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気づいたら犯罪者だった  作者: あいしぇいと
第二章 鍛錬
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第十二話 「教育課程」

「で、さっきも言ったように、まずは脳の許容量を広げること」


 俺たちは鍛錬室と呼ばれる場所に来ていた。

 鍛錬室は、病室を挟んで瞑想室とは逆に位置している。

 造りは瞑想室と大して変わりないが、人が数人入れるくらいの広さがある。


 新たな決意を胸に、病室を出たのが約一時間前。

 すぐにでも鍛錬を始めたかったが、そもそも俺は栄養失調で倒れたわけで、そうもいかなかった。


 テラの話によると、脳を解放したときの消費カロリーは、通常時の3倍以上になるそうだ。

 俺は最後に食事をとってから、結合(リンク)も合わせて複数回脳を解放した。

 十分な栄養を採らずにいたことになり、短時間でもフラフラになったってわけだ。


 その話を聞いて1つ思い起こせたのは、この消費カロリーも脳の許容量が増えれば抑えられるということだ。

 ゲームの世界で言う、消費MPってやつだ。

 慣れないうちは数回で脳的にも栄養的にも限界を迎えることになるが、

 慣れてくれば何度も脳を解放できるようになる。


 つまること、要領がよくなる、というわけだ。


 とにかく、極度に疲弊していた体は回復のための栄養を欲していた。

 なので一旦食堂で食事をとってからの今に至る感じだ。


「主に覚醒者としての鍛錬は瞑想をして脳の許容量を上げるか、結合(リンク)をして技を磨くか。

 僕たちが協力できるのは後者の場合だけだから、寂しいかもしれないけれど、がんばって」


 テラはここへ来てから丁寧に俺の成長カリキュラムを説明してくれていた。

 素人の俺が手探りで成長を掴んでいくより、あらゆることを先に知っている先輩、いや先生に聞いたほうが断然いい。

 この成長カリキュラムに沿って鍛錬を重ねていくことこそが、仲間と強くなる第一歩である。


 リルーネから継承した知識も併せて聞いてみると、カリキュラムの説明は比較的スムーズに理解できた。



 ① 脳の許容量を広げる


 これはテラが初めに言ったように、初歩の初歩である。

 MPが1しかないのに、消費MPがそれ以上の魔法が使えるわけがない。


 これは前回の瞑想でわかったことだが、ただ瞑想を繰り返せば広がるというわけではなく、

 物理的もしくは他の方法で、瞑想空間を広げればいい。

 俺の場合はあの扉を開ければいい。


 その先の部屋に何があるかはわからないが、空間が広がる分、許容量も増える。


 ちなみに余談だが、瞑想空間は人それぞれ全く違う造りをしているらしい。

 支部長は俺の空間を見てなにやら頷いていたが、めずらしいモノであったのかもしれない。



 ② 覚醒者としての知識を得る


 瞑想空間で出会う大罪因子は、それが例え本や虫の姿をしていても、言葉を交わすことができるという。

 饒舌なヤツもいれば、寡黙なヤツもいる。

 そいつらは遺伝と共に受け継いできた知識を蓄積している。


 この大罪因子から、知識を引き出すことで、肉体を強化したり能力を得たりする。


 大罪因子はよっぽどのことがなければ宿主に協力的なので、

 宿主の脳の成長具合に併せて力を授けてくれるそうだ。


 例えば、本の姿をした大罪因子だとしよう。

 最初の部屋に本棚があって、そこで初めての出会いを済ませる。


 二つ目の部屋に出ると、さらに新しい本棚が見つかる。

 当然新しくなった本には、当然新しいページが追加され、新しい知識が手に入る、という感じだ。


 多少まどろっこしいかもしれないが、これはリルーネが言っていたように、

 大罪因子は宿主の命を重んじている。

 脳が育っていない状態で悪戯に知識を注ぎ込んだり、使えもしない能力を授けたりはしない。


 つまりはこうして①と②を繰り返しながら、次のステップを模索していく必要がある。



 だが、俺はそれが必要ないのではないか、と思っている。

 なぜなら、大罪因子(リルーネ)から、全てを受け継いだからだ。


 あまりにも強引だった気がするが、得てして俺は②をクリアーしている。

 思い出せない部分もあるが、これは①をこなせば勝手についてくるのだ。



 ③ 初級解放の反復


 ある程度①と②を繰り返していると、知識として初級解放のやり方がわかる。


 具体的に言えば、


 ・意図的に、かつ確実に瞑想空間に入る方法


 ・肉体を強化し、身体能力を飛躍させる方法


