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色とりどりの黙示録  作者: owen
序章
49/97

青の章 第3節

 

 突如として目の前に生じた炎。

 頭の中で状況の整理がつかないまま、次の変化は起きた。

 景色が変わった。

 横には湖があった。森に囲まれた湖にいた。

「危険な事しないでほしいな」

「ッ」

 背後からの声に、海留は慌てて立ち上がって声のした方へ銃を向けた。ズキッと脇腹が痛んだ。激痛に顔を歪める。

 声の主らしきベージュ色のトレンチコート姿の少女が、こちらに歩み寄ってきた。

「止まらないと撃ちま……」

 言い終わらない内に、少女は目と鼻の先にまで来てしまった。銃口が腹に押し付けられているのだが彼女に銃を気にしている気配はない。

「銃はそのままでいいから、座って。傷を治してあげる」

「……」

 信じる気は毛頭なかった。

 少女は目つきを鋭くして、

「座りなさい」

「……」

 海留は、何故だかそれに従った。強制力があったわけでもないのに、従っていた。

「よし、良い子」

 少女は目の前に座った。彼女の右手の周囲に白い記号が現れ、うずまいた。

 それを見ても、海留は驚きもしなかった。見慣れぬものを見るのに慣れてしまっていた。そんな自分に驚く。

 右手が脇腹に触れた。

「ッ……」

 チクリと痛んだ。

「大丈夫。すぐに痛みは消えるよ」

「……」

 海留は、少女を『観た』。

 シューティンググラスをかけているのを見ると、マトモじゃない。

 それに、肌。服の部分以外少し焼けている。しばらく南半球にいたようだ。目元にはクマがあり、トレンチコートには何かのシミが。

 彼女は旅暮らし。一定の場所に留まる事はまずなく、何か目的がある。そう、推理する。

 それを基に、彼女が何者か答えを出す。

「……貴女がアウトサイダー」

 少女は心底驚いた。

「わお。すごいね。何で分かったの?」

 隠蔽をしない。こんな奴に『シーカー』は振り回されていたのか。

「勘ですよ。それより、貴女の目的は?」

「君の安全」

 予想外の答えに、海留は目を細めた。

「……どうして僕なんですか。

「君が大事だから。親の愛を知らない君には解らないだろうけど」

 アウトサイダーは哀れむように言った。

 何故知っている。

 両親がいないことを、何故、彼女が知っている。

「……大事とは」

「文字通りの意味だよ」

「理由を訊いているんです。僕が大事だという理由を言ってください」

「好きだから」

「……バカにしてるんですか?」

 と言うと、アウトサイダーはグイッと顔を寄せてきて、唇に唇を重ねた。

「ッ⁉︎」

 海留はアウトサイダーの肩を掴み、突き離すと同時に立ち上がって彼女から距離を置いた。痛みは消えていた。

「何を……」

 唇を腕で拭う。

 アウトサイダーは残念そうに唇に指を当てて、

「もう少し長くさせてよ」

「……お願いですから、少し黙って。頭がおかしくなりそうなので」


 それから数分後。

 ポケットの中のスマートフォンが着信音を鳴らしたが、無視した。

「……まず、貴女がアウトサイダーなのは理解しましたが僕に干渉する理由がさっぱり分かりません」

「好きな子に振り向いて欲しくて悪戯するのは小学生でも知ってるよ?」

「……そこですよ。貴女は何故僕に好意を抱いているんですか? 今日が初対面ですよね」

「私は、何年も前に君の写真を見たことがあるよ。裏社会じゃ君は有名だったから」

「なら、僕がしてきた事も存じているはずだ。それでも僕のことを好きだと言うなら、貴女の正気を疑わせてもらいます」

 アウトサイダーは心外そうな顔をして、

「私は正気だよ」

「精神に障害を持った人の九割は自分を正気だと思ってますよ」

「あれ、そうなの?」

「統計学的には」

「本当に頭がいいんだね」

 海留は小さく息を吐いて、

「話を変えましょう。あの男、何者なんですか」

「彼、何て名乗った?」

「バーナヴァス」

 答えると、アウトサイダーは意外そうな表情を浮かべた。

「へぇ」

「……なんです?」

「事態は私が思ってたより深刻みたいだ」

「事態とは?」

「黙示録だよ。知らない?」

「宗教的な知識はあまりないので」

「バーナヴァスの姓はジェイソン。そのジェイソン一族は、代々悪魔を崇拝していてね。この世界で悪魔が出来ないことを肩代わりしているの。分かり易く言うなら、君と『シーカー』が事件を解決する側なら、彼らは起こす側ってところかな」

「あの事件も、貴女が言う黙示録と何か関係があるとお思いで?」

「思うんじゃなくて、確信してるの。彼らは黙示録を一つずつ現実にしている」

「何のために」

「魔王をこの世に現界させるため」

「魔王って……RPGに出てくるような?」

「ルシファーだよ。それくらい知ってるでしょ」

 馬鹿にされたようで、海留はほんの少しだけ苛立ちを覚えた。

「魔王をこの世に現界させ、人間の魂を食らわせて力を与えるために彼らは行動している。いずれ起こる戦争のためにね」

「……」

 壮大で、現実味がなく、突飛な話。

 それでも、海留は疑わなかった。

 何故だか、それが真実だと受け入れられた。

「それでね、君に一つお願いがあるんだ」

「……聞くだけなら」

 アウトサイダーは一際真面目な顔をして、

「さっき言った件は『シーカー』に任せる。だから君は、『シーカー』を離れて。ううん、黒希から離れて」

「……彼が何か?」

「このまま彼といると、君、死ぬよ」










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