0.8
「……」
ゆっくりと目を開き、何回か瞬きをした。
瞳から涙が溢れ出した。
「あれ?」
上半身を起こし、それを腕で拭う。拭っても拭っても、涙は止まってくれない。
何故か、悲しかった。胸が苦しくなる。
ベッドから抜け出し、自室を出た。足早に、隣の彼の部屋に入り、ベッドに潜り込む。
「ん……おい」
華凪に気付き、黒希は目覚めた。
「ごめん、ね……」
「……どうした」
華凪が泣いているのに気付き、訊いてみる。
華凪は彼の背に体を摺り寄せ、
「変な夢見ちゃって……それで、悲しくなっちゃった」
彼女の声は、震えていた。泣いているのだから、当たり前だろうが。
「ねぇ、こっち、見て」
と、華凪が言ってくる。
この際だ、仕方ないか。
黒希は仕方なく、寝返りをうった。
暗闇でよく見えなかったが、華凪の顔が目の前にあるのが分かる。啜り泣く声が間近から聞こえる。
こういうのは、初めてだった。彼女が夢を見て泣くなど、初めてだ。
「抱き締めて」
「……断る」
「じゃあ、抱き着くから、抵抗しないで」
「……」
華凪の腕が首に回される。胸に顔が押し付けられる。
この女、どうやらティーシャツを涙を拭くためのテッシュかタオルだと思っているらしい。
華凪は黒希の胸に顔を埋めたまま、
「私が寝付くまで、ずっとこのままでいて」
黒希はしばらく黙った挙句、
「……好きにしろ」
渋々承諾した。
八月六日の午前二時の事だった。




