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気づいたら犯罪者だった  作者: あいしぇいと
第一章 覚醒
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第二話 「異形なる怪物」

 俺は言葉を失っていた。

 ケイガクが大きな岩でペレの頭を打ちぬいた。

 ペレは確かに、そのまま床に倒れこんだ。

 死んだと思った。

 あたりまえだ。

 アレで生き残れるように人間は出来ていない。


 なのに。


 ペレは頭から大量の血を流しながら猫背の状態でこちらを見ていた。

 長い髪が顔を覆い、その奥で目が異様に光っている。

 口元からは煙のようなものが溢れていた。


「ば、バケモっ」


 振り向いたケイガクがそう叫んだ瞬間、彼は壁面に叩きつけられていた。


「ゴフっ」


 ケイガクは大量の血を吐き出しながら、そのままずる、と倒れこんだ。


「おいおいおいおいおい」


 動揺していた。

 文字通りバケモノだ。

 なんだこれは。

 人間じゃなかったのか。

 なんだその力。

 その細い腕で、どうやってケイガクを吹き飛ばした? 

 そもそも、何も見えなかったぞ?


「オオオオォォォォォ」


 変貌したペレは、先刻のような巨大な音を漏らしながら少しずつ近づいてきた。

 すでに後ろに退いていたテラを追うように洞穴の出口に走る。

 とにかく、逃げないと!


 洞穴をぬけた瞬間、視界に小さな手が映る。


「うおっ!?」


 俺は瞬時にしゃがみこみ、頭上を手が通り抜ける。

 その手は、そのまま腕ごと洞穴の壁を粉砕した。

 ガラガラと岩が洞穴の入り口を埋めていく。


 うそだろ、さっきまで洞穴の中に居たじゃないか。

 俺は離れるように逃げたはずだぞ。

 なぜ一瞬で俺の目の前にいる?


「エルッ」


 テラはペレの背後から走りこんでいた。

 手に握られたスタンガンがペレに向かって勢いよく差し出された。


 ――バチバチバチッ


 ペレの体に高圧電流が流れる。

 苦しそうな声を漏らしながら膝をついた。


「無事かい? 護身用、持っててよかったね」

「ナイスだ……」


 テラはウインクしながらスタンガンを掲げて言う。

 助かった。


「とりあえず、逃げた方がいいな。洞穴には戻れないし、あの様子じゃケイガクは……」


 俺がそう言っている最中、悪寒が走った。

 振り向くと、ペレが膝をついたまま首を百八十度回転させてこちらを見ていた。


「ッ……! 不死身かよっ」


 その異様な光景に言葉を詰まらせながら後ろに下がる。

 この状況はまずい、絶対的危機。

 俺の脚でも引き離せないスピード。

 大の大人を吹き飛ばすパワー。

 スタンガンも効かない耐久力。

 逃げようにも倒そうにも不可能だった。


「テラ……こういうときはどうする? 得意だろ、状況判断」


 俺は苦笑いしながら言う。


「そうだね、とりあえず、死んじゃう、かな」


 八方塞だった。

 気付いたら犯罪者になり、逃げ回った先でわけのわからない怪物の出現、命を落とす。

 まったく、ろくでもない一日だったな。


「ソレが成れの果てですよ、エル君」


 諦めたかけた瞬間、テラのものではない男の声が聞こえた。


「憑依体、と呼んでいます。君たち犯罪者の、成れの果て」


 その声の主を知っていた。

 俺の家を訪れ、俺を追い詰めようとした男。

 世界政府の人間、バイオス。


「は、意味わかんねえよ。とりあえずなんとかなんのか」


 俺は引きつった笑みのまま、呟いた。

 この怪物がなんだろうが、なんとかしないと死ぬことにはかわりない。


「グリド」


 バイオスは狡猾な笑みを浮かべながら、そう言った。


「うーい」


 どこからか気だるそうな声が響いた。

 直後、上空から垂直に降ってきた男が、ペレの体を真っ二つに割っているではないか。

 ふたつになったペレは崩れ去るように塵と化して消えた。

 倒したのか……?


