サイドストーリー.2-1
「バーニー、進行具合はどうだ」
カビ臭いボロボロのリビングで、所々綿が飛び出してるソファにだらし無く座るツナギ姿の男、ロバートが口を開いた。
リビングに連なる、同じくボロボロのキッチンには黒いスーツ姿の男、バーナヴァスが両手を鮮血で汚していた。二人の胎児の血だ。それを詰めたペットボトルをロバートに投げ渡し、
「六割と言ったところだ。急ぐのなら、アマンダの協力を仰げ」
蝋燭の火に照らされている室内には、二人の他にもう一人、というかもう一匹いる。バーナヴァスの言葉に女が、ケルベロスが、
「急ぐに決まっているじゃない。人間風情が魔王を待たせる気でいるの?」
「こっちには計画がある。急ぎたいなら黙って従うことだ」
ケルベロスはバーナヴァスを睨み、口を噤んだ。
気不味い沈黙を、ケータイの着信音が破る。
バーナヴァスはポケットからケータイを取り出して、応答する。
「何か分かったか?」
『合言葉』
向こう側から、不満そうな少女の声がする。
「……は?」
『バーナヴァス、合言葉は?』
「……遊びに付き合っている暇はない」
『合言葉なしじゃ、本人確認はできないということで情報は提供できません』
「アマンダ」
少し声を荒げ、その少女の名を口にすると、
『うっ……分かったよ』
「待て。スピーカーにする」
バーナヴァスは通話を他の二人に聞かせるためにケータイのスピーカーをオンにしてテーブルに置いた。
『昨日ロバートが戦った女は、魔力も何も持ってなかったから追跡は不可能だった。バーナヴァスが逃した男は、政府のブラックリストに載ってたから簡単に見つけられたよ』
「名はカイル。それくらい知っている。俺が知りたいのは、彼にアウトサイダーが干渉する理由だ」
バーナヴァスはスーツの内ポケットから草臥れた手帳を取り出して、見つめた。
「彼女の目的はこの手帳。『シーカー』もこれを狙っているとは考え難いが、可能性が無いとも限らない……情報が少ないな」
呻くように、バーナヴァスは言う。
『些細なものでいいなら、一つあるよ』
「何だ」
『一時間くらい前に悪魔でも天使でも無い気配を三つ察知したんだけど、どうかな?』
「神か?」
ロバートが訝しむ。
『そこまでは……』
「座標を送れ。ロバートと俺で調べてくる。ケルベロスは黙示録を進行させろ」
バーナヴァスはアマンダからの座標を紙に書き留めると、キッチンの床に胎児の骨で転移系の魔術式を描いた。
その上に、斧を担いだロバートと並んで立つ。
「神だとしたら、どうする?」
「無論、力を奪う。それはそうと、クロノスの力は馴染んできたか?」
バーナヴァスはロバートの斧の刃に刻まれた文様を見て、言った。
「いいや。時間を止められるのは数秒程度で、加速はもっと短い。人間の体で神の力を使えるだけ上出来だと思って欲しいね」
「あまり使い過ぎるな。目的を達成する前に死んでは意味が無い」
「生憎と、まだ死ぬ気分じゃない」
ロバートは愉悦の色を含んだ笑みを浮かべた。
「面白い遊び相手を見つけちまったからな」
「……そうか」
魔術を発動させ、二人は何処かへと転移した。




