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気づいたら犯罪者だった  作者: あいしぇいと
第三章 遠征
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第二十二話 「樹海を越えて」

「じゃ、最終確認」


 目の前で人差し指を立てたテラは真剣な表情でそう口にした。


 空を切り裂く音が響く中、テラ隊である俺達4人は地上へ向かっていた。


 ついさきほど知ったことだが、この支部はかなり地下深くに存在する。

 それはもう今乗っている高性能エレベーターを持ってしても、上がるのに数分を要するってレベルだ。

 革命軍の施設なのだから、トップクラスの技術で秘匿されているのは当たり前か。

 地上の入り口自体も巧妙に隠されているらしく、一般人はおろか世界政府の人間でさえも見つける事はかなわないだろう。


 かくして遠征に向かう俺達だが、この空いた数分を使って行程の確認をしようというところだ。


「まずエレベーターが開いたらすぐさま移動開始。エルは今夜はそんな調子だろうし、グリドが背負ってね」

「めんどくせぇ……」


 残念なことに俺の副作用は治まらず、満足に走れない状態だ。

 昼に比べればマシなのだが、先を急ぐらしいので、走れない俺は文字通りお荷物となる。


「外は闇だ。第1ポイントまで人目につく事はないと思うけど、距離はけっこーあるよ。いけるね?」

「問題なーし!」

「めんどくせぇ……」


 ロズは元気よく返事をするのだが、グリドは相変わらずのようだ。


 それも当然、けっこーある距離とは、なんと300キロメートルを超える。

 フォッド地方北部を縦断することになる。

 これを夜が明けるまでに走破しようというのだ。俺を背負ってな。グリドじゃなくても面倒だろう。


 現在時刻は既に0時を周り、相当に暗い。月も地球の裏側にあり、外は月明かりすらない闇なのだ。

 当然、あえてその状況に遠征は始められる。明るく人目につく状況で、高速で走り回る人間が出てきたら誰だって疑問に思うだろう。

 それをしてしまっては秘匿にしている意味がないからな。


「他にも色々な指示は出したけど……再三言ったからもういいよね?」

「ああ」


 テラは俺の返事を聞くと頷いて指を下ろした。

 今回の作戦については何度も重ねて言われてきた。少なくとも第1ポイントまではただひたすらに走るだけなので、確認はまたそこですれば済む話だ。


 ――ガコォン。


「よし! じゃあいくよ!」


 テラの合図に、俺の視界がぐるんと回転した。

 グリドが俺を持ち上げたのだ。


 瞬間、あたりは闇に包まれた。

 扉が開く音。強い風が吸い込まれんと向かってきた。

 鼻腔を震わせると、微かに木々の香りが感じ取れた。


「まったく見えないけど、ここは森かなんかなのか?」


 グリドに尋ねてみる。

 既に移動を開始したわりには振動が少なく快適である。


「ここはレオスタン地方南部の樹海に位置している。土地勘と森で生き抜くスキルが無けりゃあ一瞬で迷って食われる位にはあぶねーとこだな」


 レオスタンは新大陸を北と南に分ける国境の国だ。世界政府の本部があるのもここだ。

 その南部には人が寄り付かない樹海がある。

 昔はレオスタンからフォッドまでの抜け道として使われていた記録があるが、今は全くのようだ。

 なぜならあそこの樹海は不可侵領域(サンクチュアリ)には指定されていないものの、かなりの危険度を誇る森だ。

 ある国の調査隊が武装して中に入ったが、行方不明となってしまったことでニュースになっていた。

 そんな樹海の奥地に革命軍支部が存在するわけだ。


「目さえ見えりゃあ戻るくらいは余裕だ。道は案外わかりやすい。実はそれほど危険な生物もいねーんだ」

「そうなのか?」


 ニュースなどで得た俺の知識とは大分違うな。


「ああ。じゃねーと俺ら覚醒者くらいしか出入りできねーことになるだろ?」


 確かに、視界は完全な黒。

 月明かりくらい届いてもおかしくはないと思うが、それすらない。

 生い茂る葉が遮ってしまっているのだろうか?