 その男はしゃがんでいる姿勢からゆっくりと膝をのばしてこちらを振り向いた。

 長身で、青黒い髪をしていた。

 顔には大きめのゴーグルをしており、表情はわからない。

 服装はどうやら軍服のようなものだったが、見たことも無いようなデザインだった。


 何より異様なのは、その腕。

 右の肘より先が、樹木の根が張ったかのような異様な模様が浮き出ており、手より先は鋭い鉤爪と化している。

 それはもう人間のものではなかった。

 この腕で、ペレを斬ったのか。


「帰っていいっすか」


 その男はまた気だるそうにいいながら右手で頭をかいていた。

 気付かないうちに、先ほどまで異様だった右腕が、普通の腕に戻っているではないか。


「君、道知らないから帰れないでしょ。この子たち輸送しないとだめですから、手伝ってください」

「りょーかい」


 バイオスは変わらない表情でその男に指示を出してから、俺たちの方を振り向いた。


「話はあとで、輸送車の中でしましょう。まさか、まだ逃げるおつもりで? これ以上手を煩わせませんよねぇ、犯罪者ども」


 腰がぬけていた俺は、否応なしに従うしかなかった。

 こうして俺たちは、世界政府に拘束された。



 俺たちは揺れていた。

 心情の機微ではない。

 物理的に、だ。


 俺とテラはあのあと降伏し、素直にバイオスについていった。

 利口な子は悪くない、と呟きながら先導していた。

 口と腕に拘束具をつけられていたものの、脚は自由で、バイオスが背を向けていることから逃げることも一瞬頭をよぎった。

 だが後ろであくびをしているゴーグル男の存在がそれを諦めさせた。

 ペレを、あのバケモノを一瞬で葬る未知数の力。

 それを前にして、すべてが無駄のように感じたのだ。


 それから俺たちは拘束されたまま、軍の輸送車に乗せられた。

 輸送車はトラックのような大型のもので、車体の後ろにコンテナがあり、そこに犯罪者を収容するようだった。

 中には誰もおらず、ただ血生臭さがたちこめていた。

 そこからの記憶はなく、気付いたときにはガタゴトとコンテナが揺れる音が聞こえたのだ。


「ェウ」


 すぐ隣から声が聞こえた。

 視線を横に動かすとテラが俺と同様に吊るされていた。

 両腕が頭の上で拘束されていて、正直楽じゃない姿勢だ。

 拘束具が口にもついているため、ろくに会話をすることもできない。


 さて、いまこの輸送車はどこへ向かっているのか。

 隔離、というだけあって犯罪者をどこかに集めている可能性がある。

 世界政府は一体何を考えているのだ?

 俺たちはこれからどうなる?


