――十五時前には、昼営業用のバンズのストックが尽きてしまい、何人かのお客さんには謝ってお帰り頂くことになった。

「うーん、発注増やす? マリウス、どう思う?」

「売れ残って廃棄にするくらいなら、売り切れるほうがいいかな……」

 ここは東京ではなく商人円街だ。廃棄コストのほうが安くつく、なんて飽食の時代がやってくるまで、まだまだずっと時間がかかるだろう。売り切って営業を終わらせたほうが賢明だ。

 すると、プリムがきょとんとした顔で首を傾げた。かわいい。

「売れ残っても廃棄にはならないでしょ。あたしがぜんぶ食べるから」

「……プリムってさ。昔から――食べたぶん、どこに行ってるの……?」

 異次元とかに飛ばされていても不思議ではない。当のプリムはあきれ顔でおなかをさすった。

「おなかに決まってるじゃん」

 正論だ。しかしながら、プリムは細い――いや見事に育っている部分もあるんだけれど、基本的には細い。モデル体型である。

「いや、ぜんぜん太ってないからさ。いや、別に太ったほうがいいとか痩せてるほうがいいとかじゃなくて、あれだけ食べてるのに体型変わらないのすごいねっていう――」

 僕が謎のフォローを入れていると、プリムはおなかをさすっていた手を止め、顎に当てて首を傾げた。

「――よく考えたら、あたしどう考えても太るよな……? なんで太ってないんだろ……?」

「本人もよくわかってないパターンのやつじゃん」

「こわ……え、もしかしてあたしのおなか、異次元とかに繋がって……こわ……!」

 わちゃわちゃとバカバカしいやり取りをして、一息つく。

 それから、僕らはしっかりと目を合わせた。

「それじゃ、行ってきます」

「行ってらっしゃい。今日でカタがついたらいいね」

「うん。きっとうまくいくよ。昼も売り切ったし、今日はツイてる日だ」

 そう強がって、僕は店を出た。行く先はもちろん、貴族円街――アントワーヌ家邸宅だ。


 アントワーヌ家の屋敷は、ほかの貴族の屋敷と比べると少し小さめである。というのも、もともと不必要な出費を嫌う、貴族らしからぬ質素さを美徳としているからだ。戒める茨、というやつである。とは言っても、貴族は貴族。門を抜けた先には、ダイナー『マリウス』がすっぽり十店舗以上は入る庭園があるし、その先には庭園と同じくらい大きな屋敷があるわけだ。これで質素なのだから、他の貴族の屋敷は当然もっとデカい。

 そんな屋敷の前に立ち、僕は門を見上げる。五年ぶりだけど――気合は十分だ。

 さあ、いざ――と門の前にいる鎧姿の衛士に会釈をして中に入ろうとすると、すっと目の前に衛士が割り込んできた。

「……あの」

「立ち去ってください」

 こちらと目を合わせようともせず、衛士は言った。僕はむっとしつつ、「アポイントメントならとってあります。執事のスラックマンに聞けばわかるはずです」と、努めて穏やかに伝えた。

 しかし。

「ダメです。立ち去ってください」

「なぜ? アポイントメントをとれていない、ということですか?」

「――マリウス様を入れるな、と主より厳命されております」

 ……は? い、いや、ちょっと待って。

「それはおかしいでしょ。勘当されてた五年前も入れたし、昨日正式に――まあ、ほかにもいろいろ書いてあったけど――僕の勘当自体は取り消されたはずだよね? なんで入れないの?」

「私にはわかりかねます」

 衛士は、やはりこちらに目を向けずに言う。

「主より厳命されているのです。入れるな、と。すいません、こればかりは――どうか、ご容赦を」

 僕はさらになにかを言おうと思い、口を開き――やめた。衛士の雰囲気が、ただただ困っている風だったからだ。おそらくは彼自身、どうして僕を邪魔しなければならないのか、わかっていないのだろう。聞いていないのだろう。けれど、彼はそれを命として受け、仕事として厳守している。

