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色とりどりの黙示録  作者: owen
第2章 開幕
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緑の章 第5節

 

 交差点の隅で、咲は目を覚ました。

「……?」

 見知らぬ土地に戸惑い、地べたに尻をついたまま辺りを見回した。

 叶が言うには、確かここはロシアの『やらないくらさない』だったか。

 ようやく頭の整理を終え立ち上がると、足元の麦わら帽子を拾い上げ、しっかりと被った。

「光助ー! 叶ー!」

 返事はなかった。近くにいないようだ。

「はぁ……私ってば、何やっても下手だなぁ」

 原因は嫌でも分かった。

 転移魔術だ。座標設定のイメージが上手く出来なかったせいで、着地点が散り散りになったに違いない。

 自分の無能さにため息を吐き、改めて周囲を見回した。

 日本人とは違う顔立ちの人達が、通りを歩いている。

 ………………あれ? さっき人いたっけ。

 咲は小首を傾げた。

 きっと、当たり前の事にも気付かないほど頭が混乱していたせいだろう。

 それはともかく、二人と合流するのが優先事項だろうが、どうしようか。

「そうだ。ケータイ……」

 ワンピースのポケットから、お年寄りでも扱いやすいようなケータイを取り出し、叶にかけた。

「……出ない」

 光助は、電話を持ってないし…………、

「あ」

 光助には、母フレイヤとの契約の証があるはず。魔力炉の代わりともなっているそれなら、探知魔術で引っかかるはずだ。

 そうと決まれば早速、咲は人気のない建物の間の小道に移動した。

 前後を見て、人がいないのを確認する。

「……?」

 ゴミ箱の陰から、こちらを覗き込む猫がいた。真っ白な毛並みに、青い瞳をした猫だ。

「なぁに?」

 猫撫で声で猫に近付く。

 猫がにゃあと鳴いて、こちらに歩み寄



 交差点の隅で、咲は目を覚ました。

「……?」

 見知らぬ土地に戸惑い、地べたに尻をついたまま辺りを見回した。

 叶が言うには、確かここはロシアの『やらないくらさない』だったか。

 ようやく頭の整理を終え立ち上がると、足元の麦わら帽子を拾い上げ、しっかりと被った。

「光助ー! 叶ー!」

 返事はなかった。近くにいないようだ。

「はぁ……私ってば、何やっても下手だなぁ」

 原因は嫌でも分かった。

 転移魔術だ。座標設定のイメージが上手く出来なかったせいで、着地点が散り散りになったに違いない。

 自分の無能さにため息を吐き、改めて周囲を見回した。

 日本人とは違う顔立ちの人達が、通りを歩いている。

 ………………あれ? さっき人いたっけ。

 咲は小首を傾げた。

 きっと、当たり前の事にも気付かないほど頭が混乱していたせいだろう。

 それはともかく、二人と合流するのが優先事項だろうが、どうしようか。

「そうだ。ケータイ……」

 ワンピースのポケットから、お年寄りでも扱いやすいようなケータイを取り出し、叶にかけた。

「……出ない」

 光助は、電話を持ってないし…………、

「あ」

 光助には、母フレイヤとの契約の証があるはず。魔力炉の代わりともなっているそれなら、探知魔術で引っかかるはずだ。

 そうと決まれば早速、咲は人気のない建物の間の小道に移動した。

 前後を見て、人がいないのを確認する。

「……よし」

 左手のひらに、右手の親指の爪を食い込ませた。

「うぅ……」

 滲み出た血で、地面に魔術式を描く。

 描き終えると、式の意味を唱えた。

 魔術式が緑色の光を放つ。

「これでよし、と」

 右手に左手を翳し、傷を治療する。

 その時だった。

「……?」

 一瞬だったが、右手首に鎖が



 交差点の隅で、咲は目を覚ました。

「……?」

 見知らぬ土地に戸惑い、地べたに尻をついたまま辺りを見回した。

 誰もいない。辺りは、不気味なほど静かだった。

「光助ー! 叶ー!」

 声が反響する。

 しばらく待っても、返事はなかった。近くにはいないようだ。となると、やはりアレが原因か。

「はぁ……私ってば、何やっても下手だなぁ」

 転移魔術の座標設定のミス。魔術式に組み込む座標のイメージが定まらなかったせいで、着地点が散り散りになったに違いない。

 自分の無能さに呆れため息を吐き、辺りを見回すと、

「……?」

 交差点の中央に、白猫がいた。透き通った青い瞳でこちらをじーっと見ている。

 咲は視線を逸らさぬまま立ち上がり、足元に転がっていた麦わら帽子を拾い上げ被った。

「そんな場所にいちゃ危ないよ」

 白猫に近付くと、猫は足に擦り寄ってきた。

「なぁに?」

 猫を抱き上げる。

 すると、にゃあと短く鳴いた。

 白猫の『声』を聞き取ると、

「……ナイトメアって? あなたのご主人様?」

「にゃあ」

 猫の『声』を聞き取ろうと耳を傾けると、地面が揺れた。

「わっ⁉︎」

 立っていられないほど強い揺れだ。

 白猫は咲の腕から飛び降り、早足で何処かへ歩き出した。

『ついてきて』

 猫が言う。

「あ、待って!」

 狂いかけたバランス感覚で体を支え、走る。

 そんな彼女を、何かの影が覆った。

 足を止めずに振り返る。

「……え」

 そこには、街を覆い尽くしているのではと思ってしまうほど巨大な、人の手があった。大きく開き、上空から降ってくる。

 視線を前に戻すと、白猫が民家のドアの前で止まっていた。あそこに何かあるのだろうか。

