第三十三話 「切られる火蓋」
「ふむ……肩の周りが少々悪いな。柔軟性が低下したか」
目の前に現れた戦神ことクロシェルは、自分の肩に手を当ててぐるぐると回してみせる。
ちら、とこちらに目線を向けると、肩の動きをピタリと止めた。
「元もやし……5文字では長いな。ごぼうよ。それ以上は進むべきではない」
「ご……」
ごぼうって。もやしよりも数センチか太くなった。それだけ密度が上昇したってことか。
にしても、それ以上、ってのはどういうことだろう。
「今お前がやろうとしていたこと、それは脳の上級解放だ。それまでに溜まった脳の疲労を一時的に麻痺させ、中級までとは比べ物にならないほどの力を得られる。だがそれ相応の副作用が生じるのだ」
「なるほど……」
あの感覚は、脳の許容量拡大だった。たくさんの映像が流れ込んできたことからも、そうだろう。それ相応の副作用か……
「特に日が浅いお前にとって、あの副作用は計り知れないものになるやもしれんからな」
「わかりました。ちなみに、上級の副作用ってのは――」
――バゴォン!!!!!!!!!!!!
俺がそう質問をしようと思った時、彼方から爆音が響いた。それは先ほどクロシェルがマリスを吹き飛ばした方向からであった。
「いったぁい……」
激しく舞った土ぼこりの中から、マリスがのそのそと現れた。腹に手を当て顔をしかめている。相当なダメージがあったようだ。
「――うふ、うふふふふふ♪」
突如、マリスは不気味な笑みを零しながら、こちらへと歩みを進めた。一歩、一歩と近付いてくる。
彼女の表情は笑顔の仮面が張り付いたように変化がなく、吊り上がった口元に不気味さがにじみ出ている。
やがて、がくがくと震えているバイオスの傍で立ち止まると、彼を見下ろした。そこでバイオスは少し安堵したかのように頬を緩めると、こちらをきっと睨んだ。
「くっくっく、そぉうだ! 私にはまだコイツがいる! 貴様らにはコイツの真の強さがわからんだろう!? いいか、コイツはかつて――」
ブシュ。
バイオスは言葉を止めた。血が上った高慢な顔面にいくつもの血管が浮かび上がる。口から漏れ出したのは言葉の続きではなく、鮮血であった。
目を疑った。俺はもちろんのこと、クロシェルもその場を動いていない。なのにバイオスは苦しそうにその場に倒れこんだ。
あろうことかマリスは、雇い主であるバイオスの胸を貫いたのだ。その刃はバイオスの胸の中心を深くえぐっており、うつ伏せになったその背中から血が溢れ出している。
「あらあら、おもらしかなぁ? 恥ずかしいでちゅね、恥ずかしいでちゅ。かわいそうちゅね~。殺してあげまちゅ」
その狂気そのものとも言える言葉を吐き捨てながら、マリスはもう一度にこりと微笑んだ。俺の背筋はそろって冷たい悲鳴をあげた。
「……なにをしている」
クロシェルは直立したまま、マリスを睨んだ。ん、とマリスが顔を向けると、彼女は三度微笑んだ。
「なにって、火蓋よぉ? この行為の意味が、わかるでしょう、センシンさん」
「火蓋……? まさか!」
マリスとクロシェルの会話の真意をつかめずにいた俺は、思わず視線をバイオスにうつした。
彼は世界政府の役人。自身に武力を持ち合わせてはいなかったが、政府の中でもかなりのエリートであることは予想していた。
「ぐっ」
するとその瞬間、バイオスの体が脈打った。どくどくと流れ出していた血液はやがて止まり、空けられた風穴は急速に塞がっていった。
「な、なんだ!?」
「やはり仕込んであったか。あれはIPSRAだ」
クロシェルはその現象を見て、語った。
「IPSRAは、人工多能性幹細胞再生装置の略称だ。IPS細胞くらいは知っているだろう。その万能性と、世界政府の擁する科学技術でつくられた救命装置だ。
致命傷を受けると起動し、大量のIPS細胞が傷口などの痛んだ組織を修復し始める。見ての通り、胸に風穴が開こうとも、それを修復しきるほどの優れものだ。
