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気づいたら犯罪者だった  作者: あいしぇいと
第一章 覚醒
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第九話 「傲慢であるという罪」

 

 部屋の扉を開け、おそるおそるロフトに上った俺は、ほっと胸をなで下ろした。


 ロズは、すでに眠りについていた。

 ちゃんとシーツを被り、どこかが露になっているとか、そういうのもない。

 むしろその寝顔は安心感を覚えるようなもので、

 それを見てしまった俺は、興奮とは程遠い感覚になっていた。


 ふとそこで、ロズの枕元になにか手帳のようなものが落ちているのを発見した。

 その手帳をよく見ると、表紙にロズの日記であることが記されていた。


「日記、か。ロズはそういうものをつけているんだな」


 俺はぼそりと呟く。

 日記は、まだ十代になったばかりのころに、ちょっとやってみた覚えがある。

 覚えがある程度なので、当然長くは続かなかったことだろう。


 ……記憶があいまいだ。

 だからこそ日記として記憶をカタチにするものなのだろう。


 にしても、大人になってもこうして日記をつけている人は多くは無いだろう。

 革命軍としての非日常なら、忘れようにも忘れられない気がするが。



 思い返してみると、長い一日だった。

 家を飛び出したのは、先日のことか?

 その日のうちにバイオスに捕らえられ、運ばれた。

 そこで幾分か寝ていたかもしれないが、拘束されながらでは十分な休息にならない。


 そして拷問を受け、テラたちに救出された。

 で、今に至るという。ざっと2、3日の出来事である。


 そういえば、どれくらいの間意識を失っていたのだろう?


 グリドが俺を担いでどこかへ走っていったところまでは覚えている。

 目が覚めたら、ここにいた。


 ……とにかく、だ。

 睡眠らしき睡眠をとっていなかったからか、

 いろんなことがあったからかはわからないが、

 疲労感が強く、非常に眠い。


 俺はそそくさとロフトの奥へ移動し、腰を下ろす。

 もう一度ロズを見て、ふぅと一息。


 ……今日のところは難なく眠りにつけそうだ。





 目を覚ましたときには、部屋には誰もいなかった。

 時刻は午前9時ごろ。

 俺の枕元には一枚の紙切れが置いてあり、ロズからのメッセージのようだった。


『支部長からの召集だって! 起きたら執務室へゴー!』


 ……召集?

