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気づいたら犯罪者だった  作者: あいしぇいと
第三章 遠征
33/46

第二十九話 「憤怒と憤怒」

「包囲を進めておけ。もっとも、入り口はここしか確認されていないが、万が一もある」

「にしても、かなり遅くなっちまったねぇ……十中八九、犯罪者どもはここへ逃げ込んでる……」


 棘路の山岳の入口。そこに付けられた世界政府の軍機から、1組の男女が飛び降りた。

 紫の長い髪を後ろで結んだ眼鏡の男、そしてブロンドの髪をもつ、背の高い女である。

 どちらも白い軍服を纏い、山岳を見つめている。


「おいおぃおふたりさん。こんな山を登れってかぁ? こちとらちょいと走ったもんで足が痛ぇんでさあ」


 ひょい、と1人の中年が軍機から顔を出した。彼は数人の軍人に囲まれ、拘束されていた。


「困りますよ博士。スポットの研究は進めてもらわないと」

「だいたい博士が逃げ出したんでしょ? 余計なことさえしてなけりゃー今頃足なんて痛めてないわよ」


 振り向いた男女は博士と呼ばれる中年を見ては表情を歪めた。

 中年は辛うじて動かせる肘から先を器用に動かし、小指を耳に差し込んだ。


「あーあーだから博士って呼ぶんじゃねぇよ胸糞悪い。

 ハカセだなんて小学生のあだ名みてぇじゃねえか?

