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色とりどりの黙示録  作者: owen
第2章 開幕
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黄の章 休憩中

 

 十三年ぶりの我が家。

 ここへ戻ってくる時は、必ず兄と一緒に。

 そんな決意をしていた時期もありました。

 ええ、ありましたとも。

「お兄ちゃんってば、あの態度はないよね」月下の縁側で、兄の不満を口にする。

 実の母(こんなに可愛いのに)を、冷たく突き放した罪はマリアナ海溝よりも深く、全世界を総合した質量よりも重い。

「黒希のことを怒らないであげて? 悪いの私の方なんだから」

「どうして? 私達を地獄に行かせたのは、私達のことを守ろうとしたからなんでしょ?」

「もう少し、二人が大人になってからでもよかったの。でも、私が焦っていたから……」

 結果、まだ三歳だった二人を地獄に向かわせた、ということらしい。

 そりゃあ、昔は大いに悲しんだ。

 大声で泣き喚き、シノを数えきれないほど困らせた。今となっては良い思い出だ。

「今のお兄ちゃんは分からず屋だよ。昔はすっごく優しかったのにさ」

 庭の花壇の水やりの時、花に話しかけていたのをハッキリと覚えている。小動物やらにも話しかけていた。

 思えば痛い子だった。

 なのに今では、

『ライトノベルなんか持ってないぞ』

「……はぁ」

 まぁでも、あの歳にもなって痛々しい兄を持つのは妹としては複雑である。

 例えば、

『我は影の王なり。ひれ伏すがいい愚民ども‼︎』

 …………………………ないな。

 しかし、もうちょっと可愛げがあってもいいのになぁ。

 あのひらがな表記になりそうな口調、好きだったんだけどな。

「ママ、若返りの魔術とかない?」

「見た目を変化させる魔術はあるけど、寿命の巻き戻し、加速は出来ないよ」

「そっかぁ……」

 残念。

 幼児化させて調教は無理か。

 さて、次は洗脳か、それとも弱みを握って……、

「涼風、黒希に会いたい?」

 横を見ると、ハイガミが何かを企んでいるような可愛らしい笑みを浮かべていた。

「? それってどういう……」

 首を傾げて訊いてみる。

「まま」

 返ってきたのは、ハイガミの声ではなかった。

 その幼さが感じられる声は、背後から聞こえた。

 見ると、廊下の角に黒いジャージと黒い半ズボン姿の、三歳くらいの少年がいた。

「…………あれ?」

 よく見ると、あの眠たげに半分閉じた赤い瞳はどこかで見覚えがあった。

 少年が目の前をすたたと通り過ぎる。

 それから、こちらから隠れるようにハイガミの横へ身を潜めた。

 ハイガミの肩からひょこっと顔を出し、赤い瞳でじーっとこちらを凝視する。

「おいはいがみ。あれ、だれだ」

 途端にハイガミと名前呼びになる少年。

 確か、二人きりだと母の呼び名を変える少年が兄にいたような………………、

「ママ。もしかして、私がいない間に第三子をご出産になられたので?」

 どうしてか自然と丁寧な言葉遣いになる。

 ハイガミは首を横に振った。

「ううん、違うよ。まぁでも……涼風が欲しいって言うんなら弟か妹を。龍地と相談して……」

 頬を赤らめて言う若妻(歳は不明)。

 それなら是非妹を、などと口走ろうとした自分を抑えて、そこの少年と目を合わせた。

 あの、死んだ魚みたいな赤い瞳。

 やっぱり、第三子でないとすればアレか?

「……お兄ちゃん、だよね?」

 あの少年、鮮明な記憶に残る黒希の姿に瓜二つだった。

「……おれのいもうとはすずかだけだ。あばずれはいない」

 あばずれ。あの歳にしてこの汚い言葉遣い。間違いない。あれは黒希兄だ。

「こーら。アバズレなんて言わないの」

 ハイガミにギュッと抱き締められる黒希少年。

 くすぐったそうに、少し嬉しそうにする姿は、十三年前を思い出させる。

「……」

 その光景に、つい見とれてしまった。

 やっぱり、あの頃に戻りたいな。

「ねぇママ」

「んー?」

「……これって、お兄ちゃんが二人いるってことになるよね? それとも、このお兄ちゃんは幻術だったりする?」

 どちらかが傀儡、ってことになる。

 或いは過去に戻って的な、タイムパラドックス御構い無しに過去の黒希を連れて来たり?

