?の章 第5節
彼女の、その顛末を見た。
正確には、『思いだした』。
目を覚ました時、涙を流していた。それに反して鼓動は一定のリズムを保っている。落ち着いた鼓動に反し、感情は大きく揺らいでいる。
「……」
彼の元へと足を運んだ。
彼の部屋に入る時、右手にはグリップのない、形状は刀に近い、白い剣が握られていた。
いつもの歩幅で、彼に歩み寄る。
彼の体の上に跨る。
「……ねぇ」
彼の喉元に剣の切っ先を当てる。
それを押すだけで、無防備な彼を殺せる。
「世界中のみんなが死ねば、私は苦しまなくていいんだって」
当然、返事はない。
彼は寝息を立てて、眠っている。
「私、苦しいの。もう、正気でいられないくらい」
返事はない。
「だから……」
剣を振り上げる。
殺意を込めて、それを振り下ろす。
……………………胸に当たる寸前で、止めた。
剣の切っ先は、微かに震えていた。
「……」
彼の寝顔、寝息、寝相、そのどれもが愛おしい。
消したくない。消したくない。消したくない。消したくない。消したくない。消したくない。消したくない。消したくない。
『じゃあどうする?』
急かすような声で、彼は言う。
「別の手段にする」
『……いいのか?』
「うん……」
剣を消す。
彼の顔を覗き込む。
「私がこの世界のみんなを殺したとしても、君は許してくれるよね、黒希」
青い瞳から涙が零れ、彼の頬に落ちる。
「今度こそ、君をそこから救い出すからね」
彼の唇に誓いの口づけをして、彼の横で眠る。
「おやすみ黒希」
これからも、ずーっと一緒にいようね。