 ドアを開け、中へ足を踏み入れる。



「咲。おい、咲」

 聞き慣れた声と緑の匂いがして、目を開けた。眩しい陽の光に、目を細める。ようやく目が慣れ、開く。

 視界いっばいに豊かな緑が広がる。ここは、私の家の近くにあった森だ。

 でも、そんなはずはない。ついさっきまで地上にいたはずなのに。

「咲」

 振り返ると、光助がいた。いつもの白のパーカーにジーンズといった格好をしている。慌てているようだが、何かあったのか。

「落ち着いて聞いてくれ。お前は今、ナイトメアっていう悪魔に捕まってる。ここは、そいつが創り出した夢の世界、幻術の中だ」

 幻術。叶が使う力だ。その術のことはよく知っている。

 自分の理想を相手の現実にする力。

 しかし、それはあくまでも幻。実体は持たない。

「じゃあ、光助は?」

「俺はナイトメアが創った夢じゃなく、お前が創った夢の一部だ」

「私が……」

 そこでふと、母が言っていた話を思い出した。

『あなたに防衛魔術を仕掛けておいたわ。あなたが危ないと心の何処かで思った時に発動するから』

 防衛魔術。この光助がそうなのだろうか。

「お前自身気付いちゃいないが、もう夢の中をかれこれ三周はしてる。幻術への干渉が難しくて、時間を食っちまった。悪い」

「ううん、いいの」

 驚いた。本物の光助みたいだ。

 咲は爪先立ちになり、光助の頬へ手を伸ばした。興味本位で抓ってみる。

「いてぇ! 何すんだよ?」

「ご、ごめん。夢なら覚めるかと思って……」

「抓るなら自分だろ。お返しだ」

 と、光助が頬を抓ってくる。

「うにゅ……痛いよ」

「覚めないだろ?」

「うん」

 光助は咲の頬から手を離して、

「幻術は夢とはまた違うからな。起きてはいるけど意識は眠ったままっつーか、まぁそんな感じだ」

「つまり、私は起きてる状態で夢を見てるってことなの?」

「そ。それが言いたかったんだよ。話はこれくらいにして、さっさと行くか」

 こちらに背を向け歩き出す光助に、咲は歩き出してからこう尋ねた。

「行くって何処へ?」

「幻術から出る方法は二つ。術者より強い幻術で対抗するか、術中で『非常口』を見つけるか。その『非常口』まで、お前を案内するのが俺の役目だ。だから、お前は俺について来ればいい」

「……分かった」

 夢でも現実でも、君には守られてばっかりだな。

「私も、君みたいに強くなれるかな」

 その呟きが聞こえたのか、光助がこちらを振り返



 一瞬にして、周囲の緑が黒に塗り潰された。

「全く……女神の子だけあって、それなりの覚悟をして来たんだけどさ。ここまで上手く事が進まないと、頭にくる」

 目の前にいたはずの光助は、全く別の者へ姿を変えた。いや、入れ替わった、と言うべきか。

 光助の立っていた場所にいるのは、陽炎のように揺れる人影。咲の瞳には、それは人とは呼べない異形のものを映していた。

 悪魔、なのだろうか。

「どうして私のことを……」

「そりゃあ知ってるさ、咲。お前の頭の中を覗いたんだから」

「……」

「なんとも愛情に溢れた記憶だなぁ。思わず吐きそうになったぞ? それだけやったのに、お前の弱点は見つけられなかった。なぁ、教えてくれよお前の弱点を」

 悪魔がゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。

 咲は後ずさりをしながら、考えた。

 だが、前提として咲に戦う能力はない。そもそも彼女自身、戦う力を放棄している。

 悪魔が大きく一歩を踏み出す。その手が、咲のワンピースを掴もうとする。

 これは幻術。

 意識は眠ったまま。

 それなら。

 咲は、自身の頭に左手を当てた。

 それなら意識を『元の状態』に戻せばいいんだ。

 力を、行使した。



「……ん」

 空気に混じる油の臭いで一気に頭が醒めた。

 ここは、工場だろうか。用途は分からないが、コンベアーと大きな機械がある。

 鈍る体を動かそうとすると、カチャカチャと手元で音が鳴った。

 見ると、両手首には鎖が巻き付けられていて、その鎖はコンベアーの脚部分にしっかりと固定されていた。どうやっても解けそうにない。

「悪いな」

 何処からか、何者かの声がした。

 辺りを見ても、誰もいない。

 その聞き覚えのある声に、咲は口を開く。

「ナイトメア……なの?」

「ご名答。どういう経緯で俺の名を知ったのか気になるとこだが、急ぎの用があるんだ。お前には、ここで死んでもらう」

 薄暗い室内の一点に、光が灯される。

「……ッ⁉︎」

 火。そのための油か。

「抵抗は無駄だぞ。お前の力を解っている上での攻撃だ」

 悪魔の気配が消える。

「……」

 ここは夢か。それとも現実か。

 頭が混乱し始める。

 幻術は解けたのか? それとも…………。

 考えている間にも、火の壁は刻一刻と迫る。

 分からない…………分からないよ。

 力を使った。それすらも幻術の一部だったら?

 試そうか。炎に呑まれてみようか。でも、もしこれが現実だったら?

「………………助けて」

 地面に横たわったまま身を丸める。惨めな様だ。けど、助けを祈る事しか出来ない。

 お願いだから、助けに来て…………、

「……光助」



「咲‼︎」
























































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