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色とりどりの黙示録  作者: owen
序章
8/97

サイドストーリー.1-1

「はぁ……」

 華凪は机に頬杖を付いて退屈そうにため息を吐いた。自室で数学の課題を進めていた。今は気分的に行き詰まり、手が止まっているが。

 いっそ、課題は後回しにして気分転換に何処かへ繰り出そうかとさえ思う。しかし、そうすれば課題に対する倦怠感が増すような気がしてならない。

 もう一度、ペンを動かす。

 二問解いて、ペンを放り投げた。

「……」

 立ち上がり、部屋を出た。すぐ横の、黒希の部屋に向かう。ドアを開け、中に入る。

 彼は、いない。それを、改めて実感する。ベッドに腰掛ける。部屋を見渡す。

 今は滅多に使われないピアノ。英字の本が七割、洋画のDVDが三割並べられた本棚。クローゼット。机。部屋にはポスターといった飾りはなく、質素だった。

 横に倒れ、枕に顔を押し当てる。

 黒希の匂いがした。

 このまま寝ようかと瞼を閉じるた時、廊下の方からスマートフォンの着信音が聞こえてきた。

 華凪は慌ててベッドから飛び出し、自室に駆け込んだ。机の上に放置していたスマートフォンを取り、相手の名前を見ずに応答する。

「もしもし」

『あ、華凪? 今暇?』

 若い女の声がする。

あかね、今日は仕事休みなの?」

 茜。それが、相手の名前だ。

『うん。だから、黒希も連れてお昼を食べに行こうと思ってさ。英一さん達、まだ帰ってきてないんでしょ?』

 机の上の時計に目を向けると、もうすぐ昼時になろうとしていた。

「嬉しいけど、でも、黒希はいないんだ」

『もしかして、また行き先も理由を言わないで出かけちゃった?』

「うん……」

 華凪の、声のトーンが下がった。

 そんな華凪を励ますように、茜は、

『なら、二人で行こっか』

「うん。ありがと」

『じゃ、すぐに行くね』

 通話が切れ、直後に、インターホンの音が来客を知らせた。

「今出まーす! 誰だろ」

 早足で一階に降り、玄関でサンダルを履いてドアを開けた。

「はーい……って」

 そこにいたのは、二十一歳の女性。身長は、約百六十六センチ。白のティーシャツにデニムの短パン姿の、肩にかかる程度の黒髪。華凪に勝るとも劣らない、美人。

 彼女が、菅野すがのあかね

「よっ!」

「よって、さっき電話して……あ。こっちに来る途中に電話したの?」

「そうだよ」

「そんなことしなくていいのに」

 華凪が微笑を浮かべると、茜も笑った。

 茜をリビングに通すと、

「着替えてくるから、ゆっくりしてて」

「はいよ」

 華凪は自室に戻ると、パジャマから、白のパーカーとジーンズに着替えた。服を整え、一階に下りる。リビングに入ると、

「和風、中華、イタリアン、何にしようか」

 茜が訊いてきた。

 華凪はうーんと唸り、

「全部揃ってる所にしようかな」

「じゃあファミレスだね」

 二人は家を出て、茜の車に乗り込んだ。

 海が間近にあるこの家から、ファミレスのある街区まで車で十分近くはかかる。

 車が発進する。

 道を歩く学生の歳頃の子供を見かけると、茜が羨ましそうに、

「学生は夏休み、か。華凪は宿題を早く終わらせる方だったよね。夏休みの課題はもう終わったの?」

「実は、ついさっきまでやってたんだ」

「あ。じゃあ、間が悪かったかな?」

「ううん。そんなことないよ。行き詰まってたから」

「解けない問題でもあったの? 何なら教えてあげようか?」

「そういうんじゃなくてね……」

 俯く華凪の暗い顔を見て、茜は察した。

「寂しいとか?」

「……うん」

 華凪は小さな声で応えた。

「そっかぁ、そうだよね。黒希が帰ってきたら、ちゃんと言って聞かせないと」

「いいよ。黒希には、何も言わないで。黒希だって、きっと大変なんだよ。あの子、人付き合いとか苦手だし、その、何かあるんだよきっと」

 それに、茜は小さく息を吐いた。

「……分かった。でも、あんまり甘やかしちゃダメだよ」

 華凪は窓の外に目を向けた。

「……黒希には、愛してあげる人が必要なんだよ」



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