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気づいたら犯罪者だった  作者: あいしぇいと
第一章 覚醒
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  閑話 「エル君との出会い②」

 もぐもぐ。

 ゴクン。

 もぐもぐ。

 ゴクン。


「相変わらず、その食べっぷりは健在だね……」


 横で肉まんを食べるあたしを眺めるテラ。


「ふぉーよ! あふ、あふ。はへっ」


 返事をしようと思ったけど、とにかく食べるの優先です。

 ここの料理はとってもおいしいんだけど、中でも肉まんがサイコーなのよ。


 これはあたしじゃなくたって、食べるのに夢中になるハズ!



 ……これはあたしが食い意地が張っているとか、そういうのじゃないの。

 もちろん食べること自体が好きなのはあるんだけど、覚醒者としての話。


 ”暴食”の覚醒者は、食べなきゃだめなの。


 暴食だから、たくさん食べる

 のではなくて、

 暴食だから、たくさん食べないといけないの。


 伝わるかな?


 まぁ簡単にいっちゃうと、お腹が減ると理性が弱まるの。

 なんとかして食べないと、って脳が悲鳴を上げる。


 だからお腹が鳴ったらとにかく食べる!

 これは必須なことなのです。えへん。



 自慢することじゃなかったかなぁ、と思ってた矢先。

 隣で笑ってたはずのテラが、かくんと膝を曲げた。

 そして、そのままパタンと倒れた。


 やば!?

 とは思わず、冷静にテラの容態を確認。

 顔の筋肉が引きつってる。

 あたしは一瞬で悟った。

 あー、筋肉痛かぁって。


 テラは今日の今日まで諜報活動でバリバリ動いていたみたいだし、

 世界政府の施設で暴れてからここへ来たんだもんね。


 中級解放まではしてるんだろうなぁ、という印象。

 だから、副作用の筋肉痛が来てもいいタイミング。


 一応、病室まで運んであげないと、と思ったその時。


 エル君が颯爽とテラの元へ駆けてきた。

 きっと倒れたテラを気にかけて、だと思う。


 さっきのこともあったから、あたしは変に意識しちゃって、ぽかんとしてしまった。


「悪い、エル。筋肉痛……」


 テラはエル君にそう応えた。


 ぷっちん。

 変な音が聞こえた。


 するとびっくり。

 エル君はテラの足をがしっと掴んで、ずるずると出口に向かって引っ張り始めた。


「わーお……」


 けっこう強引なところ、あるんだ。

 二人は小さいころからの仲らしいから、そんなもんなのかも。


 でも、筋肉痛、けっこー痛いのよね。


 ちゃんと運ぶように、言わないと。

 でも、肉まんが残ってるから、食べてから、ね。


 ごめん、テラ。




 肉まんを全部平らげてから、エル君を追いかけたんだけど、

 結局病室まで来てしまった。

 なかなかの勢いで引っ張ったことになる……うへ。


 病室から出てきたエル君に、テラのことを聞いてみると、一応中で寝かせてくれたみたい。


 にしても、二人は本当に仲がいいんだなぁ。

 ちょっとうらやましいや。


 この革命軍支部で歳が近い女の子は二人だけ。

 クロシェル隊のセレンとネイヴィ。

 セレンはよく話すけど、ネイヴィは無口だからなぁ。



 筋肉痛のことをエル君に話すと、どうやら知らなかったみたい。


 それもそうだよね、覚醒者として自覚したのはつい最近。


「ああ、そっか! エル君はまだ知らないことばっかだね! それじゃあ……」


 あたしは瞑想室のことを教える。


 なつかしいなぁ、瞑想室。

 最近では戦闘訓練重視だから、瞑想もあんまりやらないなぁ。


 あたしがまだ覚醒者なりたてのころは、よく通ったもの。

 ベルちゃん、元気かなぁ。

 また今度会いに行こう。



 あっ、そういえば、テラって支部長から手紙預かったって言ってなかったっけ。

 うーん、別に急じゃないんだろうけど、テラは目を覚まさないだろうし……。


 代わりに渡しておこうかな。


 あたしはそう思って、病室に入る。


 よいしょっと。

 多分ここに入れてるんだろー。


 あたしは慣れた手つきでシャツのボタンを外していく。

 もちろんテラの、ね。


「えっ? えっ? ロズ……さん!?」


 気になって追いかけてきたのか、エル君は動揺した様子。

 どうしたんだろ?