 というか、起きたらゴーってアバウトすぎるだろう。

 時間が指定されているならばそれを伝えてくれるべきだし、

 緊急であるなら起こしてくればいいのに。


 そこまで急な呼び出しではないということか。


 とにかく、早く向かったほうがいいだろう。

 簡単な身支度を済ませ、部屋を出る。



 居住区の廊下でグリドに出会った。

 昨日からずっと寝ているハズだが、いまだに眠そうな顔をしている。


「よぉー、おきたか、エル」


 グリドはいつものように頭をかきながら俺に声をかけた。

 肌には汗のようなものが浮かんでいる。

 ジョギングでもしてきたのだろうか。


「……ん? 顔つきが戻ったな」


 簡単に返事を済ませた俺に、グリドはそう言った。


「顔つき? なんのことだ?」

「いや、気にしなくていい。早く支部長のところへ行け」

「あ、ああ」


 俺は後ろ髪を引かれながらも、グリドと分かれて執務室へ走った。



 執務室は、大広間からつながっている。

 ちょうど大広間を挟んで食堂の対角線上に位置する所だ。


 ひとつ応接間のような部屋をぬけて、奥にあるのがそうだ。


 応接間まで来ると、執務室に繋がる大きな扉が見えた。

 両開きの、木で出来た立派な扉だ。


 応接間はシンと静かで、本当に俺は呼び出されたのか、と疑うくらいだった。


 扉の前に立ち、少し考える。


 ロズが言うには、支部長からの召集だ。

 つまり俺を待っているのは支部長。


 召集というくせに、今ここにいるのは俺だけだ。

 もしかしたらすでに中にロズたちがいるかもしれない。


 しかし、グリドはすれ違ったばかりなので、部隊の召集というわけではないようだ。

 次回遠征の話であるのならば、部隊を呼んで話をするだろう。


 つまり今回のは、俺単体を呼び出した可能性がある。


「テラの、親父だよな……」


 革命軍の支部長、と聞くと少し身構えたくなるが、

 親友の父親だ。以前から面識もある。ちょっと見かけただけだが。

 前もらった手紙の内容からして、俺を小さいころから知っているみたいだし、そこまで抵抗は無い。


 だが、なんとなく嫌な予感がした。

 それが、俺単体の呼び出しであるなら尚更だ。



 俺は一度深呼吸をして心を落ち着かせてから、扉を叩いた。


「テラ隊のフィエルテです。召集に応じ参りました」

「……入りなさい」


 返ってきた声は、支部長のものではなく、女性のものだった。

 扉越しで確証は無いが、おそらく秘書のアトリエルさんだ。


 俺はごくりと唾を飲み込んで、おそるおそる扉を開けて執務室へ足を踏み入れた。

 伏せがちだった視線を上に戻し、部屋の奥を見る。


 部屋の奥中央には立派な机と椅子が置かれており、そこに支部長は深く腰掛けていた。

 部屋の隅にアトリエルさんと、見知らぬ女性が数名立っていた。

 誰もが美人で、魅力的だった。

 おそらく、全員支部長の奥さんだろう。



「よぉ、待ったぜ、エル坊」


 そう呼んだのは、まぎれもなく支部長だった。

 え、える坊……。

 手紙ではエルと記されていたので、その呼び方には違和感しかなかった。


「そう身構えるな。もう少し近くへ来い」


 俺の緊張を察したのか、支部長はそう言った。

 促されるまま、支部長の前まで歩みを進める。


 とても居心地が悪かった。

 なんたって、複数の女性から視線を浴びるのだ。

 別に変な視線とか怪訝な感じとかは無いが、

 何人もに見られながら歩くというのは決して気持ち良いものではない。


「ふむ……ちゃんと言い付けを守ったみたいだな。いい顔だ」


 支部長は俺の顔をまじまじと見ながら、そう呟いた。

 グリドといい、俺の顔がなんだってんだ。


 支部長はうんうん、と頷いてばかりで、会話を進めようとしない。

 一体何のために呼ばれたのかわからない俺は、どうしてもそわそわしてしまう。


「支部長」

「ん? おおぅ、そうだったそうだった。エル坊、お前に確認したいことがあってな」


 アトリエルさんが声をかけると、支部長ははっとした顔で要件を述べ始めた。


「確認したいこと、ですか」

「おう」


 俺の言葉にそう返事をすると、ギシという音をたてながら支部長が俺のそばにやってきた。


 ……ものすごい圧のある人だ。

 身長は俺とそう変わらないのだが、その鍛え抜かれた肉体の幅もあってか、

 とても大きな壁が迫ってくる感じを覚える。


「おめー、瞑想はできんだよな」


 支部長は俺の目を見ながら言った。

 口を開くとその圧力は一気に増し、体が強張る。


「え、えっと、まだ、故意には入れないんですけど、何度かやったことはあります」

「部屋はあるんだな。よし」


 俺のあいまいな回答に納得したのか、支部長は手を俺の頭にどんと乗せた。


「な、何を」


 俺はなにをされるのかまったくわからず、ただ立ち尽くす。

 支部長はそのままの姿勢で目を閉じた。


「力を抜いてください、エル君」


 挙動不審状態の俺に、アトリエルさんがそう言った。

 よくわからんが、とりあえず流れに身を任せればいいんだよな?


 俺はがちがちに強張った体をほぐすように、ゆっくりと力を抜いていった。



 ――瞬間、視界が暗転した。



 ッハ!?

 ぱっと目を開けると、目の前にいたはずの支部長がいなくなっていた。

 というか、すべてが変化していた。場所を移動したのだ。


 どうやって? どこへ?

 そんな疑問は一瞬で吹き飛んだ。


 見覚えがある場所。

 ここは紛れも無く俺の瞑想空間(脳内)だった。



「やはり、文様はシンと同じ虹、か」



 突如、低くどしんとした声が響いて、俺はばっと声の主を見る。

 ――支部長が、瞬く壁に手を添えて立っていた。


 おいおい、なんだよコレ。


 ここ、俺の脳内だよな。

 なぜ支部長が立ってる?

