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気づいたら犯罪者だった  作者: あいしぇいと
第二章 鍛錬
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第十五話 「覚醒者の闘い」

グリドの脳に侵入するのは難しくはなかった。


 テラに促されるままグリドに触れ、力を抜く。

 本来、頭に触れておくとスムーズに結合(リンク)が可能らしいが、頭に近い部分ならば問題はないらしい。

 額にはロズが触れているので、俺たちは肩に手を置くかたちとなっている。


 俺が左肩で、テラが右肩。ロズがその間から腕を伸ばし、額に触れている。

 傍から見れば何の儀式だよ、という感じだ。

 言ってしまえば儀式みたいなものか。


 力を抜いていくと、脳裏にあるイメージが流れ込んできた。


 テラの事前の説明では、そのイメージに促されるまま力を抜いていれば、脳内にするりと入れるらしい。

 にわかには信じがたい話だが、覚醒者に備わっている力には不思議なものが多すぎる。

 いまさら疑ってかかるようなことはしないでおこう。


 イメージは、水の流れ。

 川、という感じだろうか、ゆるやかだが途切れることなく水が流れている。

 自分はそこに立っていて、掠めていく水を足で感じ取れる。


 少し経つと、流れの先が見えてきた。

 ぼんやりとしたイメージが鮮明になっていくにつれて、あるものが思い起こされた。

 これは滝、いや、プールなんかにあるウォータースライダーだ。


 一歩二歩前に進んで身を任せれば、あとは流れにそって下っていく。

 滝のように急降下するわけではなく、ゆるやかに蛇行しながら進む。

 まさにこれは間違いなくウォータースライダーだ。


 さて、俺はその入り口に立っているわけだ。

 経験ではここで誘導員にどうぞ、とでも言われて仰向けになり、肩を押してもらう感じだが、

 今回はそんな人はいない。

 後ろに長蛇の列ができていて急かされるわけでもない。


 ふぅ。

 このイメージに促されるまま、だったな。

 つまり、この流れに乗っていけということだろう。

 力を抜いていれば、自然と流されていくわけだから、変に抵抗しなければたどり着くのだ。ゴールへと。


 よし、と覚悟を決めて一歩踏み出した時には、体の自由が奪われていた。

 先ほどまで緩やかだった水の流れはさながら大洪水の河川のように荒れ狂い、

 俺は抵抗できぬまま流されてしまった。



「――ップハ!?」



 意識が戻った瞬間、息を大きく吸い込んだ。

 窒息するかと思った。

 本当に、水に飲み込まれる感覚がしたのだ。


 我に返ってみると、体は濡れているわけでもなく、ただ息が荒れているだけでまさにイメージの世界だけの出来事だったと再認識する。



「やぁ、成功したじゃないか、エル」



 その声にぱっと顔を上げると、テラが視界に映りこむ。

 瞳にピントが合うかどうかといった瞬間、その背後に広がる景色に目を奪われた。


「な、なんだよコレ」


 そこには、俺の瞑想空間とは似ても似つかない世界が広がっていた。


 見渡す限りの、植物、植物、植物。

 立っている所はやや開けてはいるものの、世界は緑色だった。

 まさにジャングルだ。


「ここが、グリドの瞑想空間だね。どうだい、自分のそれとは全く違うから、面白いだろ?」


 その言葉を聞いて再認識する。

 ここはグリドの脳内だ。

 俺のそれが虹色に瞬く壁に覆われているとするのであれば、

 グリドのそれはこうやって多くの樹木に囲まれているのだ。