 この闇ではまともに歩くことすら叶わないだろう。奥に踏み込んでしまえば出られなくなる。

 これで凶暴な獣でも巣食っていたならば、普通の人間では生き残れないだろう。

 革命軍には研究員や渉外部隊など、いわゆる普通の人間もいるのだ。


「ん? にしても、明かりを点けたとしても迷うような場所なのか?」


 闇だから迷う。迷うから誰も近づかない。

 でも普通、真っ暗な場所には光を用いるもんだろう。

 獣もいないなら、明かりさえあれば危険というわけでもなさそうなんだが。


「……見たほうが早い」


 グリドは少し面倒くさそうにそう言うと、空いた手でガサゴソと何かを探り始めた。


「今からお前の顔の前でライトを点ける」

「へっ? そんなことしたら周りに誰かいたらばれちまうぞ?」

「問題ない。まだ樹海の中腹だし、人が来れるような場所じゃない。それに……」


 グリドはそう言いながらライトを点けた。

 視界が白く光る。あまりの眩しさに瞼を閉じそうになるが、その隙間にあるモノを見た。


 黒い点だ。

 無数の黒い点が瞬時に明かりを覆い尽くし、視界は再び黒く塗りつぶされた。

 ライトを切った感じはしない……つまり今もライトの電源は入っている。が、真っ暗なのだ。


「吸光虫」


 やや前を併走していたテラが口を開いた。


「この森に生息している不思議な虫だよ。走光性が著しく強く、光に対して瞬時に集まる。あとは見ての通り、光エネルギーを根こそぎ吸収していく。食べているようなもんさ、光をね」


 さっきの黒い点がその虫か。

 明かりがついたのはほんの一瞬だ。カメラのフラッシュと大差ない。

 その虫はライトの明かりに反応し、すぐに光を吸収したのだ。


「だからこの森は昼夜問わず闇なんだ。月明かりどころか、太陽の光でさえほとんど地上に届くことは無い」


 テラの説明に合点がいった。

 常に闇であり、それを照らすことも叶わないのであればそこに足を踏み入れようとは思わないだろうからな。



 ……というか、じゃあなんでテラたちはこんな速度で森を駆けることができているんだ?

 一切の明かりもない状態で、しかも普通ではありえない速度だ。

 びゅうびゅうと風を切る感覚。時速にして50は超えている気がする。

 真っ直ぐの道というわけでもなく、時折左右に曲がり、稀に枝を避けているのか屈んだりもしている。


 これを”土地勘”だけで可能なはずがない。


「……さっき、全く見えないと言ったな」


 俺が疑問に頭を抱えている時、グリドが唐突に口を開いた。


「あ、ああ。エレベーターの明かりが消えてからは、全くだ。この状態でよく走れるなと疑問に思っていたところだ」

「俺たちには見えている」


 へ?

 見えているんですか?


「単純な話だ。お前は鈍感なんだ」


 !?!?!?

 ぜんぜん単純な話に聞こえない。


「……目を凝らせ。ただ担がれているだけじゃ暇だろう。折角だから目的地までの間に見えるようにしておけ」

「え? ちょ」

「……」


 グリドはそれ以降しゃべらなくなった。

 お前は担がれているだけなんだから、頭くらい使ったらどうだ、ってことだ。


 といっても外に出てから頭はフル回転している。

 なんせわからないことだらけだからな。


 まぁいいだろう。

 これも試練と考えていい。リスクが無い分気楽に取り組もう。

 この先このような場面で目が見えないってのは問題だしな。グリド達が見えているってことは、覚醒者ならなんとかできるってことだ。



 さて、状況を整理。


 あたりは寸分の光すら感じられない、闇だ。

 普通長時間闇にいると、目が慣れてきて多少見えてくるもんだが、全くもって見えない。


 グリドの言うように目を凝らしてみるが、全く変化は無い。


 どこかにヒントはないものか。

 グリドは俺のことを鈍感とも言っていたな。


 ヒトの目の仕組みってのを思い起こしてみよう。

 ヒトが光を受容している器官は他でもなく目の奥にある網膜だ。

 網膜には視細胞がびっしりと並んでおり、その細胞が光刺激を受容し、視神経を通して情報を脳へ送る。

 光は目の水晶体を通って網膜へ届くため、光は上下左右逆さまに受容しているんだったな。

 脳はそれをもう一度逆さにして再生しているのだ。


 しかし現在はその受容している光がないわけだ。

 だからこそ見えない。視細胞が刺激を受けなければ、脳は何も働かないのだ。


 ……いや、まてよ。

 本当に光が無いのか?


 寸分の光すら感じられないのであって、

 寸分の光すら無いわけではないんじゃないか?