IPSRAの存在は諜報部隊の調査で明らかにされた。どうやら世界政府の役人や一部の軍人はこの装置を体内に埋め込んでいるみたいだな」
「くっくっく……、よく、調べているのですね……革命軍は。想定外ですよ……」
バイオスはむくりと体を起こすと、息も絶え絶えにそう語った。傷は塞がっているが、痛みなどのショックで意識が朦朧としている様子だ。
マリスはバイオスの姿を変わらぬ表情で見つめていた。バイオスは震えていた。先ほどの震えとは違う……そう、目の前に自分を刺した女が笑っているのだ。
一思いに死ねればいいものの、もう一度与えられた命のせいで、見てはいけないものも見えてしまう。
「マリス、今の行為を咎めることはしません……だから、お願いです……その目で、私を見ないで欲しい……!」
「やだよぉ。それって、命令じゃなくてお願いでしょぉ? 私は、もう始めたいのよぉ」
マリスは手元で鎌をくるりと一回転させると、嘗め回すような目でバイオスを見た。頭、首、体、そして汚物と血液で汚れた下半身を見、そしてもう一度顔を見た。
「む、無駄ですよマリス! 私にはIPSRAがある、殺せない。そ、それに私をこの場で殺すことの意味がわかってるのですか!?」
バイオスは震えながらも手足を必死に動かしている。少しでもマリスから距離を取ろうとしている様子ではあるが、なかなかうまくいかない。
「もう、無茶苦茶だよねぇ。殺せないのに殺したら大変なの? ねぇ、殺せないの? 殺せるの? マリスぅ、知りたいなぁ?」
マリスは鎌をもう1回転させると、その切っ先をバイオスの首元につきつけた。バイオスはひぐっと息を飲み込みながら喉をすぼませた。顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃである。
「そういうことか……! やめろ、殺すんじゃない!」
「止めないで」
何かに気付いたようにクロシェルは手を伸ばした。だが咄嗟にマリスは空いた手から粉のようなものをばら撒いた。奴は”嫉妬”の覚醒者である。流石のクロシェルも毒を警戒し、すぐさま腕をひっこめた。
「こぉんな素敵な表情をしているんだから……水をささないの! 死に直面した、高慢な男の顔……あぁ~濡れちゃう」
「ま、マリス……や、やめなさい! これは命令だ!」
「命令? あは」
ザシュ。
「ごめんね、命令もきかないの。気が変わっちゃった。もう、あなたの部下ごっこはおしまい……、うふ、うふふ」
ゴト、とバイオスの頭だけが地面に転がった。その目はマリスを見つめていた。救われない、救いを求めるような目で。
「ああぁ~~~~最ッ高!!」
マリスは足をがくがくさせながら、仰け反るように体を硬直させた。
IPSRAは機能しなかった。それもそのはずである。体と頭が切断されたのだ。致命傷というレベルじゃない。即死だ。
バイオスの目は、そのまま光を失った。
「まずいな……もう、後には引けない」
クロシェルは呟いた。
この場所で、このタイミングで、バイオスが死ぬということ。
マリスが言う、火蓋の意味。俺にはまだ掴めないでいた。
「あなたがわるいの。センシンさん。あたしをこんなにして……感じさせるから、歯止めが利かなくて」
マリスはクロシェルに腹を見せた。クロシェルの拳がめりこんだはずの腹。なのに、何も無かった。あれだけの拳を受けたはずなのに、傷一つ、ない。
「いいものをもらったわぁ、センシンさん♪ また会いましょう」
ひらひら、と手を振ると、マリスは踵を返した。
「な、どこへいく!」
俺は思わず声を出した。引きとめる理由も無いはずなのに、むしろ去ってくれて嬉しいはずなのに。
「――アルギエバ様のとこへ戻るのぉ」
「な」
――今、何て言った。アルギエバ? あの大男? なぜこいつから、その名前が?