 ・皮膚を硬く変化させ、身を護る方法


 の3つだ。


 継承(セクサーション)が済んでいる俺は、この3つの方法がふわっとだがわかる。


 あくまでもふわっとだ。

 じゃあさっさと③から始めろよ、といいたくなるかもしれないが、自信がない。


 というよりも、瞑想を繰り返すだけであの頭痛と吐き気が襲ってくるというのに、

 おぼつかない肉体強化と皮膚硬化にチャレンジする勇気はない。


 ①をクリアーして副作用を軽減してから、これを反復し、習得する。

 息を吸うように初級解放できるようになれば、少なくとも自分の命を護ることはできる。


 と、いっても皮膚を硬化させながら全速力で逃げるくらいだが。



 ④ 中級解放の習得・反復


 ③と同じくして、脳が成長していけばやがて中級解放も習得できるらしい。


 ここに関してはふわっとすら思い出せない。

 知っているような気がするが、思い出せない。


 副作用がどんな内容であるかくらいはわかるが、

 ”傲慢”の能力がどんなものであるかは全くわからない。


 これは習得してからのお楽しみだ。




 と、いうように、④までをしっかりとこなせば、中級覚醒者としては合格だとテラは言う。

 まだ中級解放がおぼつかない遠征組すらいるらしく、中級解放が確実に扱える覚醒者は需要が高い。


 つまり、そこまでいけば”使えないゴミ”呼ばわりはされないだろうという読みだ。


 テラたちが協力してくれるのは、③と④において。


 ①と②は個人でやるしかないが、残りの二つは結合(リンク)が使える。



 結合(リンク)は、支部長がやって見せたように覚醒者が他の覚醒者の意識を脳に取り込む技術だ。


 あくまでも取り込むのは意識なので、傍から見れば魂が抜けたように肉体はその場に残る。


 結合(リンク)後の瞑想空間では、時間がゆっくり流れるなどのメリットは消えるが、以下のよい点がある。



 ・自由に物の出し入れができる


 これはマスター(瞑想空間を提供している覚醒者のこと)の技術によるが、

 様々な物を作り出せる。

 何もなかった場所に、いきなり椅子が、なんてことも可能だ。

 …どっかで見たシーンだな。



 ・肉体に影響を及ぼさない


 これは俺が一度体験したことであるが、

 どれだけ結合(リンク)中に怪我をしようが、現実世界に戻ればその怪我は無かったことになる。

 例え死んでしまったとしても脳内から弾き出され結合(リンク)が解けるだけで済む。

 つまり限りなく実践に近い戦闘演習も可能なのだ。


 一点誤りがするとすれば、全く現実世界に影響を及ぼさないわけではなく、

 脳の解放による副作用のみは現実世界に持ち帰ることになる。

 マスターは瞑想の数倍の負荷を得るし、中級解放でもすれば筋肉痛がおまけでついてくる。



 ・一定の空間を確保できる


 これはなるほど、な部分である。

 鍛錬室は、数人しか入れない狭さを誇る。

 支部長に狭いと言われた俺の瞑想空間よりも更に狭い。


 しかし、いくら現実が狭かろうが、結合(リンク)先の空間が広ければそこでゆったり過ごせる。

 ソファーとテレビなんかを出して、お茶菓子を作り出せばリラックス空間の完成だ。

 あくまでも意識の世界なので、テレビは一度見たことあるようなものしか放送されないだろうし、

 味覚に関しても同様だ。知ってる味を反芻するだけして、満腹感はゼロ。


 現実的な話として、戦闘演習をする場合にうってつけなわけだ。

 用意できる地形は限定されるだろうが、暴れられる場所を確保できるのは大きい。



 このようなメリットがあるため、

 戦闘演習も然り、初級解放の反復でさえも結合(リンク)中に行うことに意義が出てくるのだ。




 ……長々と説明したが、俺のやることはひとつ。


 自分の瞑想空間に入り、扉を開けて部屋を広くしなければ。


 ここでひとつ危惧するべきは、”もしこの一回で成功しなかったら”ということだ。


 例えば課題であるあの扉を開けるのに、2ステップ必要だとしよう。

 1回目の瞑想で1ステップまで辿りつき、次回で2ステップに至る。

 つまり、2回の瞑想を経て許容量を増やす行程だ。


 この行程には当然、次がある、という心の余裕が出来るために、

 あと少しのことろで冷静さを欠いたり、ミスを誘発したりすることが減る。

 一方で、インターバルが必要である。


 間を空けない二連続の瞑想は、不可能なのだ。

 当然、副作用の所為である。




 今の俺の副作用状況。


 初級開放(瞑想)


 ↓ 


 歩けないほどの頭痛(約2時間)