 ヒトは真っ暗なところではまともにモノを見ることができない。

 しかし夜行性の動物はそうじゃない。

 彼らはヒトとは違った目の構造を持っている。


 午前戦ったネコを例に挙げてみよう。


 ネコはヒトよりも夜目が効く。

 まず瞳が大きく、多くの光を取り入れることができる。

 それに加え、網膜の裏に反射板があり、一度届いた光を反射し、もう一度細胞を刺激できる。

 少ない光でも工夫をすれば物が見えるというわけだ。


 残念ながらヒトの網膜の裏にはそんな便利な構造はないわけで、その手段を用いることは不可能だ。


 だから感度の低いヒトの視細胞では、今の俺のように物が見えやしないのだ。


 ……。


 ん?

 感度の低い……?


 はあ、なるほど。

 グリドの言っていた鈍感ってのはそういうことだったのか。


 簡単な話だ。

 完全な闇のように思えるが、そうじゃない。

 吸光虫も完璧じゃない。太陽の光は()()()()届かない、つまり光は少なからずあるんだ。

 今の俺は鈍感で、その光を感じ取ることが出来ていない。

 グリドたちはその光を感じ取ることができているから、この環境でも見えているってわけだ。


 なら俺にもできることがあるじゃないか。

 グリドが言っていたように、文字通り”凝らす”んだ。

 網膜にある視細胞を、な。


 覚醒者は肉体強化で細胞の密度を上げることができる。

 何もそれは皮膚や筋肉に限った話じゃない。

 だったら眼の奥にある、光を受け取る細胞の密度を上げてやればいい。

 そうすれば今以上に光に対する感性が上がり、感じ取ることができるはずだ。


「うし……」

「なんだ、気づいたか?」

「うーん、まぁな。おそらくこれであってる。やってみなきゃわからん……」


 意気込みを漏らしただけでグリドは感付いたようだった。

 今思えば鋭い奴だ。

 これも言ってしまえば、感覚細胞の密度を上げているからかもしれない。

 そう捉えると、工夫次第では覚醒者はヒトの限界を超えることが容易なのだ。


 無論、この俺でも、だ。


 体の芯がぶるりと震えるのを感じながら、俺は目蓋を閉じた。


 細胞の密度を上げる感覚は嫌というほど味わった。

 絶叫したくなるほどの痛覚がセットだったのが悲しいところだが、お陰様でこの短時間で細胞密度を上げる術を身に着けられた。

 実際に試してみたのは皮膚と筋肉、運動神経くらい。

 あらゆる体の細胞にもこの技術が応用できると知った今、可能性は無限大だ。


 とにかく今は、視細胞の密度を上げていく。


 ただがむしゃらに細胞を増やせば言い訳じゃない。

 視細胞には大きく分けて2つあるが、明暗を感じ取るのはそのうち一つだ。

 もう一方は色や形を識別する。こいつは暗闇下では機能しない。

 暗い部屋では景色が白黒になるだろう? そーいうことだ。


 じわり、と目の奥が熱くなる。

 細胞分裂で熱量が消費されていくと、ゆっくりと元の温度に戻っていった。


 よし、いいだろう。

 本当にこれで光に対する感度が上昇していれば、見えるはずだ。


 目蓋をゆっくりと持ち上げる。


「んぉ」


 見えた。

 というほどではないが、完全な黒というわけではなくなった。

 黒の中にグレーが混ざっている感じで、それらが視界の縁から縁へとめまぐるしく移動していくのがわかる。

 目の前に灰色の何かが迫ってくるタイミングで、グリドは屈んでそれをかわしていく。

 おそらく無数にある木の幹や枝がグレーに見えているようだ。


「見えたか」

「かろうじて。さっきよりはって感じかな」

「上出来だ、慣れてこれば今以上に密度を上げられる」


 視界から得られる情報は少ないはずだが、グリドたち三人は的確に木々の間をすり抜けていっている。

 年季も違うし、俺の見ている世界よりもよりクリアなんだろうな。



「そんなこんなでもう森を抜けるよ、エル準備はいい?」

「しっかり掴まれよ」


 へ?