 面白いかはさておき、こうして自分以外の瞑想空間に来るのは初めてだ。

 きっと、人それぞれ千差万別の世界が広がっているのだろう。


 にしても驚きだ。

 ジャングルとは。


 まだ成人する前くらいには山へ入って自然に囲まれるような体験はしたことがあるが、

 流石にジャングルはない。

 樹木の大きさは比にならないくらいでかいし、道端に生えている草花は見たことのないものばかり。

 道という言葉を使ったが、道という道ではなく、背の低い雑草が踏まれて高低差を作っているだけだ。

 目の高さには蔦が走り、枝からは鶴が垂れている。


 だが、違和感があった。


 一見、荘厳な景色。

 緑が生い茂り、自然の力強さがひしひしと感じられるハズなのだが、それがなかった。


 この植物たちから、生きている感覚がしないのだ。


 ふと思えば、ジャングルにつきものの虫や爬虫類なんかも見られない。

 もともと瞑想空間には他の生命がないのかもしれない。


 樹木も形だけは体をなしているが、成長することはないのだろう。

 時が止まったジャングルだ。

 手を伸ばして垂れ下がる蔦に触れてみて、そう確信した。



「ん、もう来たのか」


 俺がそうやって考え込んでいると、樹木の切れ目の奥から声が聞こえた。

 グリドだ。


「さくっと成功してくれたよ。流石だよね」


 テラはにへら、と笑って答えた。

 成功ってのは、俺のことだろう。


「いいじゃんいいじゃん! これで一緒に鍛錬できるねっ!」


 ロズも傍に居た。

 彼女はうきうきとした様子で飛び跳ねている。


 グリドもロズも樹木の切れ目からしか姿が見えない。

 林を挟んで会話しているカタチだ。

 どこからか回り込めばあちらに行けるのだろうか。


「と、いってもまだ初級も習得できていないだろう、一緒にやるのはまだ先だ」

「ぶー、一緒の空間でできるんだもん、そういうことだもん」


 グリドの的確な指摘に、ロズは屁理屈とも言える台詞を吐いて頬を膨らませた。

 ハムスターみたいでかわいい。

 というかふと思ったが、グリドがすごくハキハキと喋っている。違和感だ。

 普段はもっと眠そうに、かつ気だるそうに喋るのだが。


「にしても、まだ数分も経ってないぞ? 予定ではインターバル込みで数時間はかかるはずだろう」

「嬉しい誤算でね、一回で記憶を引き出すところまで終わったってさ」

「ほぉ」


 テラの返事に彼は驚いた表情を見せる。

 どうやらグリドも、俺が二回の瞑想を経てからここへ来るものだと思っていたようだ。

 いや、実際には二回の瞑想の後では副作用の問題でここへ来ることも怪しかったか。


「で、余裕もできたし、観戦させてもらおうと思ってね。いい勉強になるだろうし」

「そうか。ま、俺は構わんが」


 俺たちが二人の鍛錬を見に来たことを伝えると、グリドは快諾し、ちら、とハムスターの方へ視線を向けた。


「ぶー」


 さっきよりも数段と膨らんでみせる。

 ここまでくるとかわいいを通り越して面白い。

 やってて恥ずかしくないのだろうか。

 どうやらロズはそういう感覚に疎い気がする。

 テラの服を脱がした件もそうだし、ロフトでの件もそうだし……。


 おっと、そんなことを思い出していては邪念が混じる。

 下手したら集中が切れてここからはじき出されるかもしれないな、いかんいかん。


「ロズ、だめなの?」


 テラはそんな彼女の反応を見て心配そうな表情を浮かべた。

 感情を読み取れるテラがそう言うのだから、ロズは快く思っていないようだ。

 そんなに鍛錬の様子を見られるのがいやなのか?