 にしても、さん付けってアレだなぁ。

 よそよそしいよね。

 エル君とはもっと仲良くなりたいし……。


「あたしのことは呼び捨てでいいよー」

「や、ああはい。えっと、ロズ……なにしてるんすか?」


 あたしがそう言うと、エル君は素直に呼び捨てで呼んでくれた。

 なんかいいなぁ、その声で呼ばれると、こう、キュンってなる!


 あ、でも、あたしの方は君付けで呼んでるじゃん。

 ま、いっか。


 頭のかなでそんなことを考えながら、服の裏から手紙を発見。

 やっぱりあった!


「テラはねーこうやって服の中に大事なもの入れとく癖があるのよー。だから今回も、と思って」


 ということで、あたしの読みは正解。

 これ間違いなく特殊紋紙だし、支部長からの手紙だね。


 特殊紋紙ってのは、大罪因子に反応して紋章が浮き出る仕組みの紙。

 覚醒者は手にとってちょっと集中すれば読めるようになるし、

 そうでなくても専用のキットを使えば読める。


 でも、なにも知らない人にとってはまったく読めないから、機密性としてはけっこー高い。



 あたしは手紙を渡して、この支部のことと、この後にある集会のことを伝える。

 エル君とばいばいして、廊下を駆けた。


 しばらく進んでから、ぴた、と足を止めた。

 少しの沈黙のあと、振り返る。


 瞑想室へ向かうであろう彼の背中。



「エル君、かぁ」


 あたしはぼそりと呟いた。


 第一印象。


 まず声がカッコイイ。

 シンさんの声も透き通ってていいけど、そこにちょっと若々しさを足した感じ。

 こーいうのイケボって言うんだよね?


 見た目。

 これは予想以上だった!

 シンさん派のあたしとしては、シンさんの若いころを見ているようで、思わず見惚れるくらい。


 一般的のカッコイイ顔、っていうわけじゃないんだけど、ね。

 どっちかっていうとカワイイんだよなぁ。えへへ。


 思い出したらにやにやしちゃう。


 性格は、まだぜんぜんわからないんだけど……。

 感情豊か、かも。


 というか、思っていることが顔に出てる。


 驚いたり、悩んでたり、怒ってたり……

 今日だけでもいろんな顔が見れたなぁ。


 あ、ちょっと強引なところも発見したっけ。


 まだ笑顔を見てないや。

 シンさんみたいに笑うのかな。

 早くみたいな。



 ここまでずっと考えてて、はっとなる。


 ずっとエル君のこと考えているなぁ、って。


 別に恋愛感情とか、そーいうのを抱くわけじゃないんだけど。

 というか、あたしにはそーいうのよくわかんないし。


 そろそろ、考えたほうがいいのかなぁ……結婚とか。


 エル君と結婚かぁ……。



 うへ。

 今日会ったばかりの男の人で、何想像しているのよ、あたし!


 ぶんぶん、と頭を振って、息を大きく吐く。



 でも、有望株には間違いない!

 なんたってシンさんの息子なんだから!


 よくよく考えれば、セレンやネイヴィは遠征に出かけてるじゃない!


 それに、所属する部隊はあたしと一緒。


 これは有利だぞ~!!