 と、間抜けな声を出すまでも無くその時は来た。


「んおおおおおおおおお!?!?!?」


 森を抜け、月明かりが眩しく感じられると思った直後、ぐん、と加速したのだ。

 さっきまでとが比べ物にならない速度で平野を駆けていく。


「いたいいたいいたいいたい!!!!!」


 速度が上がった分、振動も増し、俺の筋肉をダイレクトにいじめ始めたのだ。


「わりぃな、森の中と違って、ここらはスピードが出せる。お前を気遣ってる余裕もねーんだ」


 さ、さっきまでは気遣いながら走ってくれていたわけか。そら快適なわけだ。

 うぐぐぐ、第一ポイントまではこの速度で走って数時間、か。


「みんなっ! 飛ばしていくよっ!」


 元気よく声を上げたロズとは対照的に、俺のテンションは下がるばかりだった。





「はぁ、はぁ、死ぬかと思った……」


 あれから3時間くらいが経過していた。

 副作用も経過時間の関係でようやく楽になってきた感はあるが、それでもあの振動で3時間ってのは神経が擦り減るわ。


 今俺たち4人は第一ポイントに設定されている岩場に来ている。

 この岩場は雨風をしのげる場所になっており、多くの行商たちがここで寝泊りするらしい。

 現に今もいくつかのテントや幕が張られており、先客がいるようだ。



 さっきの速度で行けば、夜明けまでに山岳のふもとにある町には到着できるのだが、それではダメだって話だ。

 それには理由がある。


 一つ目。


「あー……お腹へったよぅ」


 ロズはお腹をぐるぐると鳴らしながら呟いた。


 そう、空腹という問題があるのだ。


 覚醒者も永久機関じゃない。

 あくまでもヒトの延長線上にある存在だ。


 走るのにもエネルギーを要するのは当たり前。

 更に言うのであれば、肉体強化のように脳の力を解放すると莫大のカロリーを消費する。


 街まで2、30キロメートルという距離に満たないが、ここらが限度。

 あまり無理をして走ると、いくらテラたちでも副作用が生じてしまうようだ。

 以前俺がトイレでぶっ倒れそうになったように、栄養失調も恐ろしい。


 栄養補給。

 そして脳を休める。


 この二つの利点から、この第一ポイントで夜が明けるまで待機をするのだ。


「はいはーい、栄養食を渡すよ、ロズ、おいで」

「わんわんっ♪」


 テラがバッグから取り出したのは革命軍特製の栄養食だ。

 覚醒者の莫大な消費カロリーを補うため、先端の技術を駆使してカロリーを極限まで圧縮した食べ物だ。


 見た目はスティック状のよくあるタイプなんだが、一般人が口にしてしまうとあっというまに栄養過多になるという点で全く違う。


 味は……好みが分かれる感じだな。

 俺はあんまり好きじゃない。そもそもそこまでカロリーを消費していないからかもしれない。


 ビールなんかは極限まで喉を渇かしておくと最高においしいと言う。

 似たようなもので、カロリーを消費していればいるほど、口にした時の感じが違うのだろう。


 一応、視細胞の密度を上げるのにカロリーは消費した。

 夜食感覚で食べることにしよう。ぽりぽり。



「で、夜が明けたら移動開始でよかったんだよな?」

「うんうん。それまでには副作用も消えているハズだから、エルも歩いてね?」

「わーってるよ」


 そうそう、二つ目の理由。


 町には衛兵がいるのだ。


 これはその町に限った話ではなく、治安向上のために世界政府が衛兵を派遣しているのだ。

 夜中なんかはまず町の入り口などを見張っているらしく、出会うのはよろしくない。


 今は旅装をしてはいるが、夜明け前に旅の者が町へやってきたら注目を浴びてしまう。

 世界政府の息がかかった衛兵に注目されるのは避けたいところだ。


 だからタイミングをずらす。

 丁度いいことに、明日の朝その町へ行く行商もいるはずだ。

 そこと同行することで、完全に旅行者として振舞うことができるわけだ。


「ぐがー……っ」


 グリドはすでに眠りについていた。


「じゃ、おやすみ、エル、ロズ」

「ほむほむほむほむ、ほやすむ!」

「食べたら寝るんだよ……」

「ほむ!」


 テラも後を追うように横になった。

 あれだけの距離を数時間で走破したんだ。疲れはあるだろう。


 ロズは……まぁ、食べることで回復するタイプっぽいし、いいだろう。


 さてと、俺も寝ますか。





 行商たちと町へと歩き出して数時間。

 町を目前にしたところで、ふわりと不思議な匂いが漂ってきた。


「テラ、この匂いは?」

「ああ、エルはこの町に来たことはないのか」


 悪いが俺は愛国心が強い奴でね。

 この町に限らずフォッド地方北部(ノースフォッド)を出たことすらない。

 ん? 一応この町もギリギリノースフォッドに含まれるのか。まぁいい。


「ここは玉酒の町カロリス。お酒の名産地だよ。この香りもお酒のものだね」

「ほぉ……」


