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色とりどりの黙示録  作者: owen
序章
38/97

黒の章 第4節

 

 男が、地面を滑空するように距離を詰めてきた。

 黒希は男の肩に注目した。

 動くのは、左右のどっちだ?

 大鎌を右手に、黒希は身構える。

 男が動かぬまま間合いに入ってきた。

 敵が素人ではないのは、嫌というほど伝わってきている。一体どういう意図で?

 黒希は迷いを振り切り、大鎌を左斜め上に、男の胴体に向け振り上げた。

 男は腰を落とし、姿勢を低くしてそれを避け、跳ねるように右手の刀剣を振り上げてくる。

 黒希は大鎌を横に振り、刃を払いのけた。

 男は一歩踏み込み、左手の鉈を、こちらの顔に突き出してきた。

 それをまた、黒希は大鎌で受け流す。だが、今度はそうもいかなかった。

 男は大鎌を左手で掴んで拘束し、黒希の腹を蹴って吹き飛ばした。

「ぐぁッ」

 地面を転がりながらも体勢を立て直す。

 咄嗟に腹を影で防御したが、余波が痛い。

 男の手に大鎌が握られる。

「源は……なるほど」

 などと、男は呟く。

 黒希は大鎌を消し、自身の右手に作り直した。

「消滅、出現が自由か。ふん……」

 男の姿が消える。

「ッ⁉︎」

 背後で風を切る音。

 黒希は屈みながら振り返り、半ば倒れるように大鎌を斜め上に振り上げた。

 男は黒希の真上へ跳び、鉈をこちらに投げ付けてきた。

 黒希は左手で影を操り、影で壁を作って鉈を弾いた。

 影の側面に着地した男に向け、黒希は大鎌を振り下ろした。

 男は、上段で大鎌の刃の付け根に刀剣の刃を押し当て、受け止めた。

 互いに、左手が空いた状態となっている。

 それは長くは続かず、男の左手に、鉈が吸い込まれるようにして握られた。

 黒希の腹に向け、横に振るう。

 黒希は、後方に軽く跳んで距離を取り、避けた。

 すると、男は何を思ったのか、鉈をベルトの鞘に収めた。

 それを見た黒希は、目を細めた。

「……」

 余裕を見せるための行動か。

 精神的に追い詰めるための行動だと解釈する。

 黒希は地面を蹴った。

 今度はこちらから仕掛ける。

 正面、男との距離約一メートルの所で、再度地面を蹴り、側面に回り込む。大鎌を、男の右肩を斬り落とす軌道で振り上げる。

 もちろん、男は反応した。

 ここだ。

 刃と刃が接触する瞬間、黒希は右手から大鎌を消し、左手に作り直して、左右逆の軌道で、右肩を狙った。

 斬れる。そう、確信した。

 しかし。

 男は表情一つ変えずに、それに対処して見せた。

 刀剣を逆手に持ち替え、左向きに回転して大鎌に強力な一撃を文字通り叩き込んだ。

「つッ」

 衝撃が黒希の手に伝わる。鈍い痛みに黒希は顔を歪めた。

 一瞬の怯み。

 その隙に、男は黒希の腹に二度目の、しかも突き刺すような蹴りを入れた。

 今度という今度は、数メートルに留まらず、十数メートルは吹き飛ばされた。

「くっ……」

 影で防御したが、衝撃が体にダメージを与えてくる。

 男が走って距離を詰めてくる。

 黒希は大鎌の刃を下向きに構え、それに応じた。

 衝突する。

 高速でぶつかる鎌と剣。ぶつかる度に火花を散らした。

 劣勢なのは、依然として黒希。

 男は刀剣を巧みに操り、ゆっくりとだが確実に黒希を追い詰めていく。

 そして、二十三撃目で戦況は動いた。

 男が一回転して、遠心力で重みを加えた一撃を斜め上から繰り出した。

 黒希は受け止められないと判断し、身を引いてそれを避け、すぐさま一歩大きく踏み込んで大鎌を振り下ろした。

 男は紙一重でそれを躱す。

 すかさず黒希は右手の大鎌を消し、左手に大鎌を作り直して、男の胴体に向け振り上げた。

 男は後方へ跳んで、避けた。

 数秒の間も無く、またこちらに駆けてくる。

 右手の刀剣をやや上に構える。

 上段からの一撃。安易に予測できた。寧ろ、男がそう予測させた、とでも言うべきか。裏があるのは間違いない。

 男が剣を振り下ろしてくる。

 黒希は、大鎌を振り上げてそれを受け止める。その最中に、男の腰に提げられた鉈を見る。使う気配は、ない。

 直後に、何が起きたかを、黒希は理解できなかった。

「ッ」

 右脇腹と左膝が、ほぼ同時に斬られた。

 刀剣は受け止めた。鉈は微塵も動いていない。

 なのに、斬られた。

 まるで視えない刃があるような。紙で手を切った時のような、予測していなかった攻撃。

 黒希は地面に右膝をついた。左足の力が抜けてしまったのだ。

「魔術が視えないのか。致命的だな」

 男の言葉に、黒希は忌々しげに顔を歪めた。

 男は魔術を行使したらしい。口振りから判断すると、黒希に魔術の視認が不可能だと知らなかったようだ。

「殺す前に、一つ訊こう」

 男は、刀剣の先端を黒希の胸の中心、心臓へ向けて言った。

「涼風を救う理由が、お前にはあるのか?」

「何を……」

 彼の言いたいことが、分らない。

「家族はいらない。てっきりお前はそう思っていると、俺は考えていた。それに……」

 刀剣が、胸を貫く。心臓を刺す。

「力の無いお前に彼女を返したところで、お前はまた、彼女を失うことになるだけだぞ」

「……」

 言い返す言葉は、見つからない。

 黒希の手から大鎌が滑り落ち、消えた。

 刀剣が引き抜かれる。

 あまりにもあっけなく、黒希は地面に倒れ、呼吸を止めた。








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