第三十七話 「二週間」
……うちは最近、あることに気がついたの。ちょっとしたことなのかもしれないけど、うちにとっては大変な事態だから、きいてほしい。
うちは平凡な町の、平凡な家庭で生まれ育った。両親は共働きだったから、3つ下の弟の面倒を見ながら生活してた。
よくある話なのかもしれないけど、両親がいない分、長女が家事をすることになるし、精神的自立も早かった。よく言えば、大人びてたのかな。今では信じられない話なのかもしれないけど。
町には、小さな学校があった。1学年が、多くて15人くらいかな。今思えば小さい学校なのだけれど、そのときはそういうもんだと思ってた。
で、小学校6年生くらいかな。うちは12歳。
これもよくある話なのだろうけど、この時期って、性差が出るのよね。女子は一歩早く成長期を迎えて、ぐんと背も伸びるし、考え方も大人に近付く。
それに対して男子は相変わらずちょこまかと走り回っているわ、すぐスカートをめくろうとするわで、正直その精神年齢の差に辟易してた。
でも、弟で少し知ってたぶん、大分マシだったと思う。クラスに男子は8人くらいいたけど、みんな弟みたいなもので、なにか問題を起こしては、面倒を見ていた感じ。そんな立場だったけど、嫌ではなかった。
それと平行した話。もちろん女子の方が精神年齢が先行するから、もうひとつ問題が起きた。
うちに、好きな人ができた。
それはクラスメイトの男子で、ちょこまかしているやつだった。なんであんなやつを好きになったんだろう、って思うけど、なったもんはしかたない。もともと小さな町で生まれ育った身分としては、自然なことなのかもしれない。
「セレンってさ」
ある日、隣の席のそいつが言ったんだ。頬杖をつきながら、うちの顔を見て。
「な、なによ」
私は一瞬ドキッとしちゃって、そんな返事をした。
「変わってるよな」
「え」
別に、そいつは悪気があって言ったんじゃないと思う。でも、それで回りに火がついた。
「そうそう、俺もそう思ってた!」
「うんうん!」
男子がその話題に食いついてきたのだ。
「な、なにがよ」
変わってるって、どういうこと?
純粋にそう思ったうちはすぐに聞き返した。
「なんかしっかりしてるし」
「大人びてるし」
「成績もいいよなぁ」
……なによ、そんなに褒めて。
その時は、素直に喜んでいた。けど。
「だけどよー、たまにきついよな!」
「そうそう! しかも男子より力つえーし! 馬鹿力!」
「細かいとことに口出してくるよな! うちのかーちゃんみたい! ははっ」
そんな酷い言葉まで飛んできた。
事実かもしれない、確かにそう思われても仕方がないかもしれない。でも、正直堪えた。
周りの女子が心配そうにうちを見ていたけど、見ていただけで止めることはしなかった。
おそるおそる、うちは隣のやつの目を横目で見た。「変わってる」とは言ったけど、その後は何も言っていない。周りになんていわれようとも、その時はそいつにそう思われていなければよかった。
そしてそいつは口を開いた。
「ま、お嫁さんにはしたくねータイプだよな」
男子たちは爆笑した。うちは、凍りついた。
「あー、確か言ってたよな。おしとやかでーちょっと抜けててー、守ってやりたくなるような子がタイプだったっけ!?」
「や、やめろよ」
「あー言ってた言ってた! それだとセレンは正反対だよな!」
悔しかった。悔しくて悔しくて悔しくて。涙があふれて仕方なかった。涙が見えてからやっと、女子たちが出てきて男子を止めてくれた。一人の女の子がうちの背中をさすりながら声をかけてくれたけど、あまり聞こえなかった。
たしかにうちは男勝りの性格で、しっかりしてた方だと思う。力もなんでか強くて、周りの子は胸も膨らみ始めたのにうちだけまだ。女の子らしく、なかったんだと思う。
……だけど、好きな男子に、それを言われるなんて。そんな仕打ちって、ないじゃない。
あーあ。女の子らしく、なりたい。
胸の奥で、紫色のなにかが揺らめいた。
「――ふぁっ!?」
思わずうちは声を漏らしながら状態を起こした。あたりを見渡すと、病室のベッドの上であることがわかる。
直後、激しい頭痛がおそってくる。ああそうか、大分能力行使をしたんだっけ。ネイヴィ、ロズ、起きたかな……。
ゆっくりとベッドから足を下ろして、立ち上がる。筋肉痛の方も、けっこう来てる。気を失うまで能力行使したのは初めてじゃないから、少し軽減されているのかもしれない。解毒だけなら、中級解放はあまり使わないで済んだ。
……でも、頭痛はひどな。正直、立ってるのもつらいくらいだ。でも、2人のほうが心配。
うちは頭痛に顔をしかめながらも、ゆっくりと病室を出る。向かう先は、ネイヴィのいる病室。対角線側にあるところだ。よりにもよって遠い。
「ん、セレン」
「!」
後ろから呼び止められて、思わず振り向いた。ズキ、と激痛が走る。
「あ、エル、さん。無事だったんですね……!」
「おう、まーな。でも、証拠、掴んで来れなかった……ごめん」
エルさんは、深々と頭を下げた。
一瞬、なんのこと、って思ったけど、すぐに思い出した。この人は、うちのために、ベズニット隊長に啖呵をきったのだ。透明な敵の証拠を掴んでくると。
「い、いいんです。なにより無事に帰って来てくれたことの方が……じゃ、じゃなくて、えっと、すごい隈ね!?」
あわあわ。なんか動揺してしまった。なんだかこの人と話していると心が乱れる。平常心、平常心。
「ああ、テラがいなくなってからか、眠りが浅いんだ。情けねーよな」
「え!?」
テラ君が?