「これからどうなるのか、と疑問に思っている顔じゃないですか」


 そうやって現状の整理をしている最中、コンテナの扉が開き、バイオスが現れた。

 コンテナの扉の一方は車内に繋がっているようだ。


 俺はバイオスを睨んだ。

 あの状況、ペレが怪物と化し、生命を落とすかと覚悟したその瞬間、バイオスの登場によって救われた。

 恩人と言えばそうなのだが、この狡猾なツラをした野郎がどうしてもいけ好かないのだ。


「いろいろ聞きたいことがあることでしょう、あなた方には特別対応です」


 バイオスはにやりと笑いながら俺達の元へ歩を進めると、口元に手を伸ばし拘束具を外した。


「ップハ!」


 言葉が発せないほどにきつく締められたそれが外れた瞬間、大きく息を吐き出した。


「意外と、紳士的なんだね」


 同様に口元の拘束具が外されたテラが呟く。

 俺たちにとって、このバイオスがなにを考えているか掴むためにも、言葉は必須だ。

 犯罪者であり世界政府にとっては敵対する存在である俺達に、それを許すというのは、紳士的、と表現するのに値するかもしれない。


「いえ、どちらにしろ説明する義務が生じているのですよ。無論、本来ならば拘束を続けたまま一方的に話をするものなのですが」


 バイオスは口元を吊り上げながら続けた。


「この私の手からここまで逃げ仰せたことに敬意を表してのことです、ふふふ」


 不敵に笑いながら俺達に背を向ける。


「さて、業務なのでこれからの君たちがどうなるのか、話させていただきますよ」


 バイオスは振り向いて言う。

 世界政府の隔離政策とやら、具体的に犯罪者を捕らえてどうするのかが肝だ。


「あなた方は、今回の声明に何を感じましたか?」


 バイオスは気味の悪い笑みを浮かべたまま訊いてきた。


「もちろん、スケールがでけえな、と思ったさ。同時に無理があるだろうとも思ったね。まさか自分が犯罪者だとは思ってもなかったしな」


 俺は答えた。


「世界政府のやり口には辟易さしていたところだよ。まさか自分がそのやり口の対象になるとは思っていなかったから、尚更さ」


 重ねるようにしてテラが続けた。

 声明を聞いた瞬間、そう感じたのは事実だ。

 何度も言うが、実際に犯罪をした、しないに関わらず、その恐れがあるという時点でその対象を隔離するというのだから、驚く他ない。

 まさか自分が犯罪者であるとは思っていなかったから、一層だ。


「それが当然の反応なのかもしれませんね。しかし物事には必ず隠された理由があるというもの」


 バイオスは息をふぅと吐いてから言った。


「なんだ、また自分たちを正当化するための言い訳か?」


 俺の言葉に、ピクリ、とバイオスの眉が動くのが見えた。


「正当化……とは?」


 バイオスは微笑んだまま首を傾げる。


「自覚してねえのか? 多くの血を流しておきながら平和のためだといつも言ってるじゃねえか」

「はぁ、またそれですか」


 俺の世界政府に対するマイナスのイメージに、バイオスはやれやれ、といった感じで、歩み寄ってきた。


 ――ゴスッ


 鈍い痛みが走った。喉もとに熱いものが上がってくるのを感じた。


「エルッ」


 テラが案ずるような声を上げた。


「聞き飽きたんですよねぇ、貴様ら犯罪者どもの戯言は」


 もう一度、バイオスの膝が俺の腹部にめり込んだ。

 喉で留まっていたソレは勢いよく口から飛び出し、床を赤く染めた。


「その口は、戯言を言わせるために開放したんじゃないんですよ。立場をわきまえなさい」


 変わらない口調。

 変わらない表情。

 痛みを覚えるまで、何をされるか読めなかった。


「テラ、気にすんな……」


 軽く唾を吐き出しながら言う。

 無様にも抵抗できない状態で相手を挑発したのがまずかったな。

 このバイオスとかいう野郎は、表向きはにこにこと何を考えているかわかったもんではないが、暴力的な一面があるようだ。

 何が特別対応だよ。

 紳士撤回。


「犯罪者どもと私たち健全な人間との違いは単純なんです」


 バイオスは俺から距離をとりながら、口を開いた。


「犯罪者は総じて理性が壊れているのです」


 理性。

 感情や欲求に流されることなく、状況に応じて自分をコントロールする力。

 古くから人間と動物を区別する能力とされてきたものだ。


「お金が欲しい、何か食べたい、恋するあの子を手に入れたい……欲求なんてものはね、誰しも抱くものなんですよ」


 バイオスはそう続けた。


「だが、人には理性がある。お金が欲しければ働いて稼ぐ。稼いだ金で食事をする」


 言わんとしていることはすでに伝わっていた。

 バイオスは表情を歪めて言った。


「犯罪者は、壊れているのです! 脅し、奪い、犯し、時には殺める! 犯罪者の存在によって、どれほどの健全な人間が日々怯えている? どれほどの健全な人間が実害を被り、時に命を落としている?」


