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色とりどりの黙示録  作者: owen
第2章 開幕
89/97

サイドストーリー.1-3

 

「痛い痛い痛ーい!」

 ベッドの上で元気に喚き散らすヘスティアの声が薄暗い空洞内に反響した。室内だけあってよく音が跳ね返ってかなり煩い。

 その傍らには、何故か看護役に任命された不幸な女神が二人。

「痛いのなら静かにしなさい」

 癇癪持ちの子でも見るような目でヘスティアを見るアテナ。

「毒でも打てば大人しくなると観た」

 と、毒が塗られた矢を出現させるアルテミス。

 ヘスティアは電池が切れたアラームのようにピタリと鳴き止み、掛け布団を被って、さらには対物理の結界まで張るという徹底ぶり。アルテミスが本気なのは明らかだったよう。

「冗談も程々にしてくださいアルテミス」

「ちょっと飽きてきた」

「辛抱してください。彼女の護衛を放棄した我々にも落ち度はある。これくらい、罪滅ぼしとしてこなしましょう」

 アテナは宥めるつもりで言ったのだが、それは逆にアルテミスの神経を逆撫でしたようで、

「こいつが勝手にやられたのが悪い」

「なんでよ! アレに勝てるわけないじゃない‼︎」

 と、布団の中で反論するヘスティア。

「アルテミス、彼女の言う通りです。あれは魔術を扱う者の原点にして頂点。我々が束になっても勝てる相手ではない」

「だとしても、勝手にやられたのは事実だ。しかも一瞬で負けたそうじゃない」

 ヘスティアはお得意の炎、生贄の魔術を使うことなく撃沈したらしい。本人が愚痴として言っていたのだから間違いはない。

「アルテミス、いい加減にしなさい」

 彼女の機嫌はいつにも増して悪かった。

 それも仕方ない。

 こんな洞穴でわがままなお嬢様の看病に加え、ゼウスの小言を三時間ほど聞いた挙句、ある指令を下されたのだから。

「これから殆どの日をこの三人で過ごす事になるんですから、あまり軋轢を作らないでください」

 指令は以下の四つ。

 例の少年の監視、及び捕獲。

 もう一人の『後継者』の捜索、見つけ次第これもまた捕獲。

 レオンとライカの抹殺。

 それが果たせるまで『四番目の世界』から出てくるな。

 露骨に嫌な顔をしたアルテミスとヘスティアだったが、「反論したところで無駄か」と諦め、今はこうして仲良く口論をしている。

「貴女だって魔術師に負けたじゃない! 私より無様よそれ」

 ぷぷ、とアルテミスを嘲笑うヘスティア。

「本当に黙らせてやろうか?」

 今度は弓まで出す始末。殺気まで放って、本気で射殺する気だ。

「少し落ち着きなさい、アルテミス」

 重い腰を上げて、アルテミスを宥める。

「彼女の悪ふざけは、今に始まったことではないでしょう? いちいち間に受けていたら気が持ちませんよ」

 コツは程々に付き合うこと。

「……ふん」

 アルテミスの手から弓矢が消失した。

「ヘスティアもそれくらいにしておきなさい」

 アテナも誰かに敗北した、それは事実だが誇り高い狩人アルテミスを馬鹿にするなど自殺行為に等しい。

「……わかったよ」

「よろしい。では、さっさと出ますよ。この世界は騒がしてくて嫌だ」

 故郷とは言え、雷鳴や咆哮がたまーに聞こえるこの場所は些か落ち着かない。

「えぇ、まだ動きたくない」

 と、ヘスティアが動けない、ではなく動きたくないと言う。

 あの『魔術』にやられたとは言え、ヘスティアに外傷はない。ただの気絶で、強いて言うなら額にコブができた程度だ。

「早く始めれば、それだけ早く終わります。貴女は家が好きなのでしょう? このままじっとしていては、貴女の大好きなこの家が崩落してしまうかもしれませんよ」

 家、とは言っても山に空いたただの空洞だが。しかし、あのゼウスことだ。早くしろと急かすために山の一つ、簡単に消炭の山にしてしまうかもしれない。

「……ゼウスめ、後で贄にしてやる」

 ヘスティアがブツブツと呟きながら、ようやくベッドから出てきた。

 出入り口の方には、すでにアルテミスが出発の準備を、転移魔術を展開していた。

「……浮かない顔だな、アテナ」

「貴女こそ」

 互いに、何か思うところがあるらしい。

 そんな二人といて疎外感を覚えたのか、ヘスティアは歩く速度を遅めて二人の後ろ姿を交互に見つめた。

「二人とも、何かあるの?」

 と、好奇心から訊いてみる。

「いえ、別に」

「お前には関係ない」

 なんとも素っ気ない返答。

 そそくさと歩く二人の後を、ヘスティアは追いかけていった。








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