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色とりどりの黙示録  作者: owen
第2章 開幕
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黒の章 第8節

 

「お前は来るな」

 黒希の自室の前で、黒希は華凪と論争していた。

「私も、あの人達の話を聞きたい。君のこと、もっと知りたいもの」

 中々食い下がってくれない華凪。

「頼むから、来るな」

「いや」

「……殺すぞ」

 少々の殺意を込めて言ったが、

「いや」

「……」

 どうしようか悩んでいると、

「痴話喧嘩は後にしてくれ」

 二人同時に背中を押された。

 部屋の中に入れられ、背後でドアが閉まる。

「おい」

 背中を押した男を、黒希は睨みつけた。

 死の騎士だ。どういうわけだか、早朝にこの家を訪問してきた。ベッドの上には、ライカまでいる。

「コイツは出せ。関係ない」

 騎士はベッド横の壁に寄りかかり、首を横に振った。

「いや。ついでだ。この娘にも聞かせる」

「お前には関係ない。口を出すな」

 騎士は肩を竦め、やれやれといった様子で深く息を吐いた。

「言うことを聞いてくれ」

「……どうして一緒にいちゃダメなの?」

「危険だからだ。解ったらさっさと……」

 上手く言いくるめようとするが、華凪はこちらの手を握ってきて、何故か僅かに顔を歪めて、

「君が傷つくのは、もう見たくないよ。私がダメだって言うなら、君も聞かないで。下で、みんなと遊ぼうよ」

 それが最善。そんなことは即座に解った。だが、今は平穏に背を向ける時だ。片付けなければならない過去が、まだ残っている。

「……無理だ」

「でも、一緒にいちゃダメなの?」

「お前を守るのが、俺の役目だ。だから、お前は下でアイツらといてくれ」

 自分の口から出たものとは思えないほど、らしくない言葉。

 華凪の手に、少しの力が込められる。そして、

「……分かった。でも、怪我したら許さないから」

「話すだけだ」

 華凪は小さく頷くと、部屋を出て行った。

 足音が遠ざかるのを確認すると、

「……ついでに聞かせるってどういう意味だ」

 黒希は騎士に問い掛けた。

「お前は彼女がどうやって地獄に入ったか、その方法を知ってるいるか?」

「……覚えてないって言ってる」

「覚えてない? …………ふむ」

「ふむって何だよ。自己解釈してないで話せ」

「彼女が嘘をついてる、とは考えないのか?」

「……隠す必要性がないだろ」

「何かとあれば敵と疑ってかかるお前が、彼女は敵ではないと確信している、その根拠は何だ?」

「アイツのことは、お前より知ってる。それだけで十分だ」

 黒希は机の椅子に腰掛けた。

「話って何だ。あ、謝罪なら土下座な」

 ライカ、騎士の順に視線を移す。

 するとライカが、

「別に裏切ったわけじゃない。コイツは昔の知り合いだったから守ろうとしただけだ」

 それに黒希は、

「ああ、俺の敵になってな」

 遠回しに、ライカを裏切り者呼ばわりする。

「だからあれは……」

「ライカ、もういい」

 弁明しようとするライカを説き伏せ、騎士はこちらに青い瞳を向けてきた。

「本題に入る。まずは、お前が置かれている状況から話そう」

「俺を撃った敵が目の前にいるってのは、よく理解してる」

 そんな戯言を無視して、騎士は続ける。

「俺が引き金を引いた直後だ。お前の動きが急に変わった」

「それで?」

「何をしたかは分かってる。それが問題だ。お前は力を使った。『後継者』としてのな」

「後継者、ねぇ」

 小馬鹿にしたような口調で、黒希は言った。

「何だ」

「そういう厨二臭い話、あんまり聞きたくないと思ってさ」

「……お前の仕事はどうなんだ?」

「あれは現実」

「これも現実だ。黙って聞け」

「偉そうに。っていうかよ、どうしてお前の話を信じなきゃなんねぇんだ?」

 言い終えた直後。

 騎士の姿が霞んだ。視界がブレた。

 騎士は、黒希ですら視認が難しいほどの速さで動き、彼の襟首を掴んで壁に叩きつけたのだ。

「つっ……」

「人の命がかかってる。お前が守ると言った涼風やあの娘の命も例外じゃない。解ったらそのふざけた憎まれ口を閉じろ」

「……」

 黒希は気に食わない調子で騎士の腕を乱暴に払って、席に着いた。

「お前の力を感知して、天使や悪魔、神がこぞってお前を殺しに来る」

「……理不尽だな。悪魔なら分かるが、天使と神に恨まれるような覚えはないぞ」

 それにライカが、

「天使の狙いはお前。神の狙いは、多分『刻印』だろうな」

「……」

  刻印。ツキネも、確かそんなことを言っていた覚えがある。

「今朝、すでに三体の神がこの世界へ入り込んだのを察知した」

「は? まさか近くに……」

「いや。海のど真ん中だ」

「どうすんだ?」

「俺とライカで対処する。お前達は、ここで休んでいるといい。ただし、仕事はするな。悪魔、その他の怪物との接触も控えろ」

「……分かった」

「自分が置かれている現状は理解できたか?」

 黒希は小さく頷いて見せた。

 力を使えば敵が近寄ってくる、ということで間違いなさそうだ。

「ならいい。ライカ、行くぞ」

「少しだけコイツと話をさせてくれ」

 騎士は頷き、姿を消した。

 黒希は念のため部屋を見回してから、

「……話って」

「これからどうするつもりかを聞きたかった」

「進路相談かよ……」

 露骨に嫌そうな顔をする黒希。

「真面目な話だ。涼風も戻ってきたし、もう龍地を殺す理由はないだろ」

「……その話か」

 黒希の表情が曇った。

「涼風と話してみる」

「そうしろ。あと……あの時は、攻撃してすまなかったな」

 黒希はキョトンとして、それから薄く笑って、

「あんなブレっブレの攻撃、余裕で躱せる」

 それにライカは驚いたような顔をして、

「……そか」

 ベッドから降りて、こちらに歩み寄ってくる。

「もしもの為に、『契約』を切っておく」

 そして、聞き慣れない言語を呟く。それから、

「……ん?」

 ライカが目を細めた。

「どうかしたか」

「……いや。何でもない。絶対に、仕事は受けるなよ」

 と言い残し、騎士同様にライカは姿を消した。

「……これから、ね」

 栄一に家を出ると言ったのに、家に縛り付けられる羽目になり、おまけに人外の怪物達に追われる。

 どうも、この先平穏は期待できそうにない。








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