……考えるまでもなかった。つまりこいつは、アルギエバの居場所を知っている。
世界政府でも捉えられない男だぞ。その男の下へ戻るというのだ。
……つまりこの女も、”必要悪”の一員だということだ。
俺は二の句を告げることなく、押し黙っていた。クロシェルも何かを思うように、去っていくマリスの背中を見ていた。
「ひとまず戻るぞ。そこの岩陰に隠れている奴も連れて行くのか」
「ひっ」
コージは声を上げて驚いた。
おっさん、逃げたかと思ったらそこにいたのか。
「あ、はい一応。なんせそいつはさっきまで……」
あれ。
「せか……」
視界が、ゆがむ。
クロシェルに助けられて、安心したからから、か?
それとも……。
「い」
俺は気を失った。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ぱっと目を開いた時、そこには見知らぬ風景が広がっていた。
手足を動かすことができないどころか、全身の感覚が無い。
俺は察した。
思ったよりも重症で、死んでしまったとか、そういうのではなく……ここは、大罪因子に刻まれた過去の記憶だ。
シエルは前にも見た家屋にいるようだ。窓の外の景色は前と変わらずすさんでいる。
どすどすと大きな音をたてながら、どっぷりと脂肪を蓄えた男、ボリウムが近付いてくる。
自らの命を諦めてからか、ボリウムの瞳には生気が見られなかった。ただコンピューター上ではじき出される現実をシエルに伝える役割をこなす。
「Xデーまではあと6日だ。残された衛星からの情報によると、オセアニアも沈んじまったようだ。
新しい大陸が生まれてきてる――っつっても、マントルの表面だけが冷えて固まっただけの状態だ、生物が生き残れる環境じゃねぇけどな」
「だろうな……もう限られた場所以外は暮らせないだろう」
どうやらシエルは初めからわかっていたようで、動揺する様子は見られなかった。
前回の記憶から推測するに、どうやら地球は大規模な地殻変動を起こしているようだ。オセアニアってのは大陸の名前だろう。その大陸が、沈むほどの地殻変動だ。空の色も変わってしまうのも頷ける。
「で? どうするよ。アレに勝てる算段はついたのか」
「勝つんじゃない。認めさせる、だ。これはそういう勝負だ」
大真面目に語るシエルを見て、ボリウムはぷっとふき出した。
「結局勝つんじゃねえか。で?」
「算段は、ないわけじゃない。でも保険をかけておこうと思う」
「保険?」
「俺達はもう、負けたら滅亡、背水の陣だ。アレはまた新しいゲームを始めるだろう。だからこそ、次のヤツらのためにヒントを残してやりたい」
「ヒントぉ? なんだ、本でも書くのか? 書物なんて到底残らねーぜ。燃え尽きて終いだ。昔は水に沈めて保管する方法もあったみたいだが、湖なんてもんはねぇぞ」
「まてまて、誰も本なんて書くなんて言ってない」
「じゃあどうすんだ? 電子メモリ? 文明が追いつくまでに劣化してしまいだ」
矢継ぎ早に会話が進んでいく。どうやらシエルたちは何かと戦っている様子だ。
「ここに刻む」
「は? 頭?」
「正確には遺伝子に、だ。得意だろ、そーいうの」
「遺伝子に……? んなもん到底無理だろ。大体俺達は死ぬんだぜ? 遺伝子なんてものは残らねー」
「体から出せばいい」
「……!!」
ボリウムはその言葉を聞いてガタンと椅子を鳴らした。
「おめー、それ知ってていってんのか」
「具体的な方法は知らないさ。俺は思いつくだけ。そこからはボリウムの十八番だろう?」
シエルはまっすぐにボリウムを見つめて口元を吊り上げると、ボリウムはチッと舌打ちをして、何かを考え始めた。おもむろに机上のペンを器用に回転させる。
「けっ。てめぇーで冥土の土産用意することになるとはな!」
タン、とペンを机に叩きつけると、ボリウムは立ち上がってシエルに一枚の紙切れを渡した。
「早速とりかかる。プログラムを組み込むにあたっていくつかルールを決めておきてぇ。必要だと思うのを紙に書いてくれ」
「ひとつ考えてるのはさ……」
