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色とりどりの黙示録  作者: owen
第2章 開幕
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黄の章 第4節

 

 まさに瞬間移動のような動きで、男が距離を詰めてくる。

 涼風は魔術で強化した脚力で、大きく跳んで黒希から離れた。森の上空で、男が斧を振り下ろしてくる。

「わっ」

 体内の魔力をそのまま空気に垂れ流し、防御壁として機能させる。斧が壁が砕く。その破片を、涼風は矢のように男に放った。

 次の瞬間には、視界の中に男はいなかった。

 紅い光が背後で瞬く。

 涼風は振り向きざまに魔力で剣を精製し、それを振るった。衝突する。涼風の方が吹き飛ばされた。頭から地面に落下する。

「いてて……バカになったらどうするのよ!」

 剣を魔術を放つための媒体代わりに振って、男へ炎を放つ。しかしまた、男の姿が消えてしまった。今度は、前方に少し距離を置いた場所に現れる。

「貴様何奴?」

「お前こそ誰だ? 神でもなきゃ、悪魔でも天使でもない。あの高さから落ちて人間です、なんて言わないよな?」

「人間ですッ」

「ははっ。面白い奴だな」

「でしょでしょ? ワタシのユーモアセンスが解るとは只者じゃないね」

「だろ? ユーモアに関しちゃ、手抜きはしない性分でな。バーニーもお前くらい賑やかな奴だったらなぁ」

「バーニーって、恋人?」

「俺の仲間だ」

「女?」

「いいや。本名はバーナヴァス」

「男か……あっ(察し)」

 何だ。ただのゲイか。

「んでもって、俺はロバートだ。アンタは?」

「涼風だよ」

「スズカか。ジャパニーズネームはいいな。響きがいい」

 ロバートは斧を肩に担ぐと、

「続きだ。死んでも、名前は覚えておいてやる」

 それに、涼風は不敵な笑みを浮かべこう返す。

「倒されるのはそっちだよ」

 ロバートの斧の刃が紅い光を発する。

 それが、戦闘開始の合図となった。

 涼風が前へと駆け、ロバートの胸へと剣を振り上げた。空振り。当たると確信した瞬間には、ロバートはすでに消えていた。

 空気が乱れた感じはしない。これではまるで、本当に瞬間移動をしているようだ。

 視界の上に、紅い光が映った。

 そちらを向くと、ロバートが斧を振り下ろす姿が見えた。剣を振り上げようとして、物凄い勢いで迫る斧を見て、涼風は後ろへ軽く跳んだ。地面に深く突き刺さる斧の刃を、涼風は強く踏みつけた。

「喰らえッ‼︎」

 軽く跳び、ロバートの顔面にハイキックを放つ。

 ロバートは、今度は加速した。恐ろしく速い動きで腕を動かし、涼風の足を掴む。それもまた、斧が発する紅い光と関連があるのか。

 涼風は強引に足を振り払って、拘束を解いた。体勢を立て直すため距離を取る。

 が、彼に距離という概念は通用しないのか、やはり瞬間移動でもう目の前にいた。

 魔力で反射神経を強化する。

 剣と斧がぶつかり、剣が砕けた。

「ッ」

「お返しだ」

 ロバートが斧を回し、勢いをつけた一撃を首に仕掛けてくる。

 涼風は、先ほどよりも膨大な魔力を前方に放ってレースカーテンのような壁を張った。

 その防御壁は、速度を超えた次元で動くロバートには通用しなかった。ロバートは、そこにはもういなかった。また、消えたのだ。

 壁に反射して映るロバートの姿が見える。背後で紅く光る斧を頭上に掲げている。

 その斧の刃に刻まれたしるしを一瞬だけ凝視した。

 あれは、魔術式。

 式に使用されている伝承を解明。時空を司る神、クロノスの砂時計を確認。

 源は……? ロバートの心臓?

