例え誰にも必要とされなくとも
「勇者よ。なぜ戦う?お前の事など誰も必用としていないのに。」
魔王はそう言って勇者を笑った。勇者は精一杯の笑顔を浮かべて、
「この世に生を受けてから、皆から受けた恩ゆえに。この戦いは決して崇高なものではない。私が戦わねば、多くの人が死ぬ。私が戦えば多くの魔物が死に絶える。決して善なる所業ではなかろうて」
魔王は大きく口を開けて笑った。
哀れみを目に浮かべた。
「勇者よ。お前の事を必用としているものなど居らんではないか?皆、勇者バルバロスに期待しておる。お前の事など雑種としか見ておるまいて」
勇者は寂しく笑った。
「それでも、僕は皆のためにここで戦う。お前を倒し、平和をもたらす」
魔王は首を振った。
「お話にならない。お前のは誰かに認められたいという幼稚な考えの発露に過ぎない。一体誰がお前の事を認めよう?お前は奴等にとっては恥たる混じり物だ」
勇者は俯いた。薄々自分でも気づいていた。自分の感情がただ、皆を救いたいという綺麗な物ではないのだということに。
「いけないのか?認められたくて貴様を討つのは?」
魔王は溜め息を吐いた。
「悪くはないさ」
ならばここで貴様を討つ。勇者は剣を奮い上げて駆け出した。