第十三話 「協力プレイ」
ぱっと目を開けると、景色が一変していた。
どうやら無事に瞑想に成功したようだ。
今までの経験で気づいたことだが、どうやら俺は自分自身を信じることで瞑想を可能にしているようだ。
自分自身を信じる、つまるところ自信を持つってことだが、あまりにもふわっとしているな。
まぁ、これも俺が傲慢の覚醒者であるということだろう。
「さて」
あたりを見渡す。
彼女はすぐに見つかった。
「こんばんは」
リルーネは、壁際に佇んでいた。
物憂げな表情で俺を見つめ、弱弱しく微笑んだ。
ああ、やはり彼女は後悔しているのだろう。
俺に全てを教えたことを。
俺は思い出せないだけで、やがて全てを知っていくだろう。
俺にはわからないことだが、その全てを知ることで、俺は危険な目に遭っていくことだろう。
彼女にはそれが見えていた。だからこそ俺に知識を与えることを拒んだ。
俺の脅迫があってこそ、彼女は覚悟を決めて俺に全てを授けてくれた。
そして、俺はわかっていたように危険な世界へと足を踏み入れていく。
覚醒者としての、戦争の世界へ。
覚悟を決めたとはいえ、宿主が危険な目に遭おうとしているのは見ていられないことだろう。
それを見守らなければいけないという彼女の立場。心中お察しだ。
だからといって、後には引けないのだ。
俺の命は、俺とリルーネだけのものではなくなった。
仲間と、背負うことにしたのだから。
「いい仲間を持ちましたね」
リルーネは一歩近づいて、口を開いた。
「ああ、本当にな。心強いことこの上ない」
「期待には応えなければいけませんね」
――期待。
それは俺が脳の許容量を増やして戻ってくることだろうか。
それとも、多くの鍛錬を乗り越えて、支部長の試練を乗り越えることだろうか。
「いえ、その先です。彼らはきっと、あなたにそれ以上の期待を抱いている。だからこそここまで協力的なのだと思いますよ」
リルーネは補足をしてくれた。
その先、か。
つまりは遠征だ。
俺自身はせめて足手まといにならないレベルで、と考えていた。
でもよくよく考えると、中級解放をマスターしている覚醒者は多くはない。
そのレベルの人間が部隊に増えるのは、戦力面で大きなプラスだろう。
俺が支部長の試練を乗り越えるということは、部隊にとっても大きな前進なのだ。
「くっくっく、そう思うと、やる気が出てくるな」
先のことまで考えていなかったが、この鍛錬を乗り越えた先に、活躍の場が待っている。
そう思うとなんだか、心の奥底から力が沸いてくる。
視線を動かし、一つの壁を見つめる。
不自然にも高い位置にある扉。
俺は、この扉を開けて、その先にある部屋へと踏み出さなければいけない。
「リルーネ、あの時はまだ先へは行けないと、そう言っていたな」
俺は初めてリルーネと出会ったときを思い出していた。
あの扉を開けようと盛大にジャンプをし、盛大に背中から落ちた。
そこで声をかけられたのだ。
その先へは、まだ行けない、と。
「ええ、確かに言いましたね」
「と、いうことは、あの扉の開け方を知っているのか?」
俺はそう読んでいた。
なんらかの理由で、あの扉は開けられない。
その理由を知っているということは、すなわち開ける方法も知っているということになる。
「いえ、残念ながら。その先へ行けないと言ったのは、エルさんに覚醒者としての自覚がなかったからです」
リルーネは答えた。一瞬目を伏せて、再び視線を俺へと戻す。
「あの扉を開けて次の部屋に進むということは、脳の許容量を増やすと同時に、
覚醒者としての知識や記憶が引き出されるということです。
裏を返せば、覚醒者として知識や記憶を受け入れる器がなければ、扉は開かないことになります」
瞑想空間を広げると、何らかの形で覚醒者としての知識を引き出せるんだったな。
俺も次の部屋に足を踏み入れれば、何かを”思い出せる”のだろう。
あの時点では思い出すも何もないので、扉を開けることはできなかったということか?