ドゴン、と大きな雷が落ちる。
「はーそりゃいいね。じゃ、とりあえず血液採取しねぇといけねえな。そっから――」
忙しそうにキーボードを叩くボリウムの姿は、生き生きとしていた。
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「ここは……」
「医務室だ。革命軍支部のな」
目が覚めて聞こえてきた声は、クロシェルのものだった。
改めて周りを見渡す。窓一つなく空調が完備された空間。天井のタイルは見慣れたようなヒビが入っていた。
どうやら俺は無事に帰ってこれたようだ。クロシェル隊長の助けがなければ、俺はダメだったな。この人には感謝しなければ。
「そうだ! 他のみんなは!」
がばっと身体を起こすと、頭痛が走った。脳の疲労は完全にとれていないようだ。
「案ずるな。無事だ。ネイヴィとロズは隣で休んでいる。どちらも一命は取り留めた。グリドは俺が戻った時にはいなかった。目が覚めてどこかへ行ったのだろう」
クロシェルは俺を横目にそう語った。右腕には巨大なダンベルが握られている。数字は……俺の体重くらいだ。
「テラはどうなった。知っているのはお前だけだ。まさか記憶を失っていないだろうな」
「あ、はい……覚えています。実は……」
俺は山岳で起きた出来事を事細かに話した。
「そうか……グリドが瀕死の2人だけをつれて帰ってきたときは、ある程度覚悟をしていた。しかし、よりにもよって必要悪に、か。ギガも浮かばれんな」
俺は思わずむっとした。俺の中では、テラは助けに行けばなんとかなるって思っている。まるで命を落とした言い方をされたのが、気に食わなかった。
「そんな顔をするな。事態が急転した」
「なにかあったんですか?」
「お前も見ただろう。あのマリスと呼ばれる女がした行為を」
脳裏に鮮明に浮かび上がる。マリスの不気味な笑顔と、その奇行。だが未だにそれの意味することはわかっていなかった。
「いいか、わからないようなら教えてやる。あの場所にいたのは世界政府の役人と、革命軍の俺たちだ。役人はお前を捉えに来ていた。だがそこで命を落とした。
護衛も行方不明になった。政府にしてみれば、これをどう捉える?」
少し考える。すぐに答えは出た。
「俺が……革命軍が、役人を返り討ちにした?」
「そうだ。この記事を見ろ。ほんの数時間前の出来事なのに、この騒ぎだ」
クロシェルは手元にあった電子端末をぽんと俺の目の前に放った。そこに表示されていた大きな見出しに、俺は動揺を隠せなかった。
「――反逆の……テロリスト??」
そこに書かれていたのは、世界政府が犯罪者集団に攻撃を受けたという記事。役人が護衛もろとも殺されたと記してある。
「教わらなかったか? なぜ我々革命軍が、直接武力を持って政府を倒せないか」
確か、革命軍の目指すところは俺たち”犯罪者”と一般の人たちが理解しあって平和に暮らせる世界だ。
武力を用いて世界政府を倒したとしても、そのあと理解しあえることはない。テロリストと人は分かり合えない。
「そう、俺達は小競り合いを起こそうにも、決して武力制圧はできなかった。ましてや、役人の命をとることなど、到底な」
「その超えてはいけない一線を、あの女は故意に超えた。いや、超えさせた。俺たち革命軍は、犯罪者集団に成り下がった」
すべて繋がった。マリスは、俺たちが恐れていたことを、やってしまったのだ。それが”火蓋”の意味。
世界政府はこれから革命軍を潰すために動き始めるだろう。一般人も味方についている。俺たちの立場は限りなく悪い。
「んな、バカな……じゃあ俺達はこの後どうやって……」
「落ち着けごぼう。その先の方針を決めるために、本部と支部長による緊急会議が開かれたばかりだ。もうまもなく、新たな方針が打ち出されることだろう」
動揺する俺をクロシェルがなだめる。たしかに、下っ端の俺が動揺していても仕方が無い。俺たちの行く先を決めるのは、親父や、支部長たちだ。
「見ろ。丁度始まる頃だ。モニターを見ろ」