「……わかった。邪魔したね。ごめんなさい。僕はもう帰るよ。――つまり、会いたくないってことなんだね。ここの主は、僕に」

「……私には、わかりかねます」

 衛士はやはり困ったように言ったけれど、僕が帰ると言ったからか、ほっとした様子だった。断り続けるというのも精神的にエネルギーを使うから、あまり心地よいものではないだろう。彼にストレスを与えるのも悪いからね。

「また明日も来るよ」

 ぎょっとした様子だった。悪いとは思っているけれど、僕にも事情がある。

 門に背を向け、道を歩く。ふと道端を見ると人だかりがあって、なんだろうと思ったら、貴族円街にも屋台があるのだと気づいた。テックさんとこの屋台ではないようで、シンプルながらも貴族円街に溶け込むよう、木彫りの装飾が施された高級感のある屋台だ。近寄ってみると、驚いたことにフライヤーを搭載した屋台で、その場で牛ロース肉のカツを揚げて、パンにはさんで売っていた。厚切りロースカツサンドだ。パンはスライスした食パン。バターでこんがり焼かれていて、見るだけで喉が鳴るくらい美味しそう。ソースは茶色くて粘度の高いものと、黄色が鮮やかなマスタードを薄く塗っている。茶色いほうは、おそらくトマトなどの野菜とリンゴなどの果実を発酵させてつくったウスターソースだろう。

 カツとソース類以外にはなにも挟まない真っ向勝負。見ただけ、いや香りだけでもわかる――あれは絶対にうまい。料理を作っているのは、真面目そうな若者だ。真摯な瞳でフライヤーに向き合い、ひとつひとつ丁寧に揚げていく。

 これは並ばなきゃいけない。料理人として、またひとりの食いしん坊(グルマン)として、外してはならない店だと本能が訴えている。列の一番うしろに並ぶ。テイクアウト専門だからだろう、回転は速いようで順番はすぐに回ってきた。

「ふたつください」

「ご注文どうもありがとうございます。マスタードは塗ってもよろしいですか?」

「ええ、両方にお願いします」

「承ります。お会計は銀貨二枚となっております。……そういえば、五年ぶりにお会いしますね、ミスター・カリム」

 青年はにこやかに笑った。言われて、僕は彼の差し出す籠の中に銀貨を二枚入れつつ、その顔を注視した。……こんなさわやかな青年、知り合いにいたっけ? 整えられた金髪にベレー帽をかぶり、服装は白い清潔なシャツ。ズボンは黒いスラックスで、腰に同色のエプロンを巻いている。わからん。誰だろう。いやでも、どこかで見たことがあるような……ないような。

「ああ、わかりませんか」

 僕が首をかしげているのを見て、青年は面白そうに笑った。

「ええと、すいません。申し訳ないんですけれど、どこでお会いしたか忘れてしまったようで……」

「いえ、仕方がありません。ここで屋台を任されるにあたって、表情も仕草も徹底的に直しました。昔の仲間が見たって、だれも私だとは気づかないくらいですから。――でも、ミスター・カリムには特別にヒントを差し上げましょう」

 にやり――と、青年の口の端が歪んで、声を潜めてこう言った。

「――オレッチのこと、忘れたなんてこたァ、ネエだろうサ」

 僕は思わず、「あっ」と声を上げてしまった。いや、いくらなんでも変わりすぎだろう。別人じゃないか。エッジのかけらも感じない。

「……まさか、ハーマン……か?」

 彼はすでににこやかな笑顔に戻って、手際よくカツサンドをカットする作業に戻ったけれど、僕にだけ聞こえるよう、小さくつぶやいた。

 ――ヨーホー。アンタは五年経ってもあんまり変わんねえナ。

 キミが変わりすぎなんだよ。元・貧民円街の愚連隊リーダー、エッジのハーマン。――彼は僕にカツサンドの入った袋を恭しく手渡して、ウインクした。

「もうそろそろ営業終了なんですが――少し、お話でもいかがですか?」

 僕は呆然と頷いた。


 ハーマンの屋台の営業は昼前から売り切れまで。だいたい夕方前には撤収するそうだ。ちょうど、晩御飯を求めて早めに並んだ人たちの列を見かけて、僕も屋台に気づいた――という形だ。なんという偶然。