 バイオスは声を荒げていた。

 被っていた笑みの仮面は剥がれ落ち、感情的な表情を見せていた。


「だから、罪を犯す前であろうと壊れているものはあらかじめ回収しておこうと、そういう理由かよ」


 製品を販売している会社ではよくある話だ。

 動作不良などを起こして、事故を起こそうものならば、損害は計り知れない。

 だから、少しでもその懸念があった場合、企業はその製品を一斉に回収するだろう。

 放置して二度、三度と事故を起こすのを防ぐ為に。


 世界政府は、犯罪者という不良品を、回収しようとしているのだ。


 バイオスは崩れた表情のまま、俺を見ていた。

 俺の言葉に、沈黙していた。


「と、まぁ」


 そうかと思うと、スッといつものような不敵な笑みを浮かべ、言った。


「これが表向きの理由でしょうかね。世間ではこれに納得して、犯罪者狩りに協力してもらっている。誰しも自分が被害に合うのは嫌でしょうから」


 先ほどまでの荒れていた言葉が嘘であったかのようだ。

 再び仮面のような顔を貼り付けて、気味の悪い表情で俺たちを見ていた。


「ハッ……表向き……? どういうことだよ」


 俺は痛みを堪えながら、乾いた声で訊いた。


 その理由。

 人間と製品は違う、平和のための戦争などおかしい。

 だからこそ世界政府に噛み付いたというのに。


「ですから、ものごとには隠された理由があるというもの」


 バイオスの言葉に、俺はさきほどバイオスが言っていた意味を理解した。

 つまり、世間ではそうなっているが、別の意図があるというわけだ。


「そこであの怪物、憑依者でしたっけ? のおでましですね」


 テラが言った。


「そうです、あなた方ならわかるでしょう、あの怪物がどれほどに危険なものであるか」


 バイオスの答えに、ペレの姿が鮮明に浮かんだ。

 ケイガクを一瞬で吹き飛ばす怪力。

 逃げる俺に余裕で回り込める速度。

 そして頭部を岩で打とうがスタンガンを喰らわせようが、決して止まらないあの怪物を。


「アレを我々は犯罪者のなれの果てだと危惧しているのです」

「あの時も言ってたな。どういう意味だよ」


 バイオスの言葉にすぐに訊き返した。


「人間は、脳で肉体、精神のすべてをコントロールしているのはご存知でしょう。そして、常に全力を出さないように抑えつけているのです」


 聞いたことがある話だった。

 最初から人間は肉体にリミッターをかけているのだと。

 全力が出せないようになっているのだ。

 現に、火事場の馬鹿力という言葉がある。

 災害に見舞われ、わが子が車の下敷きになっているのを見つけた母が、一人でその車を持ち上げて救ったという話もあるほどだ。


「だが、犯罪者は理性がない。コントロールができない。いえ、むしろする気がないとでも言いますか」


 バイオスはそう続けた。

 おいおい、嘘だろう。


「犯罪者は理性を失うと、あの怪物のようになると、言うことだね」

「ご明察ですね」


 テラの言葉にバイオスが頷いて言った。

 流れから察していたが、あの化物は、人間が変貌した姿なのだ。

 そして、よりにもよってその人間というのは、俺たち犯罪者だと気づかされた。


「最初に怪物が発見されたとのは世界政府発足後まもなくでした。終身刑を言い渡された囚人が、刑務所の中で怪物と化したのです。原因は詳しくわかりませんでしたが、当時は軍を動かさないと対処できないほど手を焼いていたのです」


 ということは、俺が生まれる前にはすでに存在していたということになる。


「我々は研究に研究を重ね、怪物化の要因である、遺伝子を発見したのです」

「それが‘大罪因子’ってやつかい」


 バイオスの説明に、いち早くテラが言った。


「奇しくも、その遺伝子を所持している人間は理性が弱く、軒並み犯罪傾向にあった。現に収容されていた囚人のすべてが、それを所持していたほどです。ですから、‘大罪因子’と、そう名付けたわけですね」


 その言葉を聞いてすぐに、冷たい何かが背筋を通り過ぎるのを感じた。

 大罪因子。

 怪物になる因子。

 それが、俺の、中に。


 いつか感じた黒い霧のようなものを、胸の中ではっきりと感じていた。


「なんとなくわかったよ。で、僕たちはこれから処分されるわけだね、怪物になる前に」


 テラの言葉に、ああ、と思った。

 回収された製品はどうなる?