 つーかこの拘束とれねぇもんか? 満足に耳掃除もできねぇ」


 ガチャリガチャリと鎖がこすれ合うような音をたてて中年はため息をついた。


「また逃げ出されても困るので」

「だから足いてぇって言ってんだろう? まともに走れないやつがどうやって逃げるってんだぁ」


 眼鏡の男はやれやれ、といった様子で、中年の下まで歩くと中年を見て言った。


「博士が山岳を登ると約束してくださるなら、ソレは外しましょう」

「あー……それじゃあ根本的な解決にはならねぇだろ。これが外れたって俺の足の痛みは消えるわけじゃねぇ」

「では、背負って向かえばいいのかな? するとあなたはそれも疲れるというでしょう」


 中年は一度鼻で笑ってから、肩をすくめて言う。


「あーあーあーあー、つまるところだ、オイラは行く気がねぇってんだ。

 スポット理論は伝えてあんだろ? そこらの技術者でもつれてけや」

「あの理論を聞いてそこらの技術者がアレを解読できるとでも?」

「ま、無理だろうなぁ、ひっひっひ。どうしてあんなこともわからんかねぇ」

「それは突拍子が無さ過ぎるからです。誰も理解できるはずが無い。だが疑う余地も無い。実績がありますからね」

「おーおー、最初は異端だとのけ者にしたのに、えれー手の返しようだなぁ。

 ま、悪い気はしねぇなぁ、オイラが特別だってことさぁな。

 ちったぁ機嫌もよくなったってもんよ」


 眼鏡の男はほっと胸をなでおろすような表情を浮かべた。


「では……」

「だが、行くといってねぇ。あの研究は終わった。もう興味がねぇんだ。

 オイラぁお前らの駒になったつもりはねぇ。協力しただけだ」

「ふむぅ……困りましたねぇ」


 中年の変わらない意思に、眼鏡の男は肩を落とさざるを得なかった。


 ――その時だった。

 突如、山岳の中腹から赤い光が同心円状に広がり、数秒後に轟音が鳴り響いたのだ。

 激しい音と共に吹き荒れる風が、あたりの砂埃を巻き上げて軍機にぶつかっていく。


「む、なんですかね、コレは」

「サンクチュアリの中だろ、あそこは。自然現象であんなことおきんのかい?」


 政府の二人はそろってわけがわからない、という表情を浮かべていたが、中年は違った。

 しばらくその光景を見てからふっと笑みを零すと口を開いた。


「……あー、前言撤回だ。オイラをあそこまでつれていけ」

「おや、興味がお在りで?」

「へっへっへ、そうさね。さ、とりあえず外してくれや、コレ」

「逃げ出すんじゃないだろうね」

「オイラの知識を信じてるんだろ? オイラの言葉も信じてくれや、ねーちゃん。オイラは約束は守る。山も登るし、逃げ出したりしねぇよ」

「フ。まぁ、拘束具を外したところで、この状況で逃げられると思わないので、いいでしょう」


 男は一度女に目線をやって頷くと、中年の拘束具に手をかけた。

 鍵のようなものはなく、ただ手をかざしただけであったが、カチャンと音を立てると拘束具は地面に落下した。


「あー……ったく、怒れちまうよなぁ。大事な大事なオイラの肉体をこうも縛り付けるなんてよぉ」」


 中年は解放されると体をぐっと伸ばし、首をコキ、と鳴らした。


「だが怒りって感情はおもしれーんだ。怒りという感情によって脳は潜在能力を発揮する」

「あー、また始まったよ博士。あたしこの手の話パス。シバー、あとはよろしく」


 シバーと呼ばれた眼鏡の男は、もう一度肩をすくめると、博士をエスコートするように歩みを進めた。


「そもそも、ヒトはどういう時に怒るもんだ?」

「……それは、嫌なことをされたとき、とかですかね。特に、許せないようなことだと、自分を抑えられなくなる」

「そう、それだよ、それ。正確には抑えられなくなるんじゃなくて、抑えるんだよ、脳が、能動的にな」


 博士はとん、と指先をこめかみに当てると口角を吊り上げた。


「抑え込むんだ。嫌な感情も、痛みも、理性すらもな」


 怒りは、感情の蓋、とも言われている。怒りという感情の下に、悲しみや寂しさといった本当の感情が隠れている場合が多い。

 多くこの悲しい気持ちや、寂しい気持ちを感じたくないばかりに、怒りが上から覆いかぶさるように感情を支配するのだ。

 時に怒りは我を忘れ、感覚を奪い、一種の覚醒状態に陥る現象とも言える。


「脳が覚醒しているやつに関してはもっと顕著だ。あいつらの体から発せられる赤の波長は、外にある別のモノにも作用し、抑え込むことができる。やられた側はいきなり体が動かなくなるわけだ……まるで運動神経を剥奪されたようにな」


 ほぅ、とシバーは頷いた。彼自身、政府の研究施設で目の当たりにしたのである。

 覚醒者が赤い光を目から迸らせたとき、周囲の動きが停止したのだ。

 憤怒の覚醒者は、その独特な波長の光で神経系に影響を及ぼし、あらゆる神経の働きを妨げることができる。

 言い換えるのであれば、憤怒の能力は”五感を奪う”というものである。


「おい、1足す1の答えはなんだ」

「はい?」

「1足す1の答えだよ。チビんときに習ったろ」


 首を傾げるシバーに対し、中年は指を一本ずつ立てては、ちっちと舌を鳴らした。


「はぁ。2、ですかね? まさか子どもじみた謎なぞじゃあありませんよね」


 ため息混じりにシバーは答えるが、博士は表情一つ変えることなく淡々と答えた。


「0だ。二つの波はぶつかり合うことで無に戻る。相殺されるんだ」


 シバーは波の話などしていなかったと思いながら、もう一度ため息をついた。

 博士のこの論調には慣れていたが、疲れるのは事実だ。

 現にもう一人の女は一切耳を傾けず、欠伸を交えながらも黙々と山岳を登るだけだ。


「だが、場合によっては2になる。打ち消しあうタイミングと、増幅しあうタイミングがある」

「まぁ、そうですね」

「じゃあ、1ですら他の動きを奪っちまえる赤の波長が、2になったらどうなる?」


 シバーはしばらく考え込んだ後、ハッとした。

 先ほど発生した、轟音伴う光。あれは赤色をしていたのだ。


「オイラぁそれが知りてぇ。あそこには憤怒が2人いる。連れてけや。足がいてぇ」

 博士はピタリと立ち止まり、足元を指さした。


「……いいでしょう」


 シバーはこくりと頷くと、すっと背中を貸出した。




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 二つの拳が交わった瞬間だった。赤い光がぶつかり合った拳から広がり、一瞬、その場のすべてが凪いだのだ。