 えへへ、がんばろっと。


 チャンスはきっとやってくるよね。






 で、チャンスは急にやってきた。

 これはチャンスなの!? と自分に聞いてみたけど、

 そういう経験がないあたしは何も答えてくれなかった。



 何が起きたかって言うと……まずは、部屋割り、ね。


 あたしたちの寝泊りしているテラハウスは、ロフトつきのちっちゃい部屋なの。


 グリドが大男ってのもあるけど、下の部屋は男二人でいっぱいいっぱい。

 さらに狭い上のロフトであたしは寝ているんだけど、

 新しく入るエル君が寝る場所をどうするってなって……。



 今に至る。

 ねぇ、これってチャンスよね。

 このままいけば、上のロフトであたしたち二人で寝ることになる。


 う、うへ……男の人と二人であの狭いロフト、かぁ。


 だめよ、だめ。

 あたし、がんばるって決めたの。

 弱音をはいちゃだめよ。

 なんたって、お姉さんだもの。


「えっと? この場合エル君上かな? よろしく~」


 あたしは何食わぬ顔を必死で作って、さりげなーくエル君を誘導。

 予想通り、エル君は目を見開いて口をぽかーんと開けてる。


 そりゃそーよね。


「下は二人でいっぱいだからな、しゃーない」


 ここでグリドのフォローが入った!

 にやにやしてるのが気に食わないけど、今回はナイスよ!



「いやいやいや! まずいでしょ?」


 エル君はそう言って首をぶんぶん振っている。


 あは、すごく動揺してる。

 なんか小動物みたい。かわいいなぁ。


 ちょっと意地悪したくなっちゃう。


「なにがよ! あたしと一緒がいやってこと!?」


 なーんて言ってみたり。

 悪い女ね、あたし。


「いや、そんなことはないですけど」

「じゃ、きーまり! ほれ、上って」


 よっし、もらったぁ!

 なんか楽しくなってきた!えへへ。



 グリドはいち早く寝るといいながら部屋に入っていった。


 時間的には、まだ寝るには早いかな……?

 でもグリドは疲れているっぽいし、こんなもんか。


 エル君の背中を押すと、彼は素直にロフトへ上っていく。



 えへへ、作戦成功!


 これであたしとエル君は二人きりロフトで……


 ロフトで……?



 そう考えた瞬間、ぼっと顔が赤くなる。


 あたしはなんてことを!


 エル君の反応が可愛かったから、ついつい上を勧めちゃったけど、実際どうなるの?

 チャンスをものにするには、具体的にどうすれば?


 男の人と寝たことなんてないし……

 いくらエル君と仲良くなりたいからといって……


 なんか急過ぎるよね!?



 と、とにかく。

 エル君を急かして上らせたんだから、いつまでも下にいるわけにはいかないわ。


 ええい、ままよ!


 あたしははしごに足をかけた。




 ……のぼってみると、エル君がロフトの奥でかちんこちんになっていた。


 一目で緊張しているのがわかる。

 うふふ、このエル君を見ていると、あたしの緊張なんて吹き飛んじゃうね。



「奥に余りのシーツあるから、それ使って?」

「あ、はい……」


 あたしがそう声をかけただけで、エル君はびくんと体を震わせた。


 だ、だめだ。可愛すぎる。

 シンさんそっくりの顔で、シンさんらしくない豊かな表情。

 ギャップ……これがネイヴィの言っていたギャップなのね!


 なんていうかネイヴィはセレンを見ながらギャップって言っていたのよ。

 多分これのことだと思う。ロズさん賢い。




 しばらくロフトの壁を見ながら考える。


 ロフトで二人きり、かぁ。

 下にはグリドがいるけど、もう寝てるだろうなぁ。


 寝るにしては、まだ早いもんね。

 ちょっとお話するくらい、いいよね。


「グリド、ねちゃったね?」


 あたしの言葉に、すぐに動揺を見せるエル君。

 あれ、ちょっと会話しようと思っただけなのに。


 あはは、本当に可愛いなぁ。

 よーし。ここはお姉さんがからかってあげよう。


 あたしはすっと髪飾りに手をやり、結んでいた髪を下ろす。


 これも、ネイヴィの教えてくれたやつ。

 ネイヴィはあまりしゃべらないけど、乙女のなんたるかを教えてくれる。

 男の子は、女の子の髪型が変わるとどきっとする?らしいの!

 これは実践よ!


 すると、一瞬で効果が現れた。

 エル君はあたしの姿を見て、頬を高潮させ、目を泳がした。


 あーもう、なんでそんなに可愛いの!