 おかしいよな、絶対。


 俺ははっとして、あたりを見回してみる。

 いつものような立方体の空間、少し高めに位置する扉。

 それらがあるだけで、リルーネの姿は無かった。


「お前の部屋は、せめぇなぁ」


 支部長は壁から手を離し、俺の方を向いて言った。


 お前の部屋、というくらいだから、

 間違いなくここは俺の頭の中なのだろう。

 なぜ支部長がそこに入り込んでいるか、という謎は深まるばかりだが。


結合(リンク)、初めてだろう。覚醒者はこうやって他人の瞑想空間に入る技術を持つ」


 結合(リンク)

 支部長の話によると、覚醒者Aの瞑想空間に、覚醒者B、覚醒者Cと、複数の覚醒者を招き入れることができるという。

 この複数、というのは脳の許容量に比例して増えるらしい。

 脳の許容量は瞑想空間の大きさが表していて、広ければ広いほど許容量も大きい。


 つまり、瞑想空間が広い覚醒者は、たくさんの覚醒者を招き入れることができるのだ。


 今回は、俺が不慣れということで、”招き入れる”というカタチではなく、”侵入する”カタチをとったらしい。

 脳内に侵入できるということを聞いて、危機感を覚えはしたが、

 体に力を入れたり、気を確かに持っているうちは侵入はできないようなので安心。


 一見瞑想空間なのだが、一人で行う瞑想とはシステムが違うらしい。

 なので現実世界では同じように時間が流れるし、大罪因子も姿を現さない。

 リルーネの姿が見えないのはそのためだ。


 だが副作用は当然のように来るらしく、部屋を用意した覚醒者の方が酷くなる。

 勘弁願いたいものだ。



「……で、この結合(リンク)をしてまで、確認したいことってなんですか? さっき言っていた壁の文様のことですか?」


 俺はあらかた結合(リンク)についての説明を聞いた後、単刀直入に訊いた。

 支部長は、確認したいことがあるといってここへ来たのだから。


「いや、それはついでだ」


 支部長はそう言って俺のほうへ歩み寄ってきた。


 ――ドガッ


 そして何の前触れも無く、俺を蹴り飛ばした。


「うぐっ!?」


 俺は蹴られた勢いで背後の壁に激突し、ずるりと腰を落とした。


「おめー、この革命軍を何だと思ってる」


 支部長は倒れこんだ俺を見下しながら、そう言い放った。


 なんなんだ、一体。

 なぜ、俺は蹴り飛ばされた。

 俺が何をした。


 革命軍を何だと思っている、だと?



「聞いた話によるとぉ、お前は二つ返事で革命軍に入ることを決めたらしいなぁ」



 その言葉で、俺はあの時を思い返していた。

 病室でテラと話をしていた時だ。


 わけがわからない状態で、自分が革命軍のメンバーであることを告げたテラ。

 革命軍が世界政府に対する組織であり、大罪因子を持つ者とそうでない一般人との共存を目指すものであると言われた。


 そして、その理想を俺も追うために、革命軍に入ることを決断した。


 それが、二つ返事、だと?


「なんだ、その眼は」


 支部長はそう吐き捨てながら、膝を曲げてまっすぐ俺を見た。


「バカ息子も大概だ。こんな甘チョロを拾ってくるなんざな」


 ――バキッ


 その言葉を聞いた瞬間、俺の視界は90度回転し、首と肩に激しい痛みが走った。

 支部長は俺の顔面を拳で打ち抜いたのだ。


 くっそ、何しやがる。

 ぎろ、と支部長を睨み付ける。


「ロズもロズだ。シンに憧れてるかなんだか知らんが、勝手に手紙を渡しやがって」


 支部長はそんな俺に目もくれず、踵を返し背を向けると、話を始めた。


 俺が受け取った手紙には、支部長からの歓迎の言葉が書かれていた。

 俺はてっきり、このまま革命軍に所属し、テラたちと共に活動をするものだと思っていた。


 でも思い返せば、順調にことが進みすぎてはいなかったか?

 あの世界政府が恐れるような”革命軍”に、そうも簡単に入れるものなのか?


 テラが入ろうと言い、俺が返事をして、晴れて革命軍か?

 ロズがテラから手紙を奪い、勝手に俺に渡して、俺はそれを読んだ。これで歓迎されたといえるか?