 無音の空間が広がり、急激に気温が下がったことを肌で感じられる。

 ネイヴィ自体、その現象を目の当たりにするのは初めてであった。


「……っらぁ!」


 先に動き出したのはダッドであった。突き出した拳がネイヴィの顔面を捉え、鈍い音をたてた。

 手応えを感じたダッドであったが、その拳が彼女の手によって受け止められていることに気付くと、すかさず振り払って距離をとった。


「鎮静。落ち着いた方がいい」

「るせぇっ!」


 ダッドは耳を貸すことなく、怒りのままネイヴィを殴りつけた。ゴツンゴツンと鈍い音をたてるのだが、どうしてか決定打にならない。


「あ゛ぁ!! どうしてだ! 俺は異能を身につけたハズだ! あの人のように! 岩をも砕く力が!」


 ダッドはそう言って叫び、拳を地面に叩きつけた。

 べコン、と地面が大きくへこみ、土埃が巻き上がった。

 その威力は、見ただけでは計り知れないものを秘めていた。


「なのになんでてめぇには効かねぇんだ!」


 土埃が消えた時、ネイヴィはロズとカストールを抱え、岩陰にそっと寝かせていた。

 その所作には、憤怒の覚醒者としての様相は微塵もない。


「愚問。それは今の私が君よりも強いからだ」

「っ! ざけんじゃねぇ!」


 ダッドはその言葉に拳を大きく振ったが、ネイヴィはそれをしゃがんでかわし、足を払う。

 重心を奪われたダッドは尻から地面に落ちた。


「怒りに呑まれてはならない。怒りは全てを抑え込む。動きも、痛みも、全ての感情をも」

「……だからなんだ」

「君は何のために拳を振るっている? そこを、忘れてはいないか?」

「……弟を殺したお前を殺す」


 ネイヴィは耳に髪をかけて、目を伏せた。


「確かに、私が彼を殺した。だが、彼を追い込んだのは私だろうか」


 ダッドはぎり、と歯を食いしばり言った。


「知れ。怒りが力を発揮するのは、それが正しい方に向いたときだけだ。わけもわからず拳を振るうのは、ごねているのとかわらん」

「――わかってる! わかってるんだそんなこと! だが、体がうまく動かねぇんだ! 俺の体が、俺の物じゃねぇみたいに……お前を殺せって……弟の仇を伐てって」


 ネイヴィは悲しい目を浮かべた。

 ダッドのその姿は、まるで憑依体であったからだ。理性を失い、感情に身を任せ暴走する怪物。

 彼は言葉を交わすことができ、感情や記憶が残されているようだったが、ただそれだけだ。


「あぁ、あぁ。イライラする! いいんだ、これで。まずはお前を殺す……あとのことはそれからだ!」


 ダッドは地面を強く蹴り、ネイヴィに襲いかかった。


「『剥奪(ダイヴェスト)』」


 ネイヴィの目が一段と強く光ったそのとき、ダッドは大きく怯み、その場でよろめいた。


「怒りは視野を狭くする。落ち着いた方がいい」

「るせぇ……見えなかろうが、てめぇがそこにいるのはわかるんだよ!」


 ぶん、ぶん、と拳を大きく振るうも、虚しく空を斬って終わる。

 攻撃をかわされているというのに、一切の反撃をしてこないことに更なる苛立ちを感じたダッドは、自分の腕を押さえて震えながら笑った。


「くっくっく……そんなに俺をバカにして楽しいか? そんなに俺が滑稽か? 逃げ出したあげく誑かされ、力を暴走させ、わけもわからず叫び回る俺が!」

「……」


 ネイヴィは悲しそうな表情を浮かべたまま、押し黙った。ネイヴィは決して馬鹿になどしていない。

 目の前の男は、ただ哀れな逃亡者なのだ。

 この先で一体何が起き、誰に誑かされ、このような状態になったかはわからない。

 ただ言いようのない無力感がネイヴィを襲っていたのだ。

 しかし、視力を奪われているダッドには、何も伝わらなかった。


「見えねぇし、回避するんだよなぁ……じゃあ、こうしてやるよ……」


 ダッドは自らの腕を握る手に力を込め、目を光らせた。

 ぐむぐむと音を立てながら、腕が肥大化する。


「くはっ! すげえなこの異能ってやつは! てめぇを殺したいと思う分には、素直に力を貸してくれる!」


 そう言い終えた時には、ダッドの腕は身長の5倍ほどに膨れ上がっていた。


「よけれるもんならよけてみろよ!」