「ああ、そうか……えっとな」
それからエルさんは事情をかいつまんで教えてくれた。その言葉の節々から、悔しさがにじみ出ていた。本当に、テラ君のことを助けたいのだろう。
うちも、ロズやネイヴィがそうなったら、そうすると思う。
(この人は、そんな状態でも、うちのことを気にしてくれてたんだ……)
エルさんは、うちの顔を見て第一に謝った。申し訳なさが強いけど、ちょっと嬉しい。
「で、セレンこそ大丈夫なのか? 顔色悪いぞ? もう少し休んでいた方がいいんじゃないか?」
「へ、平気よ。それより、二人がしんぱ……っ」
「おいっ」
あまりの頭痛に血の気が引いたのか、ふらついたうちの体は、エルさんの体で受け止められた。線は細いのに、ちょっとごつごつしている。
「やっぱり休んだ方がいい。ロズもネイヴィも、さっき目を覚ましたから、安心して。ロズはさっきまで元気に食事してたよ。ネイヴィさんはまだ休んでるかもしれないけど」
「ふぇ? で、でも」
「でもじゃない」
気付けばうちの体は宙に浮いていた。膝の内側から体を持ち上げられ……これってお、おひめさまだっこ!?
「お、おろしてよ!」
「……」
エルさんはうちが必死に言っているのにもかかわらず、無言のままてくてくと歩みを進め始めた。少しの振動で頭が痛むはずなのに、どうしてか痛くない。
「ほら」
うちはなすがまま、病室に戻され、優しくベッドに下ろされた。ひとつひとつの動作から、気遣いが伝わってくる。頭の中がぐるぐるして、気付けば変なことを口走っていた。
「なんでそんなに優しくするの……」
「へ?」
訊いている自分が恥ずかしかった。エルさんも、面食らったような表情を浮かべている。
「いや、そーだな。深い意図はないんだけど……俺も助けてもらったしな、似たような状態で」
「そう、だっけ?」
「いや、その、トイレで」
思い出した。エルさんとの出会い。トイレから苦しそうな唸り声が聞こえて、咄嗟に助けなきゃって思って、扉をこじ開けて……はは、まさかそこに男がいるなんて思わなかったな。
あの時のエルさんは、栄養失調と副作用を併発していた。相当、しんどかったんだと思う。そんな彼にトドメを刺したのはうちだけど。
エルさんはうちが思い出した様子を見てか、恥ずかしそうに笑うと、頭を掻きながら口を開いた。
「俺はセレンやロズみたいに治すことはできないけどさ、覚醒者である前に、男だからな。今のご時勢、男だからとか女だからとかあまり気にしちゃいけないんだろうけど……男が女の子に優しくするのは、当たり前だと思う」
「――っ!」
「あ、やべ、人を待たせてるんだったわ。お大事に! 無理すんなよ」
うちの急速な鼓動が収まらないうちに、エルさんは病室を出て行った。
「――なによ、かっこつけ」
本当は隙を見てネイヴィたちのところへ行こうかと思っていたけれど。今は、動けそうに無いや。
赤らんだ頬を隠すように掛け布団を引っ張ると、口を埋めながら何度も呟いた。
「女の子、かぁ」
気付いたこと。うちは、やっと女の子らしくなれたってこと。
――女の子として接してくれる人に出会ったの。
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「セレンの方は、やっぱりダメそうだったなぁ」
鍛錬の相手、もとい俺の能力解明に一役買ってくれそうな人を探しているわけだが、あの状況では頼もうにも無理そうだ。
まぁもともと、彼女の状態は耳にしていたわけで、第一候補は他にある。と、言っても第二第三があるわけではなく、もしダメだったら路頭に迷うことになる。待たせているコージに申し訳ない。
「さて……行くか……」
と、言ってみたものの、あの人はどこにいるんだ?
