サイドストーリー.1-3
青空の下の平原。
「なぁ、レオン。この戦いが終わったら、どうする気なんだ?」
横に並んで歩く若い女が、そう尋ねてくる。
「そうだな…………いや、思い付かない。他の生活は考えた事もなかったからな」
「なら、私と一緒に暮らさないか?」
少し照れたように、女は言った。
「一緒に、暮らす?」
思わず足を止め、首を傾げる。
女も足を止めると、こちらを見て、
「な、何だよ……」
「お前と一緒に、二人だけで暮らすってことか?」
それは、契りを結ぶ、という事なのだろうか。
「それ以外に何があるってんだよ」
女は照れたのか、頬を赤く染めて言った。
「……そうだな」
あの時は、こう答えたんだっけ。
「ああ。一緒に暮らそう」
赤い空の下の荒野。
「……すっかり幼子になったな、ライカ」
死の騎士、レオンの前に、突如として十歳くらいのゴスロリ衣装の少女が現れた。彼女の表情は、緊張していた。
少女、ライカは大鎌をこちらに向け、
「お前は……レオン、なのか」
震える声で訊いてくる。
ライカは戸惑っているようだった。何を信じるべきか、迷っている。
「……」
レオンは、腰に提げた鞘から刀剣を引き抜いた。
敵対心はない。彼女の迷いを振り払うには、この方法が一番なのだ。
ライカが姿を消す。
真上。レオンは見るよりも先に剣を振り上げた。
強力な一撃がのしかかる。足元の地面が砕けた。
上に目を向ける。
ライカと目が合う。
「……また同じ目をしているな、お前」
そう言うと、
「ッ」
ライカの瞳が揺れた。戦う者とは思えないほど、愛らしい目つきになった。
ライカは上段から叩きつけた大鎌を消し、レオンの刀剣の腹を踏み台に高く跳躍し、一回転して地面へ頭を向ける体勢になる。唇が動く。何かを詠唱したようだ。
ライカの足の周りの空気が、煌めいた。
ドンッと重い音がする。
右手に大鎌を出現させたライカが、矢の如く迫ってくる。
その音速を超えた一撃を、レオンは見切り、刀剣を巧く使って受け流した。
ライカは着地し、また地面を蹴って跳んだ。
空気を固体化し足場にして、素早く、不規則で強烈な連撃を繰り出す。
レオンは、それを躱し、防ぎ、受け流した。
そして。
真正面からライカが仕掛けてくる。
レオンは受け止めようと身構えた。
だが、彼女の手から大鎌が消えた。
咄嗟に、レオンも刃を下げた。
「んっ」
ライカと激突し、地面に倒れてしまう。
ライカはレオンの体に腕を回し、彼の胸に顔を埋めていた。
「生きてるんだったら、生きてるって連絡ぐらいしろよ……バカ」
震えた声で、彼女は言った。
レオンはライカの頭を優しく撫でてやり、
「すまない」
「何がすまないだ。一生許さん」
「……すまない」
その言葉を繰り返すしかなかった。
ライカを落ち着かせ、屋敷に転移するための術式を刀剣で地面に彫る。
「涼風に身を守る方法を教えてくれとハイガミに頼まれてな。その時に、お前が黒希の教育係になると聞かされた」
レオンに近くにチョコンと座るライカは、
「……どうしてハイガミは私に、お前が生きていることを言わなかった」
「俺が言うなと口止めをしたからな」
「どうして」
レオンは言いづらそうにして、
「……俺のことを恨んでいると思っていた。お前との約束を破り、独りでノアと戦わせたからな」
「そんなこと……」
ライカの言葉を遮って、レオンは、
「どうでもよくない。お前は普通の生活を送ることを夢見ていた。それなのに、お前は肉体を失い、仲間を失った。全て俺のせいだ。神になどならなければよかった」
「……私は、そうは思わない」
その言葉を聞いて、レオンはライカに視線を向けた。
怒ってはいたが、あれは生きていると知らせなかったから怒っているのだ。恨みのある怒りではなかった。
「神になれたから、お前と会えた。それだけで、私は……その……幸せ、だった」
照れたように、ライカは言う。
「それにな。私の体は、まだあの世界に残ってるんだぞ。今は訳あって、魂を核とした幽体だが」
「俺もだ。体は、もうないがな。今は涼風を依代としている」
そこで、ライカは何かを思い出したように、
「……ん、待てよ。つまり、私が初めて涼風と会った十年前から、お前はアイツに憑いていたのか?」
「ああ、そうだが」
「ふーん……」
意味ありげな視線をレオンに向ける。
レオンは術式を彫る手を動かし始め、
「悪かった。その、何だ……その服似合ってるな」
少し前、涼風に着せられるところを見ていたのだが。
「誤魔化すな。でも……ありがと」
まんざらでもない様子のライカ。
「出来た」
「よし。行くか」
と立ち上がるライカを、レオンは片手で制した。
「黒希はどうした」
「……置いてきた。お前の方が大事だ」
「それは嬉しいが、アイツも大事だ」
「殺そうとしたくせに……」
ライカがボソッと呟く。
「仕方ないだろ。力を試せと言われていた。本気でやるのが当然だ。それに、お前が憑いていたから死なないと推測した」
「大胆だな」
「黒希をどうするつもりだ。ハイガミが言うには、見込みがあるそうだな。俺はそうは思えないが」
「ハイガミは、アイツは『後継者』の中で一番強くなれる可能性があるとも言っていただろ」
「……呪いを力に変換する体質か」
「それだけじゃないぞ」
「何だっていい。今のアイツは、弱い。熾天使にだって勝てないぞ」
「魂と『刻印』を特殊な壁で分けているからな。能力値は、あれが限界だ」
「今は何割くらい?」
「二割」
「二割か……」
興味深そうに、レオンは繰り返した。
「話は後にしよう。ここじゃ落ち着かない」
「……そうだな」
地面に彫った術式の上に立ち、魔術を発動する。
屋敷に転移する。
室内は、シーンと静まり返っていた。
「……妙だな。誰もいない」
いつもなら、涼風曰く『萌えボイス』とやらが屋敷内にガンガン響いて騒々しいのだが。
ライカが玄関の方を見て、
「転移系の魔術を使った痕跡があるぞ」
レオンとライカは玄関の方へ歩いて行くと、跡を辿って転移魔術を行使した。