 さっきまでは一緒にやれると喜んでいた気がするのに。


「べつにいいもん。ちょっと秘密特訓して、テラをぼっこぼこにしたかっただけだもん」

「あはは、それは残念だったね、じっくり見させてもらうよ」

「ぶー」


 そういうことか。

 ロズはグリドとテラが諜報活動に勤しんでいる間、ここで鍛えていたんだったか。

 最近はその成果を披露すると言って、テラやグリドに鍛錬の相手をせがんでいたな。

 テラには断られていたから、結局はグリドが相手をしていた。

 そこで、テラをぎゃふんと言わせようと思い至ったというところか。


 そら、ここでその成果を見られたら、勝てるかもしれないがぎゃふんとは言わせられないだろうしな。


 というか、テラはロズより強いのね。

 アホみたいな振る舞いをしている姿を見ているから、強い姿ってのを想像しがたい。

 や、もちろん冷静な時のテラだったらイメージできるんだが、俺の中ではバカをやってる方のイメージが強いのだ。





「う・さ・ば・ら・し」


 突如、ロズが頬をすっと引っ込めて呟いた。

 空気が変わったのがわかる。

 グリドは真剣な顔でロズに向き合い、テラも真顔だ。

 何がなんだかわかっていない俺だけがあたふたと視線を泳がせている。


 すっとロズの腕がグリドの方へ伸ばされた。

 距離としては、ゆうに10メートルはある。



「エル、始まるよ」


 えっ? 何が?


 声に反応しテラの方を見る。

 その瞬間、緑がかかった閃光が走った。


「うおおおおおおっ!?」


 俺は何が起きたかわからないまま、後ろに後ずさった。

 閃光を放ったのはロズだった。

 伸ばされた腕の先、手は銃のような形状に変化していた。

 中級解放の”肉体変化”だ。


 視線を動かすと、グリドが右腕を顔の前で掲げていた。

 シュゥゥ、と肘のやや上のところから煙が上がっている。


「な、何? 今の」


 俺は全くわかっていなかった。

 テラの方を見ていたというのもあるが、その後の状態を見ても何が起きたのかさっぱりだ。

 ロズの手の形状からして、何かを撃って、グリドが弾いたとか?


「もうっ、硬いなぁっ!」


 今度は見逃さなかった。

 ロズがそう言い放った直後、銃と化した手がきらめいた。

 ぎゅん、と空を裂いて何かが撃ち出された。


 グリドはその銃撃を物ともしない様子で、片腕でキン、と弾きじりじりと歩を進める。

 ロズは銃を連射したが、グリドは的確にその銃撃を弾いている。


 いや、あれは弾いているというか、効いていない感じがする。

 ロズの攻撃力が低いのか?


「まだまだぁ!」


 ロズは空いていた片方の腕を持ち上げた。

 再び閃光が走る。両手撃ちか。


「むっ」


 一定のリズムで発射された銃撃がそこで初めて狂ったからか、グリドは一発目を弾いた後に二発目を寸前のところで回避した。

 グリドの脇を抜けた弾は背後の樹木に直撃した。


 ドゴォォォォン!