 屋台をゴロゴロと牽くハーマンのとなりを歩く。魔術符の動力補助が入るらしく、見た目よりもずっと軽く牽けるのだとか。トリオデさんも同じものを搭載していた。けっこうな高級屋台と言っていいようだ。

 ……じろじろと屋台やハーマンを観察していると、なんだか奇妙な気分になる。なんで僕はこいつのとなりにいるんだろう。仲はそんなに良くない――というか、殴られたことすらあるのに。ハーマンも僕を見て、恐ろしいほどに似合っているさわやかな笑みを浮かべた。やっぱり別人なんじゃないのか? こいつ。

「なにから話したものか……そうですね。社長が、ちょうど一年ほど前ですかね。私に言ったんですよ。『店が欲しいと言ってましたわよね』って。私は当然頷きました。『欲しいです』って」

「……それで、屋台に?」

 ハーマンは頷きつつ、「でも屋台を牽けるようになったのはここ半年くらいですね」と笑った。

「口調、表情、仕草――それこそ、立ち姿ひとつに至るまで、教師をつけられてしごかれました。それと並行してカツサンドの調理とウスターソースの仕込みを社長に教えられて……合格をもらえるまで半年かかりました。それから屋台をもらって、小さいですけど店を任されているような感じで」

「そのしゃべりかた、むず痒いからやめてほしいんだけど、だめ?」

「いやあ、もうこっちでしゃべり続けないと社長に怒られるんじゃないかって不安で」

「ここにはレイチェルはいないから大丈夫なんじゃない?」

「社長は神出鬼没ですから……気づくと背後に立っていたりしますよ?」

 妖怪かな?

「我ながらかなり染められていて怖いんですけれども、最近は寝言もたまに敬語になっているらしくて、仲間に怖がられました」

 はっはっはと闊達に笑う。本当に別人になったみたいだ。――しかし、彼が別人ではないことは、腰に巻いた鎖でわかる。営業終了後、外したエプロンの代わりにつけた鎖。ハーマンの大切なもので、決意の表れでもある。

「……変わったなって思ったけど、その鎖を見ると変わってないんだなって、なんだろう。僕がハーマンに言えたことじゃないかもしれないけど、ちょっと安心した」

「――ミスター・カリム。あなたはまたちょっと大人になりましたね。以前のあなたなら、そういうことを私に直接は言わなかったでしょう」

「キミは昔から大人だよね。僕なんかよりも、ずっと。僕のほうが三歳年上なのにね……恥ずかしい限りだ」

「ああ、あなたもう二十五歳になりましたか。早いですね」

 ハーマンはしみじみと言った。

「プリムは二十一歳。この五年、ほとんど会いませんでしたけど、たまに見かけることはあって。見るたびに綺麗になっていくので、あなたが本当にうらやましかった」

「うらやま……いや、うん。そういう関係ではあるんだけど。ていうか、あんまり会わなかったんだ」

 意外だ。ハーマンは僕のことが嫌いだけど、プリムは仲間として(あるいはそれ以上の存在として)認識していると思っていた。

「まあ、なんと言いますか……。その、家族なんだヨ。オレッチたちはサ。血は繋がってねぇけど、その家族がひとりでやるってんだから、オレッチみたいなアンタの敵が近寄っちゃ、野暮ってもんだろう」

