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色とりどりの黙示録  作者: owen
第2章 開幕
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サイドストーリー.1-2

 

 お前は逃げた。

 わたし達から。

 運命さだめから。

 それを、私は許せなかった。

 憎かったさ。世界が破壊の渦に呑まれた時ですら私はお前への怒りを忘れた事はない。

 だけど、悲しかった。お前が死んだという話を聞いて、涙を流した。

 悔しかったんだ。最後の最後まで、私に恨まれているんだろうと思って死んでいったはずだから。



 アルテミスは矢をつがえるのも忘れて、ただ呆然としていた。

「……メーティス、だと?」

 突如として現れた少女は、確かに言った。聞き間違いではない。我が恩人の名を聞き違えるはずがない。

 少女は、怒りを滾らせた紫色の瞳でこちらを睨んでくる。口を開く。

「アルテミス、でいいんだよね?」

 少女の両手に、様々な記号が現れた渦巻いた。メーティスと同じ術。

「話は後にしようか。今はお仕置きが先」

 記号が展開する。それらは空間に張り付き、島の四分の一を覆うドーム型の空間を造った。

 アルテミスは、自身が置かれている状況をようやく把握し、矢をつがえた。

「待ってくれメーティス! お前と戦う気は……」

 アルテミスの言葉が、爆音に掻き消される。

 彼女の足元にあった記号の一つが、地雷のように爆発したのだ。

 爆煙の中から飛び出したアルテミスの頭上にあった記号が落下を始めた。

 メーティスが扱う魔術は、彼女自身が編み出したもの。魔術を発動させた結果ではなく、発動させるまでの過程を放つのが彼女の魔術。過程であるが故に結果は発動するその時まで判らない。

「狩るか狩られるか、それが貴女のやり方なんでしょう?」

「やっぱりお前……ッ⁉︎」

 記号が弾ける。無数の光の粒となって、それらが一つに集約された時、雷が轟いた。すぐさま横へ駆ける。落雷を避ける。

「くっ……」

 狙いを少女に定めるが、矢を放つ事はどうしても出来なかった。

「私が憎いから戦うのか」

「貴女は私の大事な人を傷付けたんだ。憎いよ」

 爆炎が、四方からアルテミスを襲う。彼女は大きく上へ跳ぶことでそれを避け、次に迫ってきた氷柱を矢を射て砕いた。

「あの小僧は誰なんだ」

「メーティスの子。正確には、その名を受け継ぐ者かな」

 アルテミスの思考が途切れた。

 メーティスに、子供?

 嘘ではなさそうだ。彼女は、メーティスは嘘を吐かない。

 それなら、やるべき事は一つ。

「……」

 アルテミスは弓を下ろした。

「……いい子ね」

 少女が優しく、しかし暴虐性を秘めた声で言う。

 複数の爆発が連続して起きた。

 アルテミスに直撃する。


 気付けば、仰向けに倒れていた。意識が鮮明になるにつれて、体中がヒリヒリと痛み出す。

「……私は」

 視界の端に映る少女に、声を掛けた。

「ん?」

「メーティス……すまなかった」

 少女は、それに少しの間を置いてから反応した。

「それは、何に対しての謝罪?」

 少女の口調が少し丸くなった。この大人びた感じは、まるで彼女のよう。

「全てだ。この意味、お前なら解るだろ」

「……てっきり、私のことをまだ怒っているかと思っていました」

「怒ってる。だけど、生きててくれて良かった」

 長い間張り詰めていた想いが一気に崩れ落ちる。目の奥が、じんわりと熱くなるのを感じる。

 少女は弱々しく微笑んで、

「そうとは限りませんよ。今の私は、この少女を依代としていなければ現世に留まることすら出来ないただの亡霊ですから」

「何があったんだ? お前ほどの強者が、どうして……」

 訊くと、少女は何かを思い詰めるような表情を浮かべた。

「『三番目の世界』にいたんです。そこは天使達が統治する一つの大陸が全世界でした。静かに暮らしていたのですが、やはり、運命からは逃れることが出来なかったんでしょうね」

 途端に昔を懐かしむような顔になって、続けた。

運命うんめいの巡り合わせで、二人の『後継者』を引き取ったんです。『死の神』の『刻印』を受け継ぐ少年と、『生の神』の『刻印』を受け継ぐ少女。ライカとレオンより幼く、とても繊細な子達」

 まるで、本当の我が子とでも言いたげな表情だ。

「どうなったんだ?」

「……たった一人の少女を救おうとして、死んでしまった」

「お前はどうして?」

「天使達を『三番目の世界』に閉じ込めるための結界を張ったのですが、情けなくも出産による消耗で長くは保ちませんでした」

「……なぁ、メーティス」

「はい?」

「私と一緒に来ないか? ゼウスも、多分だけど受け入れてくれる。今、私達は新しい世界を創るために動いてるんだ。争いのない世界にするためには、お前の知恵を貸して欲しい」

 少女は、メーティスは数十秒考えてから言った。

「行けません。私には守るべき者がいます」

「……そっか」

 守るべき者がいる。それだけではないはずだ。彼女ならきっと、神に争いのない世界が創れるはずがないとでも思ったのだろう。悔しいがその通りだ。

 だが、やる価値はある。

「お前の息子、怪我させて悪かった」

 そう言って、ゆっくりと立ち上がる。怪我はヘスティアの『炉』のおかげで大分治ってきた。

「いいえ。許しはしませんが、それほど深刻な怪我では……おや?」

 メーティスが辺りを見回す。顔がどんどん青ざめていく。

「どうした?」

「あの子が……カイルがいない」

「一緒に探そうか?」

「では、私は島の西側を探します」

「わかった」

 思わぬ再会にまだ興奮が冷めやらないまま、メーティスとは反対方向へ駆け出した。






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