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色とりどりの黙示録  作者: owen
序章
25/97

 

 この世界は、夜になると空に無数の色とりどりの光が散りばめられる。その一つ一つに命があるかのように、暗い空を泳ぐように漂い、煌めいている。

『私』は、そんな幻想的な光景を、深い森の奥にある丘の上に座って見上げていた。

 隣には、二十歳くらいの青年が座っていた。身長は百八十センチほど。服装は、茶色のシャツに黒のジャケット、ジャケットと同色のズボン。両手には変わった形の記号が刻まれた革製の手袋がはめられている。髪は白く、瞳は赤い。こんな穏やかな場でも、腰のベルトには刀剣が二本提げられていた。それで、彼がどんな場所で育ったかが分かる。

 戦う毎日。血を浴びる日々。安らぎのない世界。

 ここは、『私』達にとってはそんな世界だ。

 だけど、そんな殺伐とした世界でも、こうして、彼と並んで静かな時間を過ごせる。

 彼と一緒にいられることが嬉しくてたまらず、自然と頬が緩む。

「ねぇ、アニ」

 青年の名を呼んだ。

 彼は、こちらを見向きもせずに、

「その名で呼ぶな」

「じゃあ、どんな名前で呼べばいいの?」

「……」

 訊くと、彼は黙ってしまった。

 可哀想なことに、彼には名前がなかった。

「いいじゃない、呼び名がないと不便だもの」

「……好きにしろ」

 彼は渋々承諾した。

 アニという名は、『私』が付けた名だ。

 その名の由来は、魂の意味を持つ『Anima』という単語だ。

「私達、ずっと一緒にいられるかな?」

「さぁな」

「お姉ちゃんにメーティスも、ずっと家族でいられるよね」

「知るか」

 素っ気ない彼の態度。そういう素直じゃないところが大好きだった。

「私なら、ずっと君と一緒にいられるよ」

『私』は彼の手から手袋を外し、素手を包み込むように握った。

 冷たくて、触れる度に『私』を拒絶するような鋭い痛みがする、彼の手。

「……」

 彼は、握られた手に視線を落とした。

「君の力は、私には効かない。だから……」

 これから大事なことを言おうとしたのに、彼は『私』の手を振り払った。

「この戦いが終わったら、俺は消える。カノンも、それを望んでいる。アイツは俺のことを嫌っているからな」

「そんなことないよ。ただ、アニのことをよく知らないから、警戒してるだけだよ」

「……」

 彼は、また空を見上げた。

「……ツキネ」

 珍しく、彼が『私』の名を呼んだ。

「何?」

「お前……怖くないのか。これから、生きるか死ぬかの戦いをしに行くんだぞ」

 そう言った彼の声は、震えていなかった。それは頼もしく、同時に悲しく思えた。戦いに慣れてしまっている、ということだから。

「怖いよ。でも……」

『私』は、彼の体に寄り掛かった。

「家族がいるから、大丈夫」

「……」

「君にも家族がいる。私、お姉ちゃん、メーティスが、君の家族だよ」

 彼の瞳が、感情的に揺れる。

「家族が君を守る。孤独から、守ってあげる」

「……ツキ」

 そこで、全てが止まる。


 光景が飛ぶ。

 再生される。


 全てがガラスで構築された、『タワー』と呼ばれる建物。

 聳え立つそれは、まさに天にも届くほどの高さがあった。

 オレンジ色に燃え盛る地上が、『タワー』の最上階を、夜空まで照らしていた。

『私』は、最上階にはいない。『私』がいるのは『タワー』の中腹部。

 徐々に遠ざかる意識と、冷たくなる体。

『私』は、ガラスの壁に背を預けていた。

 白いローブと同色のニーソックスが、血で赤く染まってしまっている。結構お気に入りだったのに。

 そう、『私』は死にかけていた。致命傷となったのは、『刻印』の呪縛。力を使い過ぎてしまったのだ。

 後悔はない。いや、せめて彼に、家族に側にいて欲しかった。やっぱり、独りで死ぬのは、ちょっと寂しい。

 口の中に、血の味が広がった。

 吐血する。白い服が、血で汚れる。

 もう、長くは保ちそうにない。

「……ごめんね、みんな」

 みんなが頑張ってくれてるのに、もう、無理みたいだ。

 霞む視界の中、誰かがこちらに歩み寄ってくるのが見えた。

 少女? 十歳のくらいの少女が、そこにいた。黒いワンピースを身に纏う、長い黒髪。黄色い瞳。

 少女は『私』の前で屈んだ。

 その黄色い瞳に映る、『私』の姿。

 十歳くらいの少女。背丈は歳相応で、服は白のローブにニーソックスなのだが、血で赤く染まっていた。腰まで伸びる茶髪に、今にも光が消えそうな青い瞳。

 その少女の名はツキネ。

 彼女は、『私』ではない。

 黄色い瞳の少女が唇を動かした。

 何を言ってるのか、聞こえない。

 言葉の途中で、黄色い瞳の少女はポロポロと涙を流した。

 どうして?

 理由を訊こうとしても、ツキネの唇はもう動かない。

 最後に、黄色い瞳の少女はツキネの頬を優しく撫で、こう言った。

「ごめんね」





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