なんとなしのイメージで、病室の方に来たはいいものの、この辺りにはいなさそうだ。もしかして鍛錬室にいるかもしれない。既に鍛錬をしているのであれば、終わるまで出てこないだろう。
だが、俺にはなんとなく、鍛錬室にいないのではないかと思っている。なんとなく、だが。理由は後述するとしよう。
大広間に出て、辺りを見渡してみるが、それらしき姿はない。背も高く目立つ人だから、居ればすぐにわかる。ここにいないとすれば、あとはテラハウスのある居住区の方か。
そう思い、足早に居住区に向かう。テラハウスの前に着いたあたりで、足を止めた。
「で、どこにあるんだろうな?」
独り言を呟いて、考え込む。普段、居住区を利用する場合は、自分の部屋にしか用がないため、他の人がどこで寝泊まりしているかという情報は得にくい。多少すれ違うこともあるが、ただでさえ新参者の俺には、誰がどこにという情報を整理できるはずもなく……。
「きっとあの人は、今頃日課をこなしている頃か?」
だとすれば、あの特徴的な音がするはずだ。音というか、声。
しかし居住区は静まり返っている。もちろん寝泊りのための施設ということもあり、大声を出す人は少ないし、各部屋の扉には防音機能が施されているため、中で多少の会話をしていても外に漏れることはない。しかしあくまでも多少の声のみだ。大声を出していれば、少しくらい聞こえるはず。
しかし、ここで問題がある。
居住区はかなり広い。各部屋の前に立ち、耳を澄ますことで中にいるかどうかは判断できそうだが、虱潰しにそれをしていては、日が暮れてしまう。時間は有限だ。
「試しに、やってみるか……?」
ふと、俺はある方法を思いついた。
この広い空間の中で、音が漏れ出ている場所を探す……まるで狩りではないか。一流の狩人は、草が擦れる音で獣の位置を把握するという。
俺にそんな技術はない。しかし、付け焼き刃ならある。なぜなら、俺は覚醒者なのだから。
要するに、細胞分裂の応用だ。この前、暗闇の森で目を慣らすために、視細胞を増やすことを行った。極少量の光であっても、受容する感覚細胞が大きければそれだけよく見える。
であれば、少量の音聞き分けるために、聴覚の細胞を増やせばいいわけだ。皮膚硬化や肉体強化の要領でやればいい。
すっと軽く息を吸うと、瞼を閉じて集中する。今回は耳の奥にある、受容体だ。こまかく言うと、うずまき管の中にある、小さな部屋を増やす。すき間から漏れる音の波長は細かいため、高い音になる。ヘッドホンから漏れる音ってのはシャカシャカ高い音だけだろう? そこに焦点を置くわけだ。
じわり、と耳の奥が熱をもつ。大量のカロリーを消費したことによる熱だ。少しずつ、聴覚が敏感になっていくのがわかる。
話し声が聞こえる。内容はわからないが、どうやら女性のもののようだ。これは違う。
いびきのような音も、それこそシャカシャカといった音楽の欠片が聞こえてくる。どれもお目当ての音ではない。
やはり厳しいか、もしくはここにも居ないのか。
そう思った矢先である。
「――フン」
む!?
「――フンッ」
こ、これは!?
「――フンフンフンフンッ!!」
み、見つけたァ!!