クロシェルが指さした方向には、小さなモニターがあった。病室に設置してある感じの、小さいものだ。
小さいが音声はしっかりと聞き取れる。大広間でやっていることも察することができた。前にあった、朝礼みたいなものか。
「あー……元気にしてるか野郎ども。急を要する事態になっちまったなぁ。まぁ、落ち着いてよく聞け。記事で確認してるとは思うが、もう革命軍としての活動は最終段階まで来ている。
世界政府もこれから対革命軍の動きを見せるだろう。今までのように、諜報部隊をつかって情報を得るのも難しいだろう。侵入済みだった仲間たちは、すでにやられちまってる……。
もう、後ろにはひけねー。新たな方針を示す」
ごほん、と一度咳き込むと、支部長は大きく口を開いた。
「――全面衝突だ」
支部長がそう言い放つと、その場は大きな声に包まれた。動揺する声もあるが、圧倒的に雄叫びの方が多い。
おそらく、世界政府に恨みを持つ者にしてみれば、直接やつらを叩けるのは嬉しいことなのだろう。
「いいか、俺達は世間では犯罪者集団だ。このレッテルはどうしようもねぇ。ここで政府の悪事を暴露しようが、戯言に過ぎねぇ。
だからこそ、直接叩く。奴らの真の目的を暴き出し、証拠を晒す。勝機はそこしかねぇ」
支部長は更に続けた。
「おめーらもわかってるとは思うが、先の犯罪者狩りは、治安の為なんかじゃねぇ。俺のような覚醒者を集め、人工的に増やすなんざ、ろくな話じゃねぇ。
長年謎だった不可侵領域の件もある。奴らは何かを隠してる。決して表に出せねぇような、何かをなぁ! ……今回はそれを暴く。事態は思わぬ方向に急転しちまったが、こっちも政府の秘密を握るキーカードを手に入れてるぅ。まずはそこから情報を引き出そうと思う。おめーらは、大規模遠征の準備を進めろ!」
キーカード。
あ、あいつか。ドクターコージ。世界政府の情報を握っているとしたら、あいつしかいねぇ。
まずはあいつから話を聞こうっていう話か。
しばらくしたら、革命軍は大きく動き出す。
世界政府との全面衝突だ。俺たち覚醒者が、この戦いの鍵を握るだろう。これからもっと鍛錬を積んで、強くならなければ――。
って。
ちょっと待ってくれよ。違うだろ俺。
ギリ、と歯を食いしばる。
俺は何のためにここに戻ってきた? 革命軍の駒として、また使ってもらうため? ちげぇだろ。
……テラを救いに行くためだ。
あいつを、”必要悪”から取り戻したい。グリドや、ロズたちの力を借りて、あいつを助けに行きたい。
なのによ。
革命軍として、世界政府に立ち向かう。わかるよ。だってずっとそれを目的に活動してきたんだ。それをおろそかにしちゃいけないと思う。
でもよ、どうしてもひっかかってしまうんだ。たかが親友の俺でさえ、助けなきゃ、って思ってるんだ。おかしいだろ?
――息子が、攫われてるんだぜ?
目が覚めてから、この事実を話したのはクロシェルだけだ。
だけど、グリド達が帰還してから、テラが戻って来れないという最悪な事態であることはわかっていたんだろう。
きっと、それを受けてクロシェル隊長を送り出したんだと思う。だからこそ俺は助かった。
だけどさ、帰ってきてないだろ?
結局、あんたの大事な息子は帰ってきてないだろ?
なんで助けに行こうって言わない?
なんで助けに行けって言わない?
そうですか残念でした、はい次いきましょうで済む話じゃねぇだろ。
「自分の息子がどうなったって、組織が優先なのかよ……」
俺は思わず言葉を漏らした。
ふつふつと、怒りのようなものが沸いてきた。
俺は、我慢ならなかった。
「隊長、ありがとうございました。もう大丈夫です」
「む? そうか」
ズキリ、と頭が痛む。大丈夫なわけが無かった。おかしくなりそうなぐらい、体が悲鳴を上げている。
でもここで行動を起こさなかったら、もっとおかしくなってしまうと思った。
思ったから、行動を起こす。
もう一度歯を食いしばると、俺は病室を飛び出した。
――その方が、エルらしいよ。
そんな声が、聞こえた気がした。