 ……その木々は跡形もなく削り取られていた。

 まるで巨大なスコップで地面を根こそぎ抉り取ったかのような状態だ。

 あんなもの、生身の人間が食らったらと思うと……。


 ごくり、と喉を鳴らす。

 ロズの攻撃は決して威力が低いなんてことはなかった。

 普通なら一発一発が致命傷になるような攻撃だ。

 それをグリドは的確に防御していたのだ。

 二発目を回避した様子から、弾ける部分とそうでない部分があるようだ。



「腕だけじゃ、防ぎきれねーか」


 ぼそりとグリドは呟くと、首元にあったゴーグルを掴み、装着する。

 ああ、初めてグリドに会った時を思い出す。


 すっと手を下ろしてロズの方を向くグリド。

 ゴーグルの奥の瞳は彼女を捉えているのだろうか。


 一見無防備に見える所作の間、ロズは攻撃をする様子を見せなかった。

 普通だったら、連続で銃撃を放っていればゴーグルなんて付けている余裕なんて作らせないだろう。


 くそ、樹木でよく見えないことも相まってか、よくわからない。

 俺は同じステージに立てていないことも要因か。

 1つわかることは、グリドの雰囲気が変わったことくらいだ。


「なぁ、もっと近くで見れないのか? こっからだと木が邪魔でよく見えない」

「ん? 向こうの空間に移動したいってこと?」


 俺たちは目線をグリドたちに向けたまま会話を続ける。


「可能ならば、そうしたいところだね。正直知識がないのもあれだが、見えないとわかるものもわからん」

「エルが巻き込まれて死なない自信があるならいいよ」


 テラがそう答えた瞬間、二人の戦いは激化した。


 グリドは走り出し、ロズへと一気に距離を詰める。

 ロズも両手で銃を放ちながらグリドの行く手を阻みながら一定の距離を保とうとバックステップ。

 的確に射出される銃撃をグリドの皮膚はびくともしないようで弾いている。

 あの銃撃を弾く皮膚硬化って無敵だろ、と思ったがそうでもないらしく、衝撃は打ち消せずに仰け反る様子も見られる。

 姿勢を崩したところに襲い来る銃撃は回避せざるを得ないようで、その度に周囲の樹木が削り取られる。


 グリドが距離を詰める。

 ロズが距離を取りながら銃を連射。

 グリドがすべての攻撃を弾きながらも仰け反る。

 生まれた隙に銃を撃つも全て回避。

 その度に周囲の森が破壊されていく。


 このサイクルをものの十数秒で繰り返している。

 あまりものスピーディな展開に、目で追うのがやっとだ。


 俺たちと二人の間にある樹木は邪魔なようで、しっかりとバリケードの役割をしていた。

 削り取られた樹木は一定時間が経つと急激に成長を開始し、すぐに再生する。

 つまるところ、こちら側に居れば攻撃に巻き込まれて死ぬなんてことは無さそうだ。


「大人しくこっちに居るよ……」

「賢明だね」


 テラが黙ってこの場所で留まっていることに納得した。

 おそらくテラだけならばあちら側に移動しても生きていけるんだろうが、俺には到底無理だ。

 実力のない観戦者はバリケードの外から見ているしかない。


「ま、簡単に解説くらいはしてあげるよ。僕の知っている知識だけだけどね」


 テラは頭が追いついていない様子の俺を見かねてか、二人のスタイルについて説明してくれた。



 まずはロズ。


 先ほどから銃を連射しているが、アレは”暴食”の能力を生かした戦い方だという。

 ”細胞を分け与える”という能力は決して治療にしか使えないわけではなく、ああやって変形させた細胞を体から切り離し、銃弾として飛ばすことが出来るのだという。

 細胞を飛ばしていると考えると、連発していたらそのうちすっからかんになるんじゃないか?