俺はぱっと目を開けると、音の聞こえた方向へと走る。細かいポイントはわからないが、これを繰り返せば確実に居場所を突き止められる。少なくとも居住区にいることが確定したのは、なにより嬉しい情報だ。
やはり、俺の読みは間違っていなかった。あの人は、鍛錬室での鍛錬はしないだろうという、読みが。あの人のことだから、脳の鍛錬うんぬんよりも先に、”日課”をこなしているだろうから。
「このあたりか……」
俺は声の聞こえたあたりで立ち止まると、更に場所を特定するために瞼を下ろす。
その瞬間、バンっと大きな音を立てて、俺は目を見開いた。目の前の開いた扉から、むわっとした熱気が飛び出してきた。
「む、ごぼうか。どうした」
「クロシェル隊長……! 探していました」
俺はようやく、お目当ての人を見つけることに成功した。
「―ーなんだ、そういうことか! いいだろう、日課の筋肉トレーニングも終わったところだ!」
汗をまとい、ややテンションの高いクロシェル隊長は、そう言って俺の要望を引き受けてくれた。
コージの待つ鍛錬室まで案内すると、隊長は首をかしげた。
「何だ? このスポンジは」
「この人が、さっき言ってた世界政府の要人です」
スポンジとは、可哀想に。もやしよりもスカスカじゃないか。まぁ、覚醒者ではないし、年齢的にも仕方ないか。
「む、そうか。それは頭の中だけ金の玉なのも頷ける」
「へっ? ほ、ほぉ」
金って、うってかわって凄い密度だな。最高の褒め言葉に等しい。
しかしまぁ残念なことに、よりにもよって金玉である。
かくいうコージは、気持ちよさそうに鼻風船を膨らましている。鍛錬室にはリラックス効果があるんだったっけな。
「おい、おっさん、そろそろ起きたらどうだ」
「……ふぁ?」
両肩を軽くゆすってやると、鼻風船はパチンと割れ、コージはうっすらと目を開けた。
「ひっ!? 巨人!?」
コージは目を覚ますや否や、そう叫んでイスごと後ろに倒れた。
気がついたら目の前に筋肉もりもりのナイスガイが立ってるんだ。気持ちはわからんでもない。
「紹介するよ、この人は――」
「戦神クロシェル」
俺の言葉をさえぎるように、コージはひっくり返ったまま言った。
「かつて世界政府の一個小隊を一人で蹴散らしたというデータがあった。まさか本物に出会えるたぁ、ひっくり返っちまうぜ。よっと」
コージは勢いよく起き上がると、クロシェル隊長に向けてニッと笑った。
「で、協力してくれる人ってのはまさかこいつだってんのか?」
「そのまさか」
「へっへ! すげぇな青年! こんな大物に手伝いを頼めるなんてなぁ、オイラのモチベーションがぐんっと上がったぜぇ」
脇に立って腕組みをしているクロシェル隊長は少し目を伏せながら言った。
「こいつには、恩があるからな……。それに、俺個人としても、興味がある」
「へっへ、そうかい!」
コージは上機嫌な様子で、イスに深く腰掛け直した。テーブルに置かれたクーラーボックスから氷を掴んで口に放り込む。
「さ、時は有限だ。さっさと入りな」
――時は流れ、2週間が経過した。
あれから俺はコージとクロシェル隊長と共に”傲慢”のメカニズムを解明するべく、秘密の鍛錬を行った。
成果は……上々と言っていいだろう。長所も短所も見つかったが、能力を理解できたのは大きい。
何よりコージも上機嫌だったし、クロシェル隊長も満足気にスクワットをしていた。
「フンフンフンッ! しかしまぁ、この俺にはあまり通用しない力だな! 地が違う! 我が部隊とあたらんことを祈るぞごぼうよ!」
クロシェル隊長が告げた最後の言葉。正直、今も気にしている。
そもそも、チーム戦と告げられているが対戦相手は今だ未公表。この支部の遠征部隊と戦うとしたら、そこそこの確率でクロシェル隊と当たってしまう。
正直、それはやりきれないな。できることならば、お互いいい成績を残し、認められたいものだ。
「そう悩んでたってしょうがないじゃないっ!」
バンッとロズが俺の背中を叩く。
「エル君にはエル君のできることを精一杯やればいい! ……きっとテラがここにいても、同じ事を言うよ」
「……ああ、そうだな」
ロズに気付かされた。そう、俺はテラを助けるために、ここまでやってきたんだ。相手が誰だろうと勝ち進み、選抜されなければならない。対戦相手に憂いでいる場合じゃないな。
「ふぁーあ。ま、なるようになるだろ」
グリドはいつものように大きな欠伸をして見せた。こいつは何も変わらないな。
秘密の鍛錬を終えてからは、グリドとロズでチーム練習も行うことができた。付け焼刃だが多少の連携等はできるようになったし、実践で俺の能力が有効であることも証明できた。
やることはやってきたんだ。彼の言うように、なるようになる。
今俺たちが立っているのは、地下の研究施設の一画である。この選抜試験に向けてか、期間中は立ち入り禁止区画になっていた。各部隊はそれぞれの時刻になるとこの場所に案内され、電脳結合会場へと進む。