難しい話だ。
わかりやすく言えば、こんな感じか。
教科書を開くと新しい知識が記されていて、勉強が出来る。
小学生にでもなれば、そういうもんだとわかっているから、教科書を開くことをするだろう。
しかし、そもそも教科書の中に新しい知識があることも、勉強が出来るということも知らなかったら。
そもそも教科書を開く意義を知らない赤ん坊は、教科書を開くということをしない。
扉を開けてその先に進む意義を知らなかった俺では、扉は開かないというわけだ。
たしかあの時は瞑想空間というものすら知らなかったから、どうにか出口を探そうともがいていただけだったな。
「じゃあ、今の段階なら開けることは可能なんだな?」
「ええ、そうなりますね。方法は私にもわかりませんが」
俺の確認に、リルーネは頷いた。
よし、とにかく扉を開けることは可能なのだ。
アレがどうがんばっても開かない代物であったのであれば、かなり絶望していたところだった。
さて、どうするか。
リルーネはあの扉の開け方は知らないときた。
前回のチャレンジでは、あの扉は押しても引いても開かなかった。
しかしそれは前述したとおり、開かないものだったからだ。
今の状態で同じようにやってみれば、開くかもしれないな。
「よし」
善は急げ、だ。
ここに居られる時間も無限ではない。
なんとかして成果を上げなければな。
俺は扉に向き合って、精一杯距離を取る。
助走をつけて、ドアノブに飛びついた。
カチャ
ドアノブ自体は、意図も簡単に回転した。
音的に、ノブを回すことに意味はありそうだ。
だが残念なことに、扉は奥へは動かなかった。
以前とどうように、壁を蹴って後ろへ引っ張ってみたが、それでも扉は動かない。
俺は一旦手を離して着地する。
今度は背中から落ちるようなヘマはしない。
「ふー、まじで鍵がかかってんじゃねえだろうな」
そうであるならば、すでに詰んでいる。
鍵なんてものは手元にないし、ピッキングなどという技術も持ち合わせていない。
いや、楽天的に考えよう。
初めから無理な試練などない。必ず方法はあるはずだ。
扉をじっと見つめる。
デザイン的には、一般的な片開きの扉。
押すか引くかで開くようなものだ。
しかし押しても引いてもだめなのだ。
つまり、違う開け方があると考えなければいけない。
デザインに惑わされてはいけないのだ。
例えば、横にスライドするとか。
うむ、あり得そう。
とにかく、試していないことを片っ端から調べていくしかない。
と、思ったが、俺は動きを止めた。
横にスライドする。
一見簡単な動きだ。
ドアノブを掴み、回し、横にずらす。
難しくはない。足が地面に着いていればな。
しかし現実はそうじゃない。
扉は地面から1メートルの高さにあり、ドアノブに関しては垂直とびをしてぎりぎり届かない高さである。
助走をつければ掴める位置にあるが、掴んだ後はぶら下がるだけの状態だ。
この状態で体を揺らして、扉をうまくスライドさせられるだろうか。
かなり難しそうだ。
「私も、何かお手伝いができればいいんですが……」
そんなことを考えていると、リルーネは俺がうんうんと唸っているのを見かねてか、そう声をかけてくれた。
彼女は部屋の隅の椅子に腰をかけて、俺を見守っていてくれたわけだが、見ているだけでは歯がゆかったのだろう。
そうか、手伝いか。
一人じゃ無理でも、二人ならできるかもな。
例えば、あの方法。
「リルーネ、こっちへ来てくれ」
「はい?」
俺の指示に、リルーネはてくてくと小走りで寄ってきた。
小動物みたいでかわいい。
「肩車だ。いけるか?」
「っ!?」
名案だと思った。
一人では高さが足りない。
たとえ掴めたとしても、体を揺らす反動だけで扉をスライドさせるのは難しそう。
ならば、肩車をしてドアノブを掴むことができれば、地面に足がついた状態を維持できるのだ。
そこまでいけば、横へスライドさせること自体は容易いだろう。
「わ、私が下ですか?」
「なわけないだろう」
「で、ですよね……」
どうみても体重は俺のほうが重いし、足腰の強さも違うだろう。
なぜリルーネが下になるという発想が出てくるのだ。
ふと彼女を見やると、なぜかもじもじと内股をこすり合わせている。
「どうした?」
「え、えと」
様子がおかしかったので、訊いてみる。
リルーネは動揺した様子で、口を開いた。
「私、スカートなので……」
スカート?