 ダッドは力強く腕を振りかぶると、地面を抉りながら身体を回転させた。巨大な腕が大地を削り取りながらネイヴィを襲う。

 ネイヴィはちら、と背後を確認してふぅ、と息をついた。


「そっちにはてめーの仲間がいたっけな、らぁっ!」


 ダッドは狙っていた。彼女の動揺を。どれだけ怒りをぶつけても、彼女はそれを抑えつけてしまう。

 だからこそ、同時に狙ったのだ。彼女が大切そうに岩場に隠した、2人の人間を。



 ――だが結果的に、それは墓穴を掘る結果となった。



「……私は、”紺色”が好きでね……より深いほうがいい」

「な」


 十数メートルもあった巨大な腕は地面を削り取り、ネイヴィを捉えていた。

 だが彼女はその細い腕一本で、その進行を食い止めていた。

 その細い腕には無数の血管が浮き出ていたが、ダッドの腕を完全に封じていた。


「静かな色である青に、黒を足していくんだ。深い紺色になっていく。だが、少量の赤を加えることによって、いい塩梅の紺ができるんだ」


 めきめきと、ダッドの腕はネイヴィの手によって軋み始め、ダッドは苦しみに声を漏らした。


「私はとても物静かな方でね、感情表現が苦手なんだ。特に、怒りの感情を表すなんてことが一番ね」


 ネイヴィは俯き、ふふ、と声を漏らした。


「そんな私が”憤怒”の覚醒者だったんだ。おかしいだろう? 現に私は、その能力を存分に発揮できなかった。

 他の感覚は奪うことができても、怒りを攻撃に生かすことができなかったんだ。君がやったような、ね」


 ダッドの体は次第に浮き始めた。それほどに彼女の込めた力は莫大であった。


「だが、……ほんの一滴でよかったんだ。静かな紺に、ほんの1滴の怒りが加わるだけで、私は強くなれる」


 ネイヴィはそういいながら、ゆっくりと顔を上げた。ダッドの目に、彼女の真っ赤に燃える瞳が映りこんだ。


「ありがとう。君の行為によって私は(いか)ることができた。責任をもって君を楽にしてやろう」


 その言葉と同時に、彼女はぐん、と腕を引き、ダッドを力強く地面に叩きつけた。


「かっは……!」


 収縮していく腕とともに、大きく跳ね上がったダッドは、空中で大量の血を吐いた。

 地面に大の字で倒れこんだその時には、すでにネイヴィの作り出した刃が首もとに食い込んでいた。

 じわりと首が熱くなる感覚に、ダッドはすべてを悟り、ふっと笑った。


「なぁ、弟は、どんな最期だった」


 すでにダッドの表情に怒りはなく、唇は力なく震えていた。

 ネイヴィは彼の口から零れた言葉をかみ締めるように、頷いて言った。


「最後まで、兄である君を案じていたよ……」

「あぁ、そうか。じゃあ、はやくあいつの所に行って、安心させてやらねぇと、な」


 ダッドはくっく、と笑みを零すと、瞳を閉じた。

 ああ、と一言付け加えるように口を開いた。


「わりぃ、最後にあんたに言いたいことがあったんだ。今、やっと思い出したよ」


 ネイヴィはぎり、と歯を食いしばりながら、最後の言葉に耳を傾けた。


「あんときは……助けてくれて、ありがとよ」


 ダッドは最後に望みを叶え、塵と化した。

 きらきらと光る粒子を眺めながら、ネイヴィはその場に立ち上がった。


「見事なもんでい」


 直後、ネイヴィの耳に聞いたことの無い声が聞こえた。


「ねーちゃん、どこまで解放してる? ぱっと見三割くれぇか? ん? どこまでいける?」


 現れた中年の男はポケットに手をいれたまま、ずかずかと近寄っていく。


「博士、危険です」

「ああん?」


 脇から手を伸ばしたシバーに舌打ちをすると、博士は立ち止まって口を開いた。


「見ろい、どこが危険なんだ?」


 その言葉を言い終えるや否や、ネイヴィの額に浮き出た血管がブチリと切れ、真っ赤な血を噴出した。

 そのまま、ぐらりとバランスを崩す。


「回収しろ、貴重なサンプルだ」


 シバーはそう指令を下すと、背後から現れた兵がすばやくネイヴィに近付いた。

 倒れこもうとする彼女を掴もうと手を伸ばした、その瞬間。

 パッと辺りが光り、伸ばされた手がぐにゃりと歪みながら減速した。


「触れるんじゃねぇ」