 とりあえず、それを真似る。

 頭の中で、それと同じ魔術式を描き上げる。発動する。

 時間を止める。

 涼風とロバートが時間操作をした結果、空間が悲鳴を上げたかのように、二人は視えない力に弾き飛ばされた。距離が開いた二人の間の空間に、目に見えるほどの歪みが生じる。

「驚いたな。魔術で神の真似事は出来ないとバーニーから聞いていたが……何事にも例外っているもんだな」

「ワタシは主人公だからね。主人公とは、いつ何時も予想外の展開を見せていくことが役割なんだよ」

「そりゃあ楽しみだ」

 空間の歪みが消える。

 そして再び、二人は衝突する。

 二本の剣と紅く光る斧がぶつかり、火花が散る。その火花が、爆発的に膨らんだ。涼風の魔術が炸裂する。小さな火花が、辺りの空気を吸い込んで大きな炎球に一瞬で変化する。

 ロバートは炎球が肥大化する前にクロノスの力を使い、涼風から離れていた。そこからまた力を使い涼風の懐に潜り込む。彼女の腹へ斧を振り上げる。

 涼風は両手の剣を同時に振り下ろした。斧を受け止める。衝撃が全身を駆け抜ける。痛みに顔を歪めた。

 本格的な実戦は、これで二回目。最初は地獄でのリリスとの戦い。今までは死の騎士ことレオンに戦い方を教わっていただけ。

 戦いっていうのは、こんなに痛いものなんだ。それを、今まで黒希は、兄はずっと続けてきた。本当に頼れる兄だ。心からそう思う。それと同時に、自分が情けなく思える。この程度の痛みに涙目になっちゃって、本当に情けない。主人公なら、兄のように強気で押さねば。

「はぁァッ‼︎」

 気合いで低い位置まで斧を押し返すと、紅く光る刃の根元を踏みつけ地面に打ち付けて、ハイキックを今度こそロバートの頬に叩き込んだ。強化した脚力は、難なくロバートを真横へ吹き飛ばした。

「倍返しだよ!」

 ロバートの姿が一瞬消え、離れた場所に現れた。片膝をついた状態で、片手で頭を抱えている。

「今のは効いた……女のくせに、いいキックだ」

 ロバートは、あの強力なパンチを食らわせてきた女を思い出していた。あれは、今の蹴りよりかなり効いた。

「趣味はジョギングなの。こう見えても、体力には結構自信あるんだよ」

 と、涼風はお上品に見せたいオーラ全開で自身の金髪を優しく撫でた。

「そうか、い……ゲホッゲホッ⁉︎」

 急にロバートが咳き込んだ。普通とは思えなかったので、涼風は心配になって、

「大丈夫?」

 口元を抑えた指の隙間から血の雫が溢れるのが見えた。

「治そうか?」

 強く蹴りすぎてしまっただろうかと、敵なのに負い目を感じてしまう。

  ロバートがゆらりと立ち上がる。変なものでも見るような、不快感を禁じ得ない視線をこちらに向けてくる。

「……お前、俺を殺しに来てんじゃねぇのか?」

「あなたは人間でしょ? どうして殺すの?」

 人の命を奪うことは悪い事、なんていうのは常識だ。幼稚園児だって知っている。

 それなのに、ロバートはさっき吐血したとは思えないほどの大声で、豪快に笑いだした。唇の端から少量の血が滴っているのだが、彼に気にする様子はない。

「はっはっはっは‼︎ なんだなんだ、お前お人好しだったのか?」

 腹を抱えて笑うロバートを見て、涼風は小首を傾げた。

「どうして笑ってるの?」

 冗談を言ったつもりはない。まさかこの男、狂ってやがるのか?

 ようやく笑いが収まり、ロバートはまだ吹き出しそうな調子で、唇についた血を親指で拭いながら言う。

「いやぁ、こんな場所にまだ良心が残ってる奴がいるってのが可笑しくてな。その感じじゃ、人が死ぬとこすら見たことないんじゃないのか?」

「んー……」

 涼風は人が次々と死んでいくグロ系のアニメを思い出した。あれも、人が死ぬ光景としてカウントしてもいいのだろうか?

「……あるよ」

「にしては、澄んだぇしてるな」

「ワタシは永遠の美少女だからね。澄んだ目と純粋な心の維持はお肌の手入れより丁寧にやってるんだよ」

 そう、アニメを観るのが最高の心身の治癒ケア。これに勝るものはない。

「そうかい。益々面白い奴だ」

 涼風の足元にあった斧が、紅く光りだした。

 涼風は剣を構え、次の瞬間に起こるであろう衝突に備えた。

 しかし。

 斧はロバートの手元に移動しただけで、彼は何もしなかった。

「もう少し遊んでやりたいが、見ての通り体が限界なもんでな。帰るわ」

「そう? バイバイ」

 涼風が手を振ると、ロバートは鼻で笑って、消えてしまった。

「変な人だったな……さてと」

 黒希がいるであろう方向を振り向く。

 数歩前進したところで、足を止めた。

「……ん?」

 慣れ親しんだ人の気配が、真逆の方から感じた。

 あれは、やはりそうだ。間違いない。

『魔術』そのものとも言えるほど膨大で果てしない魔力を抱えるその気配は、

「……ママ?」








































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