俺は目線を下にやる。
膝よりも少し高いところまでのスカート。
風もないはずなのに、ふわふわと揺らめいている。かなり不思議な素材だ。
すらりとキレイに伸びた脚に目を奪われる。
決して短すぎるというわけではないが、それでも女の子らしい太ももが見て取れる。
「別に覗いたりはしないが……抵抗があるなら、他の方法を考えるよ」
きっとリルーネは肩車をすることで、スカートの中が見えてしまうと考えたのだろう。
そう判断した俺は、決して覗かないことを約束する。
人の姿をし、人の感情を持つ彼女は一人の女の子として扱うべきだ。
「えと、そういうことでは……。わ、私が手伝いたいと言い出したことなので、や、やります」
リルーネは言葉を詰まらせながらも言った。
大丈夫か? 無理しなくてもいいんだが。
大丈夫です、という返事を聞いて、俺はすっと腰を下ろす。
俺から彼女の足の間に頭を入れるわけにはいかない。変態チックだ。
「ごくり……」
リルーネは喉を鳴らして、乗りますね、と一言。
床を見つめていた俺の視界に、すっとリルーネの足が伸びてくる。
片足、そして両足。
今振り向けば、完全にいろんなものが見えてしまう状態だ。
正直見たい、が約束は約束だ。理性を働かせる。
「よし、持ち上げるぞ。いいか?」
「は、はいっ」
俺の確認に、うわずった声が返ってくる。
俺はゆっくりと曲げていた膝を伸ばし、体を起こす。
ふわり、とスカートの生地が首に触れたかと思うと、すぐにリルーネの太ももの感触が感じ取れた。
(ウッ?)
こ、これは。
思わず心の中で声を漏らしてしまった。
目を見開いて、震える手で彼女の足を掴んだ。
バランスを崩さないように、一気に立ち上がった。
「きゃっ……」
リルーネは一瞬バランスを崩しそうになったのか、きゅっと股を閉じた。
お気づきだろうか。
この状況はやばい。
何がやばいって、まず女の子の匂いがすごい。
リルーネが俺を跨いだときから感じていたが、体を起こすと一層感じる。
なんつったって、顔の両サイドに、太ももがあるんだから。
バランスを崩すまいと下半身に力を入れたことで、
俺の顔はリルーネのやわらかい太ももに包まれている。
首の後ろには、スカート越しだが確かに感じるわけだ。彼女の感触を。
「そ、そうか……これはまずかったな……」
俺はかなり幸せな気分になっているが、リルーネはそうではないだろう。
下心はなかったとはいえ、肩車を提案した俺に非があるな、コレは。
「い、いえ。お気になさらず……」
彼女は下半身の力を抜いて、俺の顔を解放した。
やわらかい感触がすっと無くなる。
その代わりに肩で全てを感じているが。
「は、恥ずかしいので、早く済ませましょう?」
「わ、悪い」
リルーネはもじもじとした様子で、俺を急かした。
そ、そうか。リルーネには俺の心の声が筒抜けなんだった。
このまま悶々とこの状況を楽しむのも悪くはないとか思ったが、
それが彼女に伝わっていくというのは赤面モノだ。
お互いにとって一刻も早くこの状況を終わらせるのがベストだ。
「あの扉を横にスライドできないか試したい。ドアノブに手が届くか?」
俺はゆっくりと扉の前に立つと、そう指示を出す。
「は、はい。届きます。やってみますね」
カチャ、とドアノブがまわる音がする。
んしょ、んしょ、とリルーネが必死に扉を引っ張っているのがわかる。
「ドアノブを回して、しっかり掴んでくれてればいい。左右に移動するぞ?」
「は、はいっ」
再びきゅっと股が閉じられる。
うぐ……幸せなんだか苦しいんだか。
まずは右から。
ゆっくりと右へと移動して、扉をスライドできないか試してみる。
「びくともしませんね……反対側もですか?」
俺はああ、と返事をして左側へと移動する。
「……だめですね」
だめか。
横にスライドする方法も違うようだ。