 そこに現れたのは、グリドであった。

 グリドは左肩にロズとカストールを抱えながら、倒れこんだネイヴィを優しく受け止めた。


「お、お、お? なんだこりゃぁ」

「”怠惰”の能力ですね」

「ほぉー、これがなぁ。頭ではわかっちゃいたが、体感してみると面白ぇもんだな」


 博士は目の前に現れた青い髪の男には言及せず、ただその不思議な現象に微笑んでいた。


「さて? 映像記録にもあった、革命軍所属のグリド君ですね? うちのバイオスがお世話になったようで」

「あー、なんだ、あんたの部下かなんかか?」

「同期ですよ。部署は違いますが」


 シバーは眼鏡をくい、と持ち上げてグリドを見る。

 バイオスの失態の件から、グリドとテラの顔は割れている。

 世界政府がその顔を公表しないのには理由があった。


「うちの機密をまんまと盗んでおいて、また目の前に現れますか」

「今回はあんたらには用はねえんだけどな」

「そちらがなくても、こちらはあなたを捕らえる充分な動機があります」


 シバーは手を懐に差し込むと、瞬時に銃を取り出した。


「そこらの銃じゃないですよ? 対覚醒者専用の、特殊銃です」


 パスン、と小さな音を立てて撃ち出された弾丸はグリドめがけてまっすぐ飛んでいく。

 グリドは沈黙したまま、それを胸で受けた。


 ――ガキン!


 その弾はグリドの皮膚に虚しく弾かれ、地面に転がった。


「な……」

「わりぃな、俺の皮膚はちょっと特殊でな」


 グリドはネイヴィを抱えると、にっと笑った。


「ならばこちらは?」


 シバーが呟くと、その瞬間、ブロンドの髪の女がグリドの背後に現れ、橙の光を纏う短剣を突き出した。


「おっとぉ」


 グリドはそれを瞬時に跳躍してかわすと、そばの棘岩に降り立った。


「あらぁ、すごい身体能力だこと。残念ね」


 女はすっと腕を引くと、グリドの方を振り向いて言った。


「ま、こっちは手負いなんで、これで勘弁してくれよ」

「は! 逃がすと思いますか?」

「おいおい、この俺を捕まえるのに躍起になるくらいなら、あいつを捕まえてくれよ」

「あいつ……ですか?」


 グリドはシバーの表情に変化が見えたのを確認して、もう一度笑った。


「山岳の奥に、アルギエバがいるぜ」


 その名前を出した瞬間、シバーは硬直した。

 ぷる、と震えると、ふふ、と笑って大きく口を開けた。


「ふはははは! そりゃあいい! 映像記録を持ち帰るだけでも、大幅な昇進が狙える大物じゃないですか! いい話を聞きました! 私はそちらへ向かいます!」


 シバーはすっと銃を懐に戻すと、髪を乱しながら走り出した。


「テクル! 博士とスポットの方は任せましたよ!」

「えー、なんであたしに押し付けるのよぉ……」


 テクルと呼ばれた女の言葉に耳も傾けずに、シバーは山岳の奥へと姿を消した。


「スポットってどこだっけ。あ、奥? 方向一緒じゃないの。いくわよー博士」

「なんだ、本当に逃がしてくれるのか?」


 山岳の奥を指差したテクルを見下ろすようにグリドは言った。


「別に今回は革命軍を捕らえるために来たわけじゃないし……さっきの不意打ちがだめだったんだもの、あんたは捕まらない」

「ま、そうだな」

「ということで、どうぞご自由に。あ、入り口はうちの兵で包囲してあるけど……ま、てきとーにのしちゃっていいわよ」


 ひらひら、と手を振ると、テクルは博士の背中をどんと押した。


「ってぇ。なぁねーちゃん、革命軍ってのはあんなにおもしれー覚醒者がわんさかいるもんなのか?」

「さぁ」


 二人は兵を引き連れて山岳の奥へ消えていった。


 びゅう、と風が吹き抜ける中、グリドは岩から飛び降り、柔らかく着地した。


(こりゃあ急がないとやべぇな。ロズもネイヴィもあぶねぇ。3人はきちーな。ちび、置いてくぜ)


 グリドはカストールを岩場にそっと寝かせると、山岳の奥をちら、と見た。


「なんとかしろよ、エル、テラ」


 グリドは踵を返すと、そのまま山岳を下っていった。


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