緑の章 第1節
地獄から連想されるものは、火の海、亡者の苦痛な叫び、ツノの生えた悪魔。
しかし、実際はそんなものはない。
無数の鎖が行き交う赤い空。何処までも広がる緑のない乾いた赤い大地。自然的な気温という概念が存在しない。
それが地獄だ。
地表から少し高い位置に『扉』が現れた。
そこから、白く小さな人影が飛び出し、顔面から地面に落ちた。
「あぅッ⁉︎」
白い人影、咲は顔を抑えながら、ゆっくりと起き上がった。
立ち上がると、膝に鋭い痛みが走った。
「うっ……」
見ると、右膝の真っ白な肌に痛々しい擦り傷ができていた。
咲は、膝に右手を翳した。
すると、右手が白く光り出した。
光が消え、右手を引くと、傷は綺麗さっぱり消えていた。だが、体はまだ傷があると錯覚しているようで、痛みは残っていた。
さっきのは、所詮傷の治癒にしかならない。痛覚までは鎮められない。
「うーん……やっぱり、呼吸が苦しい」
力を使ったせいか、少し呼吸が荒くなり、疲労を感じた。
咲の体は人間とは造りが違い、食事などは、基本必要としない。その代わりに、草木などといった自然の生命エネルギーを分けて貰って己の活力、生命力、魔力としている。
その自然が、ここにはない。あったとしても、全て枯れてしまっている。
乾いた空気があるだけマシか、と咲は割り切ることにして、歩き出した。