 ダイエットにはいいかもしれないが。


 肉体の変形自体は中級覚醒者になれば可能となるみたいだが、その変形は体から切り離して行うことは出来ない。

 作った組織を体から切り離して保つことが出来るのは”暴食”だけだそうだ。


 ちなみに肉体変化は体の一部を変形させる能力で、新たな組織を作る能力ではない。


 例えば、銃。

 これは普通の人間でも、人差し指を伸ばして親指を垂直に立てれば作れる。

 そういうモノは可能。

 あとは爪を伸ばすとか、髪を伸ばすとか、組織を成長させることはできる。


 しかし、カタチを作ることが出来ないものや、もともと持っていない組織を生み出すことは不可能だと言う。

 例えば尻尾とか、翼とか。

 翼を生やすことが出来るのならば空でも飛んでみたかったが、断念せざるを得ないな。


 つまるところ彼女は自分の能力を最大限に発揮するため、銃手(ガンナー)というスタイルを確立させたそうだ。

 主に相手との距離をとりつつ、銃撃で相手をじりじりと削っていくタイプだ。



 一方グリドは、というと。

 彼は”怠惰”の覚醒者であるそうだが、滅多にその能力を使わないそうだ。

 というのも、使わなくてもめちゃくちゃ強いからだという。


 まず、皮膚の硬化率が抜きん出ている。

 皮膚硬化自体は初級解放の能力だが、グリドはそれを突き詰めているらしく、全力で硬化させた彼を傷つけられる覚醒者は数少ないらしい。

 この硬さを貫くことは諦めたほうがいいらしい。一方弱点はあるらしい。

 これについてはロズの戦い方を見て考えてみて、とテラは言う。


 そして、ハイスペックな肉体強化と肉体変化。

 もともと恵まれた体躯と類稀な身体能力。

 グリドの生まれはそういった戦闘民族らしく、覚醒者としての力を使わなくても強いレベルらしい。

 そこに脳を解放したブーストがかかる。

 腕は巨大化し、手からは鋭い鉤爪伸び、敵を切り裂いては吹き飛ばす。


 距離を取って戦うロズとは打って変わって、バリバリの前衛タイプ。

 その防御力で味方を護りつつ、怪力で敵をなぎ倒していく闘士(ウォリアー)だ。



 さて、この相反する二つのタイプが衝突しているわけだが、相性的にはどうなんだろう。


 グリドは距離を詰めて戦いたいところだろうが、相手はそれを好まないため、距離を取る戦法を選んでいる。

 皮膚硬化によってダメージはほぼ無いものの、的確に衝撃を与えられるために、一向に攻撃が届かないでいる。

 これはかなり苦しいところだろう。自分が攻撃できる土俵に立てないのだからな。


 一方ロズのほうも苦しそうだ。

 あのグリドの攻撃を一発でも受ければ、華奢なロズでは耐えられないだろう。

 無論ロズも皮膚硬化はできるだろうが、グリドもそうであるように衝撃は打ち消せない。

 あの巨大化した腕で体ごと振り抜かれれば、壁に打ち付けられ内臓がどうにかなってしまう。


 彼女の銃撃はグリドにダメージを与えるというよりは、距離を詰められないようにすることに重きを置いているような気がする。

 結果的に自分の身は守れているが、肝心の相手にダメージは与えられていない。


 つまり、一進一退、優劣がつかない状態だ。



「ふぅー、やっぱりアレを使わないとダメかぁ」


 ロズは息を吐くと、肘を曲げて銃を見つめた。

 グリドはふっと笑い、肩をぐっと回す。


「そんなにテラに見られるのがいやか?」

「んー、というか、あんなけ自慢気に話したのに、通用しなかったら恥ずかしいじゃない」

「まぁ、相手が俺だからな」


 どうやらロズは踏ん切りがついていないようだ。

 おそらく、テラも知らない攻撃手段なのだろう。

 あれだけ自慢していたのだから、本人なりに手ごたえはありそうだ。


 だがグリドがいうように、対するのは防御力自慢だ。

 一般的な相手には有効と思われても、彼には通用するかどうかはあやしい。

 自信がある手前、これが通じなかったらショックであろう。


「なんなら、一足先に戻ってようか? 時間的にもそろそろだろーし」


 テラはへらっと笑って言う。

 ここへ来てからそこそこの時間が経っている気がする。

 通常の瞑想とは違って、滞在可能時間はかなり長くなるようだ。

 一方現実でも同じだけの時間が経過しているんだったな。


 ……あの儀式のようなポーズでずっと、か。



「や、もういいやっ。特別に見せてあげるッ」


 ロズは快活に返事をすると、両手を組んで腕を伸ばした。

 もともと二つだった銃はぐにゃりと歪み、1つの銃を作り出した。

 先ほどの銃より一回り大きいタイプだ。


「受けてやるよ。やってみろ」

「へへっ、泣いても知らないよっ」


 グリドは仁王立ちして、にやりと口元を吊り上げた。

 がっしりとした胸の前で、巨大化した腕が交差される。

 遠目でもわかる。あの姿勢のグリドを正面から攻撃しても、一切通りそうにない。


 そんなことも構わず、ロズの腕に光が集まった。

 緑がかかったまばゆい光だ。どちらかというと黄緑に近い。

 ロズの腕に奇妙な文様が浮き出ている。


『色と文様は、大罪因子のタイプよって決まっている』


 これは継承によって得た知識だ。

 緑色は、暴食の色だ。

 つまりあの色の発光や文様を見た時、暴食による能力が使われていることがわかるのだ。


「喰らえッ」


 その掛け声と共に、光が一気に収束し、放たれた。

 あまりに眩しさに目を細めながら行く末を見守る。


 撃ち出された弾は、先ほどの目で追えない銃撃と比べると速度が落ちていた。

 といっても、普通に回避できるレベルではないと思うが、目で見えるレベルだった。


 ガキィン!


