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色とりどりの黙示録  作者: owen
序章
30/97

黒の章 第2節

 


 生きたまま地獄に入るには、時期限定の裏口を使う必要があった。

 その裏口が開く時期が、今日、八月六日だ。


 底の見えない奈落の穴の淵に、黒希とライカは降り立った。

「ここに来るのも、久しぶりだな。あれから何年経った?」

 横に並ぶライカが、それに答える。

「十三年」

「十三年か……ずいぶんと長い間待たせちまってるんだな」

 過去を思い出し、少し、視線を落とす。何もできなかったあの時を悔み、唇を噛む。

 今は違うと、そう信じたい。

「涼風を救ったとして、その次、お前はどうる気でいるんだ」

 急に、ライカが聞いてきた。

「何だよ突然」

「お前の妹が、必ずしも父親の龍地を恨んでいるってわけじゃないだろうし、もしそうだとしたら、お前はどうする。それでも、龍地を殺すのか?」

「それは……その時考える。それよりも、今は涼風を捕らえてる死の騎士って野郎を殺すのが優先だ。ライカ、死の騎士に関する情報」

「強いらしい」

 と、そこで言葉が止まった。

「……それだけ?」

 黒希が訊くと、

「何だよ。文句があるなら自分で情報を集めたらどうだ」

「そもそも、お前の情報源って何処なんだよ」

「色々と」

「教える気はなし、か」

 信憑性に欠ける情報の提供。こういう場合、ライカを敵だと認識するのは正しいだろう。だが、どういうわけだか、彼女を敵だとは思えなかった。殺す機会なら幾らでもあったはずだから、というのもあるが、一番の理由は彼女が自分に力を貸していることだ。少なくとも、今は敵じゃないということになる。十分だ。

「俺とそいつと、どっちが強い」

 訊くと、ライカは少し黙り、

「……死の騎士だろうな」

 その声は、少し震えていた。

 黒希は特に気にせずに、

「実際に戦ったことは?」

「ない」

「なのに、俺より強いと分かるのか?」

「当たり前だ。今のお前の強さで、地獄に来るべきじゃない」

「だが、俺の力はもう育たないんだろ。だったら待つ必要はない」

「それもそうだが……ッ。黒希」

 何の前触れもなくライカが身構え、姿を消した。黒希の中に戻った。

 黒希の右手に大鎌が現れ、握られた。

 直後に、黒希を中心として、多数の黒い穴がドームの形を描くように現れた。

『敵だ』

 ライカの声が頭の中で響く。

 黒い穴から、青白い手、足、鉤爪、頭(?)などが飛び出した。そのどれもが、異形だ。今にも破裂しそうほど膨れ上がった皮膚、骨が見えるほど抉れた肉など、醜い全貌が見ずとも安易に想像できた。

 そして、現れる。

 やはり、恐ろしいほど醜い化物達が穴から這い出てきた。

 中には、体全体に顔を持つ者までいる。

「……お世辞にも美人とは言えないな」

『どうやら、誰かが粘土みたいに亡者の魂をくっ付けたらしい』

 と、ライカが説明してくれる。

「なるほど。よく見れば、幼稚園児が粘土で作った創作物に見えなくもないな」

『ここに来たのがバレたかもしれない。早くここから離れるぞ』

「……じゃ、突破だな」

 呟き、目の前の三メートルはある人型の化物の醜い顔面に向け、大鎌を投げた。

 大鎌が眉間に突き刺さる。

 化物が悲痛な金切り声を上げる。

「くッ」

 耳障りな声に顔を顰め、黒希は大鎌の元に跳び、化物の眉間から大鎌を抜きつつ奴の頭を踏み台にして、さらに大きく跳躍した。

 化物の包囲網を軽々と飛び越え、着地と同時に地面を蹴って走り出した。

 追いかけてくる気はないのか、それとも追いかけようと思う脳みそがないのか、化物達は呻くばかりで動こうとしなかった。

 目の前から、何かが迫ってきた。

 あれは、人?

 黒希は大鎌を肩に担ぎ、その人影が間合いに入ると振り下ろそうと構えて________驚いた。

 あれは、自分と同じ歳の頃の少年だった。

 すれ違う。

 一瞬だが、目が合う。

 青い瞳だった。海留と咲と同じ瞳だ。

 背後で立ち止まる音がして、足音が段々と近付いてきた。

 横に並んでくる。

 背は黒希より高く、約百八十センチといったところだ。灰色のパーカーにジーンズといった格好、黒髪。

 顔を見る限り悪魔ではなさそうだ。

 生きてる人間に見える。

「……何か用か」

 訊くと、

「お前、人間だよな?」

 少年に訊き返される。

「そうだが……お前は」

「人間だ」

「……で、何か用か?」

「いやぁ、アイツら以外で生きてる人間を見るの初めてだからさ。珍しくて、つい声を掛けちまったわけ。迷惑だったか?」

「……いや」

 生きてる人間が地獄にいる。普通の人間が誤って落ちたという事は、万が一にも起こり得ない。つまり、コイツは普通じゃない。

「ん、アイツって言ったか? まさか、他にも人間がいるのか?」

「え? ああ。いるぜ」

「涼風って名前か?」

「そうだけど」

 それに、黒希は思わず立ち止まった。

 青い瞳の少年も、少し先で立ち止まる。

 化物達からは、かなり遠ざかっていた。

「何処で会った」

「何処でも何も、同じ家で暮らしてるぞ」

「何?」

 一緒に、暮らしてる?

 黒希は混乱した。ライカの話だと、死の騎士って奴が涼風を捕らえているとのことだったが。

「あ! もしかしてお前、黒希だろ?」

 少年が思い出したように言った。

 黒希は警戒すると同時に、期待を抱いた。

「……知ってるのか?」

「ああ。涼風から何度か話を聞いたことがある。アイツの兄貴なんだろ?」

「……」

 コイツは敵か、そうでないか。

 黒希は即座に判断した。

 右手から大鎌を消し、

「案内してくれ」

 すると、少年は人懐っこい笑みを浮かべて、

「いいぜ」

 少年を先頭に、二人は走り出した。

「お前、名前は?」

「ん? あ、そういや、まだ名乗ってなかったな」

 少年は少し減速して、横に並んできた。右手を差し出してきて、

光助こうすけだ。よろしくな」






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