「さてぇ、時間だぞおめぇら。今からこの扉の奥へと入ってもらう」
壇上に立つギガ支部長が定刻をそう知らせた。指示通り、俺たちは開く扉の中へと足を踏み入れる。
中には、人が一人入れるようなカプセルがびっしりと並べられていた。いくつかはすでに人が入っているようで、赤色のランプが点灯している。
「どーうですか! これほどの装置をものの二週間で完成させたのです! 驚いたでしょう!」
「ディスパさん」
研究員であるディスパさんは、驚く俺たちの顔を見て誇らしげに言った。
「なぁにいってんだおめー。オイラのアドバイスなしにゃぁ1%も完成してねぇだろ。ひっひ」
「う」
脇からひょこ、とコージが現れた。しばらく見なかったものだから、本部へ向かったのかと思ったが、ここに居たのか。
「こほん。ともかく、この装置はすごいものです。今から皆さんに体感していただきます」
「どうすればいいの?」
「簡単です、このカプセルの中に入り、中にある2つのコードをこめかみのあたりに繋いでいただければ準備完了です」
「おっけー!」
ロズはディスパの説明をきくとすぐさまカプセルに飛び乗った。するとカプセルの蓋が煙を噴出しながらゆっくりと閉まる。
「電脳、っつーわけだから、ここから結合会場できるってわけか」
「ご名答です。電脳、とはすなわち人工的に作られた脳。より多くの覚醒者が同時に結合できるように開発されたシステムです」
「考案者はもちろんオイラ。へっへ。こいつのすげーところはそれだけじゃねぇ」
コージが鼻高々に語ろうとするのを、ディスパが手を出して止める。
「申し訳ないですが、次の部隊の時間もありますので、中で説明しましょう。と、いっても入ればそのすごさがわかるでしょうが」
「ちぇ」
俺たちはディスパに促されるまま、ロズを挟むように両隣のカプセルに入った。少しドキドキするな。2つの吸盤のような装置をこめかみにつけると、全身の力を抜いて目を瞑る。
「では、グリド隊、結合します」
ディスパの声が聞こえたのを最後に、視界が暗転した。
「――っ!?」
びりっとした感覚と同時に、俺は目を開けた。広がっている景色は、ホテルのロビーのような感じだ。支部の大広間と大差ない。
「電脳結合会場ってのが、ここなのか?」
「らしいな、見ろ」
俺の独り言に対して、いつの間にか隣に居たグリドがそういって指をさす。
その先には、大勢の覚醒者が部隊ごとに並んでいるようだった。にしても、多い。支部にこんなにも覚醒者がいたのか?
「知らない顔がたくさん。本当に覚醒者の集まりなのかな」
ロズが知らないとすれば、もしかしたら違うのかもしれない。しかし研究員にしては姿格好が異様だ。明らかに戦闘できるタイプばかり。
「なるほどな、そういうことか」
「? わかったのか、グリド」
グリドは頭をぽりぽりと掻きながら、ゆっくりと呟いた。
「以前遠征中に会ったことがあるやつがいる。あいつは別の支部の覚醒者だ。おそらく、ここには他の支部の連中もいる」
「……!!」
別の支部の、覚醒者!? どうりでこんなに人が多いわけだ。にしても、どうやって……?
「電脳ってすごいね~! わくわくしてきた!」
ロズは能天気にぴょんぴょんとその場を跳ねている。やめてくれ。いろんな人の視線が集まっているぞ。
しかし、電脳、か。実際の脳に結合するわけではないから、インターネットのように、あらゆる場所からアクセスできるってことか。これは確かにすごいシステムだ。テレビ電話やホログラム通話なんて目じゃない。実際に会うのとなんら大差ないのだから。
「本部の人間もいるな。この選抜試験、熾烈なものになりそうだぜ。それだけに、今回の作戦に気合が入ってるってことだ。最終決戦も、近い」
グリドがめずらしくきりっとした顔をしている。戦闘中以外は気だるそうな感じをしているのがいつもだが、今は違う。
グリドをそうさせる、本部の人間か。支部の覚醒者よりも、実力者が集まっているのだろう。
ん? 本部?
「きゃぁ、見て! ご登場よ!!!」
どこからか、歓声が沸きあがる。一体何が現れたってんだ。
さわつく人ごみの先に、何かが浮いている。何だ……? あれは、人?
「やぁみんな、ここはすごいねぇ、電脳結合なんて、よく完成できたもんだ」
宙に浮いたその人は、柔らかい声でそう言った。後姿で顔が見えないが、聞き覚えのある声だった。
「くんくん……この臭いは」
その人は何かに反応し辺りを見渡している。
「まさか……」
左右を見て、最後に振り向く。その瞬間、目が合った。
「はっはっは! 見つけたぞぉ、エルぅ! でかくなったな!」
そいつはまるで瞬間移動したかのように目の前に現れ、にこりと笑って俺の頭に手を置いた。
「父さん……」
父親、シン=オールドクライムとの再会だった。
師走師走。年末年始執筆がんばるぞいっ