 グリドは宣言どおりそれを受け止めた。

 なんてことは無さそうに。


「なんだ、コレ?」


 グリドは不思議そうな表情を浮かべて、交差した腕を解いた。

 ダメージは無さそうだ。しかし体に違和感を感じたのか、自分の腕を見つめている。


「うふ」


 ロズはぺろりと舌を出すと、万遍の笑みを浮かべた。


「いただきますっ」


 ロズは走り出した。

 走り出したというか、発射された。

 彼女のかかとからは緑色の閃光が放たれ、勢いよく飛び出したのだ。地面へと。

 その反動で、ものすごいスピードで距離を詰めていく。

 ロズから、グリドの方へ。


 え?

 と素直に思った。

 距離を取りたいはずの銃手が、自分の土俵を捨てて飛び込んでくるのだ。

 グリドにしてみればチャンス以外のなんでもない。


 グリドはすぐさま反応し、口元を吊り上げた。

 タイミングを合わせようと巨大化した腕に力を込めている。


 距離が詰まる。グリドの土俵だ。


「血迷ったな!ロズ!」


 グリドはそう言い放ち、ロズの体ごと腕を振り上げた。


 ――ように見えた。


 持ち上げられた腕は縮小し、ロズの体を捉えることなく空振りした。


「ざーんねんっ!」


 グリドの攻撃を空中でかわしたロズの銃が、思い切り振り下ろされグリドの後頭部を捉えた。


「ぐっ……」


 うお。

 ものすごい音がしたぞ。

 あのごつい銃で後頭部を思いっきり……。普通なら一瞬で昏倒ものだ。


 グリドはぐらっとよろめきながらも、足を前に踏み出し踏ん張っていた。

 まじかよ、あれで耐えられるのか。

 かなり揺らされたはずだぞ、脳震盪は確実だろう。


 皮膚硬化は衝撃まで打ち消せない。

 だからこそ、頭部への攻撃はすべて回避していた。

 今回は、ロズの謎の攻撃により虚をつかれ、グリドはここに来て痛い一撃をもらった。


「通用するじゃないっ、さすがあたし!」


 ロズはすかさず追撃を仕掛けようとグリドの背後へと距離を詰めた。

 流石にもう一発入ったらグリドとはいえ立てないだろう。

 ふらついているグリドに向かって、思い切り銃という鈍器が振り下ろされた。



「ちっ、めんどくせーな……」


 ぼそ、と呟いた。

 グリドは、呟いた。

 ただそれだけのはずなのに。

 空気がずん、と重くなった。

 一気に気だるさが襲ってくる。なんだコレ。


「う」


 振り下ろされた銃はスローモーションで、大した勢いもなくグリドの頭部を捉えた。

 苦しそうに声を出したのはグリドではない、ロズだ。


 決めるつもりだった。

 彼女はそう思っていたことだろう。

 そうでなければ、距離を詰めるという愚行はしなかっただろう。

 だが、それがいなされたのだ。

 勢いが消されるという、謎の現象によって。


「一杯食わされたぜ、ロズ」


 グリドはゆっくりと振り向き、隙だらけの姿勢のロズを見下ろした。


 俺は見た。

 そのグリドの瞳は、青く煌いていた。

 彼の持つ髪と同じように、青黒く。


 使ったのだ。”怠惰”の力を。


「ちぇっ」


 ロズは地面を見下ろしながら、舌打ちをする。

 表情は伺えないが、笑っているような気がした。

 そう思った瞬間、重苦しかった空気がぱっと元に戻り、そして。


 ――強大な腕が振り下ろされた。

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