押しても開かない、引いても開かない。
横にスライドさせる形式でもない。
他に扉にどんな開け方があるというのだ……。
「上下も、試しますか?」
リルーネの提案に、ピンと来るものがあった。
そうか、左右がだめなら、上下か。
試していないことは、試すに限る。
「そうだな。下方向へは、ぶら下がった感じからダメだな。上に持ち上げられるか試してみてくれ」
「はいっ」
俺の指示にリルーネが元気よく返事をする。
この状況に慣れてきたようだ。
……恥ずかしさを通り越して、麻痺しているともいえるか。
「んん~!」
ぐっと俺の顔を挟み込み、そのまま上方向へとドアノブに力を加える。
ぐぐぐ、と目の前の扉が上方向にスライドしていくのが見えた。
「おお! 開いたぞッ!」
「本当ですか! やりましたね……って」
俺はあまりの嬉しさに、大きな声を上げた。
リルーネもそれに反応してか、嬉しそうに声を出した。
が、その反動か、思いっきりバランスを崩す。
「うおおっ?」
「きゃっ」
盛大に、俺は背中から倒れこんだ。
「むぐっ」
直後、やわらかい何かが俺の顔を押しつぶし、俺は頭を強打した。
くそ、俺の背中はこの床を愛してやまないようだ。
「いたたたた……」
そんな皮肉を思いながら、リルーネの声をきく。
彼女は痛みを覚えているようだが、大きな怪我ではなさそうだ。
すぐに体を起こして容態を確認したかったが、頭を押さえつけている物体がそうはさせてくれなかった。
「ひゃあっ!? すっ、すいませんっ!!」
リルーネの慌てふためく声と同時に、俺の頭は解放された。
どうやら俺の上に乗っていたのは、彼女自身のようだ。
俺がクッションになったカタチか、それなら多少の痛みは我慢しよう。
リルーネは顔を赤らめながら、俺を上目遣いで見ている。
どうしてそんな可愛い顔をする。
破壊力やばいぞ、ソレ。
わかってやっているのかな。
にしても、さっきのやわらかい感触はなんだったんだ?
女の子はどこでもあんなにやわらかいものなのか?
俺は太ももとは違う感覚に女性の神秘を感じていた。
「エルさん……」
「ほっ?」
リルーネの声に、変な声を出して俺は正気に戻る。
「恥ずかしいので、無かったことにしてください」
彼女は今までにないほど顔を赤くして、目線を逸らした。
「お、おう」
どうやらかなり恥ずかしいようなので、これ以上感触を思い起こすことはやめておこう。
余裕をこいている時間もなさそうだしな。
「さて、扉の開け方はわかったが、どうしたもんか」
「ですね……」
あの扉は、上方向に持ち上げることで、隣の部屋へと道を開く。
しかし扉自体の重みのせいか、現在は元の状態に戻っている。
つまり、上方向に力を加え続けて、その下を潜るカタチが正解となる。
これが、普通に手の届く高さならいいが、1メートルの高さとなると難易度が跳ね上がるな。
「ちなみに、後どれくらいここに居られる? 瞑想が終わるタイミングは、わかるんだよな?」
リルーネはいつも瞑想が途切れるタイミングを知っている。
おそらく、俺の脳の解放具合と、その副作用の度合いからそれを掴んでいるのだろう。
「かなり無理をして、あと5分くらいですかね……気を抜けば、今にでも戻ってしまうかもしれません」
「そうか……」
くそ、あと5分か。
扉の開け方はわかった。しかし物理的に、あの扉を開けて先へ進むことは難しそうだ。
肩車をした状態では、扉を開けることは出来ても、1mの高さに足をかけることもできない。
何か、いい方法はないのか。
ここで瞑想が途切れてしまうと、ゲームオーバーだ。
数時間のひどい頭痛が俺を遅い、大幅に時間をロスする。
もう、中級覚醒者になる余裕もなくなるくらいにな。
くそ、高いところに手が届かない。
それだけでここまで苦しむのか。