 ↓ ゆるやかに減衰


 激しい頭痛(4時間)


 ↓ ゆるやかに減衰


 平常時



 こんな感じだ。


 吐き気に関しては頭痛とセットで現れる、という感じで、明確には分かっていないが、

 今までの経験通りで行けば、皮膚硬化などの能力を行使した場合に表れることだろう。


 後は、激しい頭痛が残っている状態で無理に瞑想をした場合か。

 あのトイレが恋人事件が思い出される。


 結局重要なのは、1回瞑想を終えると、少なくとも2、3時間はでくの坊と化すということ。

 体調面を考慮するのであれば、合計6時間は浪費することになる。


 時間が惜しい俺達にとって、それは大きなダメージだ。

 というか、俺の成長カリキュラムに、そんな余裕はあるのだろうか?



「……。よーし!じゃああたし達は先にやっているわね! グリド、続きよっ」

「……うーい」


 俺とテラがうんうんとカリキュラムを練っている横で、

 痺れを切らしたようにロズが伸びをする。

 合わせるようにグリドも昼寝から目を覚まし、気だるげに返事をした。


「いいぜー」


 グリドがもう一度声を出すのを合図に、ロズがすっとグリドの額に手を伸ばした。

 ロズの手がグリドに触れた瞬間、パッと何かが瞬いて消えた。



 ……二人は目を瞑ったまま、沈黙を開始した。



「これ、もう鍛錬始まってるのか?」

「うん。今は、グリドの瞑想空間にロズが入っている感じ」

「ほぉ」


 結合(リンク)ってのは傍から見るとこんなんなのか。

 一方が何らかの方法で頭に触れ、その姿勢でピクリとも動かない。

 呼吸等の生命活動は行っているようだが、伸ばされた腕は震える様子は見せなかった。


「これってずっとこのまま?」

「ん? そうだねぇ、本人たちが結合(リンク)を解除すると戻ってくるよ。

 ちなみに外から強い衝撃を加えるか、触れ合ってる部分が離れれば強制的に解除される」


 なるほどね。

 強い衝撃ってことは、ちょっとくらいは何をされても関係ないってことか?

 意識は向こうへいっているわけだから、現実で起きていることに対応はできない。

 つまり、かなり無防備なわけだ。


 ちら、とロズを見る。


 ……オイオイ、別に俺は変なことを考えていないぜ。

 今は真面目な話中だ。

 ちょっとくらい目線が兵器に注がれていたって、至って真面目だ。

 知らないことを知りたいだけだ。

 もちろん、兵器のスペックも調べたいところではあるが。


 さて、感情を読み取ってしまう親友がジト目でこちらを見ている気がするので、

 視線を戻して本題に戻ろう。

 俺がこの二人の輪に入るのはまだ先だ。


 ……ずるずるとここまで引き延ばして悪かったな。

 今開けてやっからよ!



「――じゃあ、いってくる!」

「ところで、瞑想の仕方はマスターしたのかい」



 っておい。

 決意を言葉にしたところだろうが。

 水を差された感じを覚えながら、俺は答える。


「まぁ、なんとなくだが、前回で掴んだ感じはある。合言葉みてーなので」

「うんうん、じゃあ心配ないね」


 テラは安心したように息をついた。

 確かにここで瞑想できませんってなったらお話にならないわな。

 ご心配をおかけします先生。


 水を差されたついでに聞いておこう。

 これがラストチャンスであるならば、わかっておいたほうがいい。


「ちなみに、今回の瞑想で成果が得られなかった場合、どうなる? 目標まではなんとかなるもんか?」

「100%無理だね」


 ――即答。

 先生の組むカリキュラムに、瞑想二回分の猶予はないようだ。

 当然、その後の方に時間を割きたいところだろうしな。



「心配はしてないよ。1回で成功させればいいんだから」



 先生は生徒を信じてます、ってか。


「じゃあ僕はここで待ってるから、さくっと終わらせてきてよ」

「待っててくれるのか? 時間が惜しいのはテラもだろ?」


 聞いた話だと待機組は時間を惜しんで鍛錬に明け暮れるものだという。

 次の遠征に向けてというものもあるし、なにより革命軍はやることがないからだ。


「何言ってんの、待つっていってもほんの数秒でしょ。個人で行う瞑想なんだから」


 あ、そうか。

 忘れていた。

 じゃあ数秒後には、頭痛を克服した俺が戻ってくるってわけだな。



「ふー、じゃあ、今度こそ行ってくる」


「行ってらっしゃい」



 時刻は22時をゆうにまわっている。


 支部長の試練まで、あと6日。



 やればできる、なんとかなるさ。

 ――合言葉は、自分を信じる!だ。

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