「エル君って、顔、かわいーよね~」


 あたしはそんなことを言いながら、エル君の顔をのぞく。

 わ~。キレイな肌してる。

 まじまじ。


 もうちょっとよく見たいから、距離を詰めてみる。


「ふふ、どーしたの? 顔、赤いよ?」


 エル君は返事をしなかったけど、少し涙ぐんでいる。

 なんか、悪いことしているみたい。

 ぞくぞくしてきちゃった。



 よーし、ここまできたなら、あたしやるわよ!

 悪いお姉さんを、演じきるわ!



「こーいうの、はじめて?」


 そんなことを言いながら、エル君の胸に手を添える。

 わ、あっつい。

 あたしも緊張で熱いハズなんだけど、エル君の体はそれ以上だった。



 男の人に触れるのに抵抗はない。

 テラもそうだし、グリドもそう。


 まわりは意外そうな顔をするけど、意識をするからダメなのよ。


 そう、あたしはすべてを経験してきた悪い女なの!


 ほんのところは、あたしこそはじめてなんだけどね、こーいうの。



「こっこここここーいうのですか!?!?」


 エル君は、まさに動転!という感じで体をのけぞらせる。

 でも残念、後ろは壁なの。

 悪いお姉さんに追い詰められているのよ! うふふ!


「男女で、寝るの。嫌じゃないんだよね?」


 こんなことを言いながら、ただ寝るだけだったらこんなことしないなぁ、と反省。

 でもこのドキドキを、少しでも長く楽しみたいと思うあたしがいた。


「緊張、してるのね。リラックスしていいのに」


 エル君に触れていた手から、彼が本当に緊張しているのが伝わる。

 エル君の鼓動が、とても速くて。

 あたしの鼓動も、とても速い。


 ふわっと、男の人の匂いがする。


 うぐ、エル君のにおい……


 さっきまで優勢ぶっていたお姉さんは、一気にくずれそうになる。


 ちらっと、エル君の顔を見た。



 ――!!?



 思わず、ドキッとした。

 エル君の表情は、今までの困惑の表情ではなく、きりっとしたものになっていた。

 そして彼はあたしの目を見ながら、ゆっくりと口を開いた。



「ロズは、すごい可愛くて、しょーじき魅力的です。こんな状況、落ち着けないです」



 えっ。


 ……。


 えええええええええええええええええっ!?!?!?


 やだ、もう。

 急に可愛いとか……魅力的とか……

 そんな面と向かって、真面目な顔で……


 お姉さん、崩壊。

 どうしよう、困らせちゃった。

 とにかく、謝らないと。


「ごめんね」


 あたしは視線をシーツに落として、つぶやいた。


 あはは、やりすぎちゃった、かな。


 エル君、あたしのこと意識してくれてたんだもんね。

 それだけでよかったのになぁ。


 調子にのっちゃったかも。


 でも、なんか……

 あのドキドキ、悪くないなって。

 思っちゃったな。


 これが男の人なんだって。

 思っちゃった。


 これがテラや、グリドだったらどうなんだろう。


 同じようになったのかな。


 ――ううん。


 これはエル君だからだよね。


 今日会ったばかりだけど。

 エル君のことばっかり考えちゃうし。


 この気持ちはよくわかんないけど、特別なものなんだろーな。


「……でもいいの、エル君なら」


 あたしは気づいたら、そんなことを呟いていた。




 ……。




 一瞬で、エル君の顔つきが変わった。


 何かを決意したような、顔。


 体が、硬直する。


 うへ、かっこいい。


 エル君の腕が、伸びてくる。


 だめだ、体が言うことをきかない。


 視線も、エル君から外せない。


 でも不思議と、嫌な感じはしない。


 あたし、どうなっちゃうの……?




「ハイ、お楽しみはそこまでー」


 その瞬間、テラの声が響いた。


 ぱっと、エル君がいつものような可愛い顔に戻った。

 同時に、あたしの強張っていた体から力が一気に抜けた。


 あはは、すごかった。

 あんな顔もできるんだ。あたらしい一面だ。

 男の人って、エル君って、すごいなぁ。



「また、ね?」



 えへへ、緊張したけど。


 あのまま、どうなっちゃうのか。


 この気持ちが、どうなってしまうのか。


 ……いつの日か、教えてね?

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