 当然、回収し次第破棄するだろう。

 処分だ。俺たち犯罪者は、表向きには治安のためにと、殺されるのだ。

 つかまった時点で、終わりだったのか。


「いいえ?」


 しかし、バイオスは見当違いの回答をした。

 その言葉に、ピクリと体が弾む。


「どうやら、君たちはどうしても世界政府を悪者にしたいようだ。そんなに詭弁が嫌いですか? 政治家は、みなそういうものです。庶民を、言葉で操り、導かねばならない」


 バイオスは両手を広げて言う。


「だが、常に正しい選択をしてきた。紛争の止まない世界を、止めた。犯罪のなくならない世界を、消した。そして怪物の脅威などない、平和な世界を作る」


 まさに詭弁だ、と本音で思った。

 本人が言っているように、それ以上でも以下でもない。

 その言葉の裏に、その平和な世界の裏で、どれだけの人が犠牲になっているのだ。


「ですから、あなた方は殺さない」


 バイオスは静かに言った。

 殺さない、と。

 犠牲にはしないということか。


「よく考えてください、殺すだけならこうやって運ぶ必要も無い。私には力がある。圧倒的な、怪物を屠る力が」


 圧倒的な力。

 俺たちは見た。

 あの怪物を、一瞬で真っ二つに切り倒した男を。


「たとえあの場で君たち二人が怪物と化していたとしても、グリドなら数秒とかからず殺せるでしょう」


 まてよ。

 腑に落ちなかった。

 世界政府は、軍の力を用いないと殺せない怪物をなんとかするために、俺たちを隔離するのではないのか?

 そうであるならば、あのグリドとかいう男は何だ。

 怪物を一人で殺せる人間、それこそ怪物ではないか。


「これからどうなるのか、それはこの先でわかることです。業務は終わりです、ではまた」


 バイオスはそう言って踵を返すと、手元にあるスイッチを押した。

 瞬間、俺たちの口元の拘束具が再び起動し、言葉を封じる。

 そして、振り向くことなくそのまま車内に戻っていった。


「……」


 テラは、神妙な顔のまま、ただ黙っているだけだった。

 俺は胸の中の黒い霧をいつまでも抱えながら、再び揺れを感じていた。



「さぁ、着きましたよ」


 どれくらい移動したのだろうか。

 コンテナの中にいる情報では、揺れ動いたり、止まったりを繰り返しているので、陸路を進んできたことがわかる。

 途中、激しく揺れが続くことがあり、俺はバイオスにやられた腹部の痛みに必死にこらえていた。

 そんな中、到着の知らせがあったのだ。


「ここは、有り体にいえば刑務所です。この国の犯罪者が一同ここに集められるのですよ」


 さぁ順に降りますよ、と付け加えながらバイオスは俺達を牽引していく。

 コンテナから出ると、何メートルあるかわからない高さの天井が広がっていた。

 どうやらドーム状の構造をしているようで、窓などは見当たらない。


「バイオス、終わったか」


 その声にバイオスは振り向くと、ええ、と相槌をうった。

 その男も金色のバッチを付けており、世界政府の人間のようだ。

 かなり体格がよく、年齢は四十半ばというところか。

 焼けた肌に黒い髭が印象的だった。


「ふむ、流石は新規精鋭のエリートというところか。よい働きだな」

「お褒めに預かり光栄でございます」


 バイオスは深々とお辞儀をして見せた。

 どうやらバイオスは新しくこの組織に加わったようだ。


 上司と思われるこの男はたくわえた髭を触りながら、それで、と前置きした。


「奴らは動きを見せたのか」

「いえ、警戒は怠らず臨んだのですが、杞憂でしたね」

「ふむ……動くとしたらその街だと思ったのだが、まぁよい」


 二人の会話から、なにか特別な配慮をしていたようだが、詳しくはわからない。

 奴ら、という言葉から誰かを警戒しているのだろう。


「お前の担当した地区は揃ったようだな。もう準備はできている。開始していいぞ」

「了解です」


 男の言葉にバイオスはまたお辞儀をすると、俺たち犯罪者の方を振り向いた。口元をぐいっと吊り上げる。

 一体何を始める気だ?


「一体何を始める気だ、とでも思っている顔ですね。テストですよ、テスト」


 その時俺は、これから地獄が待っていようとは思っていなかった。


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