 ――目の前の男は、それを否定していた。



「手紙はな、お前が()()()使い物になるなら渡せ、とテラに預けたものだ」


 支部長は首だけを回転させ、片目で俺を見て鼻で笑う。


「こんな使い物にならんゴミに、可能性を感じるなんざな。使えない奴らだ。マシなのはグリドくらいか」



 その言葉に、俺は怒りを覚えていた。

 それは、自分を馬鹿にされたからではない。


 俺は確かに使えない。

 覚醒者として、何の役にも立たない。


 まさに、ゴミだ。


 でも、テラやロズに非があるのか。

 テラは、俺を救ってくれた。

 バイオスに殺されそうになるのを、助けてくれただけなんだ。


 ロズも、親切心で手紙を渡してくれただけに過ぎない。

 知識の足りない俺に、瞑想を勧めてくれた。

 なにもかもわからない俺に、いろんなことを教えてくれた。


 それを、使えない、だと?



 俺はゆっくりと立ち上がる。

 切れた口元の血をぬぐい、もう一度支部長を睨んだ。



 ボッと、一面の壁が赤く染まった。


「ほぉ、見事なもんだな」


 俺から目をそらした支部長は、感心したように色の変化した壁を眺めている。


「ふざけんなッ! 人を馬鹿にするのもいい加減にしろ!」


 俺は走り出し、支部長に掴みかかる。


「俺はともかくッ、テラはお前の息子だろ!? なんでそんなことが平気で言えるッ!」


 怒りをぶつけるしかなかった。

 義憤でしかない。

 俺は使えないのだ。そこは認める。

 だが、許せないのだ。


 テラは、いいヤツだ。

 ナルシストで、変態で、すぐふざけるし、女好きだが。

 俺を救い、俺の力になってくれる、俺にとってはかけがえの無い存在なんだ。


 ロズだって、昨日出会ったばかりだが、悪い人なんかじゃない。



「なんだぁ? そんなことで怒ってんのかおめーは」


 支部長は胸倉を掴む俺の腕を払うと、もう一度俺を蹴り飛ばした。

 後ずさるものの、今度は踏ん張ることができた。


「俺の息子をどう言おうが、どう使おうが、それはお前の知ったことではねえ。部下もそうだ。部外者のお前が、口を出すことではないだろ?」

「っ……」


 確かにそうだ。

 他所の家の事情に、口を出すことほど野暮なことはない。

 だが、幼馴染として、親友として、どうしても納得がいかない。


「お前はそんな俺に食ってかかろうとしてるがな、その俺の部下になろうって言うんだぜ?」


 支部長は、一瞬で俺との距離を詰めた。


「正気の沙汰じゃねぇよなぁ!?」


 ――ドガッ


 そして、もう一発。

 今度は組んだ両手で背中を叩きつけるように腕を振り下ろしてきた。

 直撃した俺はそのまま地面に突っ伏す格好となる。


 ひとつひとつの打撃が、まるで鈍器で激しく打ちつけられているかのような威力だった。

 血を吐いてもおかしくないほどの内臓の痛みが俺を襲っていた。



「こういう時はこうか? 俺を倒せたら、革命軍に入れてやる。とでも言えば良いのか?」


 俺はなんとか腕に力を込め、顔を上げる。

 支部長は、冷徹な目で俺を見下ろしていた。


「だが、現実は甘くねえ。お前は、革命軍には、入れない」


 突きつけられた事実。

 この数分のやり取りだけでわかる。この人は強い。

 覚醒者としての力とか、そういうものは一切使っていない、地の力。

 鍛え抜かれた肉体と、精神に裏づけされた戦闘力だった。


「かといって、革命軍について知ってしまったお前を、そう易々と帰すわけにもいかねえ」


 支部長はそう言いながらしゃがみこむと、俺のあごを掴み、ぐいと持ち上げた。


「なぁ、死ぬか?」


 寒気が走った。

 この男の目は、今にも俺を殺しそうだった。

 いつか見た、犯罪者を見る人間の目だ。


 俺を一人の人間としてではなく、排除するべきモノとして見ている、そんな目だ。


「おめー、このていたらくで遠征に出ていたら、どうなった?」


 支部長は言った。

 遠征に行く。

 テラたちは、俺は後ろをついていくだけでいいと言っていた。


 ついていったところで、

 足手まといになることは確実だ。


 だが、図々しくも、俺はそれを見て学ぶのだ。

 そして、いつか俺も戦えるように、強くなる。


「俺はッ、決意したんだ……ッ。ぶれない強さを手に入れると……そう、誓ったッ」


 それでいいと、テラが認めてくれたんだ。

 俺はそれを信じる。