 町は近いといってもまだ少し先にある。

 この距離にもお酒の匂いが届くってのは、よっぽどだな。

 お酒に興味がないわけじゃない。少し楽しみだな。




 町の門を越え、少ししたところでテラは立ち止まった。

 衛兵の姿は見当たらない。パトロールにでも出ている時間か。

 まぁ今の俺たちの姿に怪しいところはない。見られたって困るもんではないが。


「よし! じゃあ予定通りここからは二手に分かれるよ! 僕とエルは酒場へ情報収集、グリド達は町の近辺でなにか変わったことがないか探ってみて」

「りょーかい」


 テラの指示に、グリドとロズは声を揃えて返事をする。

 俺はテラと共に酒場へ行くことになる。

 酒場ってのには行ったことは無いが、マスターとかが色々情報を知っていたり、そもそも情報屋みたいな人がいたりするイメージだ。


 情報収集ってのはあまりやったことがないんだが、大丈夫だろうか。自信はないな。

 まぁこの場合、そっちの方面で才があるテラに任せておけばよさそうだ。


 テラは本当に色々なことに秀でている。

 幼くしてあのギガ支部長に鍛えられてきたってのを知ってからは納得したが、それまではなんでこんなにもすげーんだと、ただただ驚嘆していたものだ。

 欠点があるとすれば、人格が歪んでからはそれらの動機はすべてハーレムに繋がってしまったってことか。

 何かにつけて女の子のためなんだよな。革命軍として活躍している裏にも何かあるんだろう。

 父親が幹部だから……とか、単純に血縁のみで動くような人間じゃない、と思う。

 失礼かもしれないが、付き合いも長くなると、わかってしまうことも多い。


 時折飄々として見せるが……最近ではカッコイイ真面目モードばかりだからな。

 忘れがちだろうが、コイツはとにかくキザな女好きなんだよ。


「ねぇエル……すごく失礼なこと考えていない? 僕は女好きだとかさ」

「心を読むな! 心を!」

「何言ってんの、能力なんてなくてもわかるよそれくらい。付き合い長いんだからさ」


 ……わかってしまうことが多いのは、お互い様ってことか。


「まーいい機会だから訊いておくけどさ、なんでテラはロズと2人で組んだりしないんだ?」

「へ? あたし?」


 俺の口から名前が出るとは思っていなかったのか、ロズは驚いたように声を漏らした。


「……どういうこと?」

「いや、単純にさ。ロズって普通にかわいいだろ? 普段のお前なら積極的にアタックするっていうか、ほっとかないだろ」

「!? か、かかかかわいい!?」


 ロズが横で動転し始めた。そのままの意味なんだけどな。


「今回もだけど、鍛錬の時もさ、2人になるチャンスはいくらでもあるだろうに。ちょいと疑問に思ってな」


 テラという人間を理解しているからこそ、浮かぶ疑問である。


「僕をそんなふうに思ってただなんて……うう、しくしく。僕は悲しいよ」

「演技はいいから質問に答えろよ」


 猿芝居を始めようとするテラの額を軽く小突いてやる。

 にへらと笑って口を開いた。


「あ~、前も言ったけど、エルの面倒見るのも大事だし、ね?」

「今回は俺にグリドを付ければ問題ないだろ?」

「う」


 言葉を詰まらせるテラ。

 いいぞ、本音が引き出せそうな流れだ。


 観念したのか、テラはやれやれと息をつくと、視線を空に向けながら口を開いた。


「僕は女の子を守ってあげたいタイプなんだよね」

「……はい?」

「もちろんできるかぎり全力で。人数は問わない。たくさん守りたい」

「何言ってんだ……」


 こいつが以前からハーレムを求めていることは知っている。

 守ってあげたい云々は初耳ではあるが、驚くほどでもない。


「つまり、そーいうことだよ」


 テラはそれだけ言うと視線を戻し、苦笑いを浮かべた。


 いやいやいや、何も回答になっていませんけど?

 話しぶりから本音っぽいのはわかるんだが、それでロズをほっとく理由にはならんだろうに。


「ふぁーあ……。まー、頼りねえ隊長さんだからなぁ」

「ははは、面目ない」


 グリドはあくびをしながらも何かわかっている風なことを言っている。

 くそ、こういうときに鈍いってのはネックだな。


「さて、こーいう時こそ隊長らしくしないとね? ということで、時間も限られていることだし、行動に移るよ。15時には宿で合流。いいね?」

「おっけー!」


 苦笑い混じりの指示だったが、俺達はもう1度頷いてその場を後にした。




 さて、酒場、か。


 情報収集はかなり重要な仕事だ。

 さっきは自信がないと言ったが、テラだけに任せておくわけにはいかない。


 透明な”なにか”の存在。

 行方不明の隊員、ネイヴィ。


 ここで何かの情報を掴んでやらねーと。

 首を洗って待ってろよ、ベズニット。

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