「ううん。この子は、正真正銘本物の黒希だよ」

「……ふむ」

 改めて、今度は魔術を意識して黒希少年を見る。

 異変はあった。

 魔力炉のない黒希の体に魔力が巡っていた。

 普通は、魔力炉が無ければその身に魔力が宿ることはない。誰かの力があれば話は別だ。

 それが『魔術』の根源であるハイガミなら、不可能なはずがない。

「でもね、体はあの黒希が持っているから、この子は魂だけの状態なの。その魂に刻まれた肉体の記憶を頼りに、私が魔術で体を構築してあげたの」

「つまり……このお兄ちゃんは幽霊で、あのお兄ちゃんは……って、あれ?」

 そこで気付く矛盾点。

 魂は、体一つにつき一つ。

 こんなの世界の理、魔術師でなくとも誰もが知る常識だ。

 魂が無ければ、体は電池の抜けた玩具と同じで動くことなどない。

 ライカたんが動かしているわけはないし、そもそもそんな事をする理由もない。

「じゃあさ、今のお兄ちゃんの体を使ってる魂は誰なの?」

 かの有名な戦神アテナと渡り合ったのだ。只者ではないはず。

 ハイガミは悲しそうな顔をした。

「彼は…………名前は、アニっていうの。アニマをもじった名前らしいんだけど」

「あに?」

 神、ではないだろう。そんな名前は聞いたことがない。

 となると、別世界の猛者か。

「ライカから聞いた話なんだけど、彼はね、黒希の前の『後継者』なんだ」

『後継者』という単語は知っていた。

 以前、地獄を訪れた龍地に教えてもらった。

 兄が、どんな状況にあるかを込みで。

 黒希は、『死の神』という神の『刻印』とやらを受け継いでいるのだそう。

「へぇ。でも、なんでそんな人がお兄ちゃんの体の中に?」

 なんか意味深に聞こえるが、素通り願いたい。

「それは、私もよくは知らない。龍地が何年か前から調べてくれてるんだけど、中々進展しなくてね」

 ふと、思ったことを口にする。

「……アニって人、死んじゃってるの?」

 ハイガミは顔を逸らして頷いた。

「そっか……」

『後継者』の宿命は、『短命』。

 生きれて、精々二十年。

 何のために『後継者』は存在するのか。

 前に、龍地に尋ねたことがある。

 龍地は憎むべき敵に向けるような声で、こう答えていた。

『みんなのため、だそうだ』

 だそうだ、ということは彼も別の誰かから聞いたんだろうか。

 その時は、初めて見る父の表情に困惑して、それ以上の質問はしなかった。

「……」

 黒希も、そのアニという人と同じ運命を辿ることになる。

 そう考えただけで、瞳の奥がジーンと熱くなるのを感じた。

「おいで」

 ハイガミが、ぽんぽんと自身の膝を叩いた。

 暖かく柔らかな母性愛に誘われ、身を横にし、彼女の膝にポスッと頭を置く。

「大丈夫大丈夫。お母さんが何とかするから」

 そう言いながら、優しく頭を撫でてくれる。

「……うん」

 頷いてはみたものの、任せっきりには出来ない。

「ママ。お兄ちゃんの魂を、お兄ちゃんの体に返せばいいんじゃない?」

 そうすれば万事解決。

「それはダメ。私達のことを敵対視している彼の中にこの子を返せば、相反する者としてこの子を殺してしまうかもしれない」

「……」

 と、まぁ簡単にはいかないものである。

 魔王の城が見えているのならテレポートすればいいじゃんみたいなノリは通用しないのであった。

「……でも、ピアノ弾けてたよ? それも全く動かないスタイルで」

「それは……黒希の魂の欠片が残っているからじゃないかな?」

 ということは、ちょっとは黒希としての自我があるのか。

「つまり、敵対心を取り除けばお兄ちゃんを元に戻せるってことだよね」

 これで当分の目標を見出した、と思った矢先、

「……本当に元に戻すの?」

「え? だって、ママは黒希に戻って欲しいとは思ってないの?」

「思ってるよ。でもね、アニって人は何かをするために黒希の体を使っているんじゃないかって、最近思うようになっちゃって」

 無念の死を遂げた霊が生前に遺した無念を晴らそうとする、よく聞く怪談だ。

 それにしても、迷惑な話だ。

 兄の体を勝手に乗っ取って使うなんて。

「……でも、そこまでして何がしたいんだろ」

 そうだな。

 明日、ゆっくりと黒希、ではなくアニと話し合おうかな。

 場合によっては、そのアニという人の願いを叶えた方が近道になりえるかもしれないわけだし。

 そうしよう。

「……ふわぁ」

 なんだか眠くなってきたし。

「あ。涼風、久しぶりに一緒の布団で寝よっか?」

「いいの⁉︎」

 バッと閃光の如き速度で起き上がる。

「うん。黒希も一緒に、ね?」

「んー」

 黒希は間延びした返事をすると、すたたーっと一足先にハイガミと龍地の寝室へ駆けて行った。

「よーしお兄ちゃん! 私と競争だーッ‼︎」

「うけてたつ」

 ダダダダダッと廊下を駆ける二つの足音。

 それを追いかける、ゆっくりな足音。


 その夜。

 この光景を取り戻すと決める私であった。

 それと、願わくばラッキースケベとかハーレムの主人公とか………………なんてね♪

 出来ればガチでお願いしますロマンの神様。














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