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第49話 新しい一歩

 すっかり暗くなってしまった。

 昼間悠と一緒に過ごしていたホテルに戻ると、皆藤が膨れっ面で待ち構えていた。夕食の前にメイクをする約束をしていたのだから、まだホテルに残っていてくれたことに史華は密かに感謝した。

 部屋に入るなり平謝りをする悠から事情を聞いた皆藤は、史華を見てニコリと笑う。


「もう時間がないから、簡単にしかできないけど」

「いえ」

「悠クンからのリクエストどおりに仕上げるから任せて」


 皆藤は史華にウインクをして手を引く。ガウンに着替えさせられて椅子に座らせられるなり、すぐにメイクが始まった。





「ふふ。できたわよぉ」


 皆藤の声に史華は目を開ける。鏡に映る自分の姿はいつもより愛らしく華やかに見えた。


「ドレスはシックなものだから、お顔は華やかに。背筋をピンと伸ばして振る舞うだけで、どこぞのモデルにも張り合えるわよ〜」

「おお……」


 自分の顔のはずなのに自分のものじゃないみたいに史華には感じられた。大変身である。

 特に目元のメイクは覚えておきたいくらいだ。すごく目をひく印象的な目元で、地味に感じられるいつもの自分の目元とは大違いである。

 あっという間にこのメイクができたのは皆藤さんの手腕があるからこそだろうけど、時間をかけたら寄せることくらいはできるかな……。

 完成を告げたタイミングで悠が顔を出す。


「さすがは皆藤。モデルがいいのは言うまでもないけど、モデルのよさをさらに引き出すのは皆藤の腕のなせる技だな」

「ふっふー。褒めてもまけてあげないわよ」

「また仕事を頼むさ」


 掛け合いのような言葉の応酬をしながら、皆藤はテキパキと道具を片付けていく。次の仕事が待っているのだろう。


「じゃあ、アタシはこれで。良い週末を」


 荷物をまとめるなり、皆藤はひらひらと手を振りながら部屋を出ていった。


「皆藤を待たせた分の請求は向こうに回しておこうかな」

「緊急のお仕事では仕方がないじゃないですか」

「それはそうだけど」


 悠は大きく息を吐いた。


「どうかしました?」

「食事の前に一件、史華ちゃんに許可を取っておきたいことがあって」

「なんでしょう?」


 まだ話が残っていただろうか。長くなったら夕食の予約に間に合わなくならないだろうかと、史華は少しズレた心配をしながら耳を傾ける。

 悠は史華に真っ直ぐ身体を向けた。


「史華ちゃん、君に株式会社ラブロマンスの社員になってほしいんだ」

「……はい?」


 いきなりなんで、と首を傾げたところで、車でホテルに戻る際にそんな話をしていたのを史華は思い出せた。

 悠は続ける。


「恋人として、伴侶として君のことを考えたときにどうなのかと思って、史華ちゃんの身辺調査をしたのだけど、そのときにふと気づいたんだ。君の持つ能力は俺の会社が必要としているものだって」

「え、いやいや、あたしの専攻って都市工学ですよ。環境寄りの。街の設計デザインとか、小さなところでは屋内環境の調整とか、そういう」


 人間が暮らす社会において様々な不便さやストレスを感じることが多いが、それを周辺の環境、道具などを変えることによって快適なものにするという勉強をしてきた。それが彼の仕事に活きるとは、史華はすぐには思えなかったのだ。

 悠はニコニコしている。


「確かに君の学んできたところでは、僕が見ている世界よりも広い範囲を相手にしている。でも、小さな部分の積み重ねから君が学んできたものに繋がっていくと思うんだよね」

「なるほど……」

「それに、女性に幸せになってほしいという願いをコンセプトにしている我が社ではあるけど、もっと大きなものをプロデュースしたいという野望があってね。きっと君の意見が参考になると思うんだ。どうかな、悪い話じゃないだろう?」

「ええ……考えさせてください」


 即決できなかった。自分に都合が良すぎる。頬を引っ張りたかったけれどメイクをしてもらった直後なのでできないことを史華は歯痒く感じた。


「いいよ、じっくりと考えて。お腹が空いているときに大事な決断をするものでもないから」

「ありがとう、ございます」

「じゃあ、着替えたらディナーにしよう」


 促されて、史華は急いでドレスに着替え直すのだった。


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