サイドストーリー.3-2
最近適当になってる気がしてます
申し訳ありません
暗闇に身を隠す狩人に向け、ライカは手の中の影に作り出した複数の刃を投げた。
アルテミスは一度に数本の矢を弓につがえ、紙のように薄い影の刃を正確に射落とした。
流石は狩猟を生涯とした女神だ。
木の枝に停まるアルテミスの背後を取り、ライカは掛け声と共に漆黒の大鎌を振り下ろした。
アルテミスは枝を蹴って大きく跳び、空中で一回転してライカに十数の矢を放った。
ライカは大鎌を手の中ので回転させ、盾のようにして矢を防いだ。
一瞬でも気が抜けば、殺られる。
両者、全神経を研ぎ澄ませて闇の中を駆ける。
ライカは、アルテミスの周りを大きく円を描くように走り出した。
アルテミスは矢をつがえ、いつでも放てるように構える。
それを見越したライカは、右手を振るって氷柱を放った。その右手には、すでに影で魔術式が描かれている。
アルテミスが矢を放つ。氷柱が砕ける。その影に潜んでいたライカが、飛び出す。
アルテミスは、それを見切っていた。指と指の間に挟んでいた矢を瞬時につがえ、ライカの額に向け放った。
「ッ」
ライカは首を傾け、ギリギリで避けながらも回転して遠心力を乗せた大鎌での一撃をアルテミスに見舞う。
アルテミスは苦し紛れといった様子で、弓で大鎌を受け止めた。
「くっ……」
アルテミスの首筋に、赤い線が入る。大鎌は彼女の肌に触れるか触れないかのところで止められていた。
「どうして私を狙う」
訊くと、アルテミスは心底からの怒りを瞳に滾らせた。
「お前は大罪を犯した。それを忘れたと?」
彼女の言葉で、ずっと昔に封じていた記憶が脳裏に浮上する。
「あれからかなりの時間が経ったっていうのに、お前の臭いは何一つ変わらないんだな」
「ッ」
「血生臭い。特に、お前の手……」
それ以上言わせるわけにはいかない。
ライカは大鎌を引き、踏み込んで大鎌を斜め上に振り上げた。
アルテミスは後方に跳んで避け、続けた。
「その手は、多くの人間の命を奪ったはずだ」
「……」
ライカはアルテミスを睨み、しかし何も言えずに唇を悔しそうに噛んだ。
「罪を背負っている自覚があるなら、死で償え」
アルテミスが、弓に矢をつがえた。矢の先端にとてつもない量の魔力が集束する。
「……確かに」
「?」
「確かに、私の罪は重いだろうな……」
こんな穢れた手でも、握ってくれる連中がいた。確かに、そこにいたんだ。そして、その連中に誓った。罪は背負って生きていくと。
「テメェなンざに言われなくなって、とォの昔に自覚済みだ」
ライカ口調が、目つきが変わる。好戦的な色が濃くなる。辺りの気温が北極圏のような極寒になる。夏の暑さが嘘のように消え失せる。
アルテミスは迷うこと無く矢を放った。
風と雷、まさに嵐を纏った一本の矢が木々を地面ごと抉り取りながら迫ってくる。
ライカは、真っ向から挑んだ。地面を蹴り、駆け出した。
嵐の如き矢に、右手を突き出す。
触れる。瞬間、矢が、嵐が跡形もなく消えた。
「ッ⁉︎」
アルテミスが慌てて次の矢をつがえた時には、ライカは間合いに入っていた。
「すまない……」
そう呟き、アルテミスの首へ大鎌を振り上げる。
大鎌は固い何かにぶつかる、その感触が手に伝わってきた直後。ライカは大鎌に引っ張られるように後ろに吹き飛んだ。木にぶつかり、地面に落ちる。
痛みに悲鳴をあげる体を無理やり動かし、ライカは根本に尻餅をついたまま、前方から迫る敵の一撃を防いだ。
攻撃してきたのは、
「ッ……アテナ⁉︎」
アテナ。レオンと戦っているはずの女神。何故ここにいるのか、ではなく、ライカは何故彼女が無傷なのかという点に注意を向けた。
アテナは何も言わず、剣を押した。
「うぐっ……」
まずい。このままじゃ…………。
力を使え。
それは、ダメだ。
「く、そぉ……」
押し負けそうになったその時。
紅い一筋の光が、その近辺に落ちてきた。それはまるで爆弾のように大きな音を発し、暴風を吹き荒らした。
アルテミスとアテナの動きが止まる。ライカもそのうちの例外ではなかった。
何が起きた? その場にいた誰もがそう思う。
「もう少し静かに着地できないのか」
「式を描いたのはお前だろ」
「お前の魔力で発動させた」
「……あ、そう」
光の落下地点の方から、男が二人歩いてくる。
アルテミスが矢をつがえる。
アテナが剣先を男達の方へ向ける。
「何者だ」
アルテミスの声に、二人は足を止めた。
「バーニー、やっちまってもいいか」
斧を担ぐツナギ姿の男が言う。
「銀髪の女は殺すなよ。アイツの力は逸材だ。奪っておきたい」
スーツ姿の男が、それに応える。
すると、斧を担いだ男はニヤッと笑い、そして、消えた。
次の瞬間。
ライカの視界の端に、吹き飛ばされるアルテミスが映った。
「……な」
速い、そんなもんじゃない。そんな次元を、とうに超えているように視えた。ほとんど瞬間移動に近い。魔術での転移なら分かる。だが、あれは発動に少し時間を必要とする。あの男に、そんな様子は見られなかった。
奴も頭の中で魔術の式を組み立てられるのか。
「アルテミス‼︎」
アテナが男に立ち向かう。
男は斧を振り上げ、勢いよく振り下ろした。
アテナは盾を構え、それを受け止める。
あれは、イージスの盾。恐らく、先ほどライカを吹き飛ばしたであろう逸品。衝撃を倍にして返すという異質な能力を持つ。
斧が盾と接触する。
男が吹き飛ぶようなことは起きなかった。
斧が盾と接触した、と知覚した瞬間には、男はアテナの真後ろに立っていた。
男が、アテナの胴体へ斧を振るう。まるでバッターがボールを打つように、スイングする。刃ではなく、その反対側を使って。
「がっ……」
アテナの体がくの字に曲がり、吹き飛ぶ。
「さぁて……バーニー。コイツは?」
スーツ姿の男がこちらを一瞥して、
「……殺せ」
「了解」
斧が、頭上高くに掲げられる。
ライカは咄嗟に影を使い、自分の足元に魔術式を描いた。
この状況下で、自分一人でレオンを探すのは難しい。いや、恐らく無理だ。死んでしまう。
もう一人の自分が、レオンを探せと叫ぶ。それを押し殺し、ライカは、
「すまないレオン……必ず戻る」
描いた式は、転移系の魔術。
ライカは乱戦状態の孤島から、ひとり脱出した。