どこかに、台でもあればいいのだが。
「台、ですか?」
俺の心の声に反応してか、リルーネが首を傾げた。
なにかいい案でもあるのだろうか。
リルーネを見ると、彼女は視線を動かした。
追うようにして、その先を見る。
「ん? 椅子……椅子!?!?」
なんてこった。盲点過ぎる。
そこにはリルーネがさっきまで座っていた椅子があった。
「台の代わりに、なりますよね?」
リルーネは俺の驚く表情を覗きながら、自慢げな笑みを浮かべた。
ナイスだ。俺一人では気づかなかったかもしれない。
「しかし、この椅子ひとつじゃあ高さ的に足りないな……」
椅子を掴んで見て、気づく。
高さは50センチとない。
この上に立っても、ドアノブに届くか届かないかのレベルだろう。
上に持ち上げる余裕も無い。
せめて1mの高さがあれば、扉の位置する高さ的にも合格なんだが。
「ありますよ、1mの椅子。ほら」
リルーネは俺の背後を指差した。
は?と声を漏らしながらも、俺は振り向いた。
「わぁお」
そこには、俺が掴んでいる椅子とまったく同じデザインの椅子が存在していた。
ただ、大きさだけが二倍ほどあった。
「ここでは、イメージしたものを具現化することが出来ますからね。少し、練習が必要ですが」
「そうなのか……」
そう言えば、何度かリルーネは何も無いところから椅子を出していたな。
あれはそういうことか。
確か結合中に空間でも出来るんだった。
ソファーとテレビを出して、なんて話をしていたばかりじゃないか……。
何やってんだ、俺は。
初めからその方法に気づいていれば、リルーネに頼んで簡単にことを進められたかもしれないのに。
皮肉にも、肩車なんぞしなくても済んでいたな。
彼女に恥ずかしい思いをさせなくてよかったわけだ、畜生。
「いいんです、私も思いつきませんでしたから。さぁ、時間が来ますよ」
リルーネは俺にそうフォローを入れてくれた。そして時間のことを教えてくれた。
もたもたしていると、5分経ってしまう。
ここまで来ておいて、扉を開けずに現実に戻るなんてギャグでも笑えない。
「ありがとう、リルーネ。助かった」
俺はさっと簡単に礼を言うと、二つの椅子を掴んで扉の前へと移動する。
リルーネにはまた別の機会にお礼をしなくてはな。
小さいほうの椅子を踏み台にし、大きい椅子に乗る。
正面から扉に向かい合うことに成功。
コイツめ。今開けてやる。
俺はドアノブをぐっと回すと、そのまま上方向に持ち上げる。
けっこーな重さだ。肩車の状態ではいささか無理をしたことだろう。
リルーネはすごいな。
「よし、いくぜ」
「はい、がんばってください」
俺の一言に、リルーネは笑顔でそう答えた。
俺はそのまま扉を全力で持ち上げ、その先へと足を踏み入れた。
廊下のような細まった空間があるだけで、その先に部屋は見えない。
「嘘だろ?」
寒気が走った。
ここまでやって、扉を開けて、見つけたのがこんなちっぽけな空間?
人が一人入るのでやっとの狭さだ。
これでは脳の許容量は大して増えないじゃないか、と絶望した瞬間。
脳裏で虹色の光が瞬いた。
「な、なんだ」
瞑想が解ける、そんな感覚ではない。
どちらかというと、瞑想空間へと入るときの感覚に近い……。
そんなことを思った刹那、脳が震えた。
――文字通り、脳が震えたのだ。
比喩じゃない。
虹色の光を放ちながら、俺の視界は歪んでいく。
頭蓋骨の中で脳が振動している。
「うぐっ……」
突如襲う頭痛。
瞑想空間の中で頭痛になるなど、初めての経験だった。
瞬いていた光は、ひとつの景色を作り出す。
大量の情報が、俺の脳へと流れ込んできた。
「ぐあああああああああああああああああ!!!!」
その初めての感覚に、俺は膝をついた。
「がんばってください……」
背後で、誰かが呟いた。
俺はその場に倒れこんだ。