 意外と気遣いのひとなので、やはり大人である。

「……家族っていうと、妹みたいな?」

「なのかもナ。ま、本当の妹いねぇから判断できねぇけど、妹分って言っていいとは思うゼ。――ですけれども、ねぇ」

 目を眇めてこちらを見る。

「その妹分が選んだのが、ミスター・カリムなのは、喜んでいいやら悲しんでいいやら。少なくとも安心はできませんねえ」

「……安心してもらえるように精進します……」

 ハーマンはくすりと笑った。

「あなたはいろいろなことに首を突っ込むお人よしで、臆病なくせに他人のことは放っておけないタイプでしょう。その時点で安心なんてできませんよ。英雄的といえば英雄的ですが、ひとつ間違えばただのおせっかい、実力が足りない状況ではただの足手まとい。そういうひとです」

 臆病なのおせっかいなのも足手まといなのも、ぜんぶ事実なので言い返せない。

「実力が足りていれば、それこそ社長のように華々しく活躍したのかもしれませんけれど……しかし、街の料理人であったあなただからこそ、五年前、街を変えられたのだとも思います。安心はできませんが、妹分を任せるに足る人物だろう、とは――まあ、仕方がないので認めてあげますよ」

 ……ん? どうやら認めてもらえるみたいだ。

「もっとも、プリムのほうもなかなかのものですから、安心できないのはミスター・カリムのほうなのでは? いったいどれくらい放浪するかもわかったものじゃない男を、帰ってくるまで何年でも待つつもりだった……というのは、いっそ怖いくらいです。浮気とかしたら殺されるのではないですか?」

「うーん、浮気しないからわからないな……」

「そういう返しが当たり前に出てくるところが、あなたらしいですけどね」

 あきれ顔で見られた。

「ハーマンはそういう相手、いないの?」

「私ですか。最近は屋台の常連のお嬢さんに食事に誘われたりもするんですが、お貴族さま相手は恐れ多くて。どうしたものでしょうね」

「いいじゃん! ……とは、言い難いかなぁ。貴族はめんどくさいよ。本当に」

 心の底からの言葉が出た。

「こっちがだれと結婚したいかなんて考えないし。勘当されたはずが、政略ひとつでころころ変わるし。こっちの都合も考えず、勝手に介入してきてさ――ホント、めんどくさい」

「大変ですねぇ。――って、アレ、ていうことは、アンタ結婚申し込んだの? へーっ」

 ハーマンは意外そうに声を上げた。

「アンタ、ヘタレだからそういうこと言い出せずにずるずるもう五年くらい行くと思ってたゼ……」

「うるさいよ」

「賭けはウィステリア副社長の一人勝ちだナ……」

「なに賭けてんだよおまえら」

 他人の恋愛で賭けをやるな。

「ンン。……私は帰ってから五年、社長は死ぬまでヘタレるほうに賭けています」

「ウィステリアくんしか良心がないね!? ……いや賭けに乗ってる時点でウィステリアくんにも良心ないわ。やっぱりノックアウトバーガーは敵だな……!」

「五年前から変わらずずっと敵ですよ、私たちとミスター・カリムは。――それがいいんでしょう、それが」

 ……それは否定できない。僕と彼らは敵である。健全な市場原理の中で切磋琢磨しあい、それぞれの高みを目指すものたちで。だからこそ、いいのだ。

「しかし、結婚ですか……」

 ハーマンは逆立ちするネコでも見るみたいな目で僕を見た。

「失礼ですが、本物のミスター・カリムですか? 五年の間に何者かと入れ替わったりしていませんか?」

「うるさいよ! まったくもう! ……というか、まだプロポーズしてないし。僕が勝手に結婚しようと考えているだけで、プリムも薄々感づいてはいるだろうけれど、正式に申し込んだわけじゃ……」

「五年後にできませんか? そしたら私が賭けに勝つので」

「絶対におまえには勝たせてやらないからな! 見とけよ!」

 と、言い返したけれど、実際問題、僕の前にある問題はなにひとつ手付かずだし、そもそもプリムにプロポーズをする以前の問題なのだ。問題が解決しても、ヘタれずにプロポーズができるかどうか――うう。考えるだけで頭が痛くなってくる。

 こんなので、本当に結婚できるんだろうか……? 不安しかないや。



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電子書籍もありますのでおうちでの読書にどうぞ。

たくさん売れると続きが書けます。

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