 俺は俺にできることを、精一杯やるだけだ。


 俺の言葉に、支部長はもう一度鼻で笑った。



「ふん、なぁエル坊。ならおめーはなんで昨晩そのまま寝た?」



 ……。



「こんな時間まで起きなかった?」



 そうか。そりゃそうだ。


「お前以外の覚醒者は、皆朝早くに起き、鍛錬にいそしんでいたぞ。お前だけだ、余裕をこいてんのがな」


 俺はさっきグリドとすれちがった。

 グリドは、なにやら汗をじんわり浮かべていて、なにかをした後だとわかった。


 あれは、ジョギングなんかじゃない。

 鍛錬をしていたのだ。



 俺がぐーすか寝ている間に、

 グリドは、テラは、ロズは。

 強くなるために、時間を惜しんで鍛錬を重ねていたのだ。


「もし使えないお前をかばって、テラが怪我をしたらどうする」


 いたたまれない気持ちになるだろう。


「もし使えないお前のために時間を割いたばかりに、ロズが敵に後れを取ったらどうする」


 申し訳なさで一杯だろう。


「もし使えないお前のために、グリドが死んだらどうする」


 ――耳が、痛かった。


「それが決意だというのなら、笑わせる。だからおめーは甘チョロなんだよ」


 すべてを、支部長は知っていた。

 きっと、大広間で俺とテラが話していたことも知っていたのだろう。


 そうだ、この男は人の感情を読むのだ。

 心を、見透かしているのだ。

 テラがそうであるように、色欲の覚醒者として。


 そして、俺の決意の浅さと、認識の甘さを、指摘したのだ。



「いいかぁ、お前はこのままでは革命軍に入れない。だが、猶予をやろう」


 ぱっとあごを離されると、俺は力なく地面に叩きつけられた。


「テラの部隊が出発するのは一週間後だ。その時もう一度だけ、確かめてやる」


 俺は地面を見ながら、拳を握り締めた。

 チャンスを、与えられたのだ。


「お前は使い物になるヤツなのか、それとも使い物にならんゴミなのかをな」


 ――その言葉を最後に、視界が暗転し、俺は瞑想空間は追い出された。



「目を開けろ」


 支部長の声のままに、俺は閉じていたまぶたを持ち上げた。

 見えた景色は執務室であり、現実に戻ってきたことを実感させる。


 先ほどまで感じていた体の痛みは消えていた。

 口元から零れてきていたはずの血もなく、何もかもが元に戻っていた。

 ただ、副作用の頭痛を除いて。



「話は以上だ。アトリエル、送っていけ」

「はい」


 支部長は俺にそれ以上目をやることもなく、ソファーにどかりと座り込んで書類に目を通し始めた。

 俺はアトリエルさんに促されるままに、執務室を後にした。




 応接間で、アトリエルさんが口を開いた。


「支部長は、本当はあなたに革命軍に入ってほしいと思っているのですよ」


 その言葉は、意外なものだった。

 あの人が、俺を求めている、だと?


「不器用な人ですからね。ただ、あなたに死んでほしくないのです」


 支部長は、使えない俺の存在を咎めただけだ。

 一方的に俺を蹴り、殴り、屈服させた。

 己の無力さを、体に叩き込むように。


 ……いや、本心ではわかっているさ。

 お前はこのままではいけないと、ムチを打ってくれたのだ。


 今回の話がなければ、俺は腑抜けた図々しい人間のままで、

 きっとテラたちに大きな迷惑をかけ、革命軍の足を引っ張ったことだろう。


「もしあなたが思うように、冷徹で残虐な人ならば、猶予など与えないわ。結合(リンク)もせず、その場で打ち負かしたでしょう」


 そうだ。

 支部長はチャンスをくれた。

 痛めつけはしたが、結合(リンク)中だったからか、現実世界では特に問題も無い。

 頭痛にしたって、副作用を軽減していく過程で通る道だ。


 俺はアトリエルさんの言葉に、わかっています、とだけ言って頷いた。


「精進、なさい」


 その言葉を最後に、俺は応接間を後にした。




 一週間後だ。

 遠征が、始まる。


 その時までに、強くならねばならない。

 せめて、支部長に認められるくらいに。

 テラたちの足を引っ張らないほどに。



 俺には時間が無い。

 甘えている暇など無い。



 俺は新たな決意を胸に、大広間の床を踏みしめた。



―― 第一章 「覚醒」 完 ――

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