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黒希を空港で下ろした後、車はビーチ付近のホテルの前に停まっていた。
「『アウトサイダー』が使う端末のIPアドレスを辿って、ようやく突き止めたのがこの場所だ」
「なら、期待はできませんね」
助手席に座る海留が、拳銃の弾倉をチェックしながら言った。
「まぁ、他に手掛かりが無い以上、行く他ありませんが」
拳銃を腰の後ろに挟み、車を降りる。
叶も、それに続く。
栄一と咲は、車で待機する。
ホテルに入る。
海留は、栄一から渡された手元のタブレットを見て、階段に向かった。
「それで、何かあったんですか?」
急に、海留が訊いてきた。
「何が?」
「リーダーですよ。不機嫌だったようですが」
「……」
叶の脳裏に、あの光景が浮かぶ。
あんな黒希は初めて見た。何度か怒ったところを見たことはあるが、ただ怒りをぶつけるような怒り方は初めて見た。
黒希とあの白衣姿の男と、何かあるのだろうか。
あったとしても関係ない、のだろうか。
黒希のためなら、何でもするのに。
頼りにしてくてもいいのに。
少しは振り向いて欲しいものだ。
これじゃあ、何のために強くなったのか、分からなくなる。
「……」
「叶さん?」
海留の声で我に返った。
「え? あ、何だっけ」
「リーダーのことですよ」
「……本人に直接訊けば」
ああいったことを、本人に無断で話すのは気がひける。
「僕が訊いたところで、彼はきっと真実を答えませんよ」
「……前から気になってたんだけどさ。アンタってアレなの?」
「アレとは?」
「その……同性愛者」
すると、海留は笑った。
「はは。僕がゲイじゃないかと貴女は疑っていたんですか?」
「だって……アンタが『シーカー』にいる理由ってさ……」
「確かに、リーダーの黒希という男を知るためですよ。でも、そういう意味じゃありません。同性愛に偏見はありませんが、僕は違いますよ。そもそも、恋という機能は僕には無用の長物です」
「……」
海留がこちらに顔を向け、微笑を見せた。
「貴女は違うようですが」
「ッ。何を……」
叶が何かを言いかけたところで、海留は片手を上げてそれを制した。
「この階です」
海留がドアを僅かに開け、隙間から廊下を覗く。
早朝なので、人通りはない。
「行きますよ」
叶は小さく頷いた。
廊下に出る。
自然を装って歩く。信号が発せられている部屋に向かう。
部屋にの前に着くと、二人は腰の後ろから拳銃を取り出し、顔を見合わせた。
海留が手信号で、突入を指示する。
海留、叶の順で部屋に入る。拳銃を構える。
部屋は無人だった。
海留が、叶に浴槽を確認するよう指示を出す。海留は部屋の奥、ベランダに出る。
やはり、誰もいない。
手元のタブレットを見るが、信号の発信源は確かにこの部屋にあった。
部屋の中に戻り、ベッドの下を見る。
何かあった。
手を伸ばし、それを引っ張り出す。
アタッシュケースだった。開けると、キーボードとディスプレイが中に取り付けてあった。
ラップトップだ。信号の発信源はこれらしい。
バスルームから叶が出てくる。
「誰もいない。けど、さっきまで人がいたみたい。ここに来たのバレたのかな」
「……」
違うと海留は思った。
ここに誰かが来ると知っていたのなら、何故ラップトップを隠すだけで、持って逃げなかった。何かあるはずだ。
「ここを出ましょう。もう用はない」
ラップトップを持って部屋を出る。
廊下を曲がると、階段から若い白人男性が二人出てくるのが見えた。シャツにジーンズといった、どちらも至って普通の格好をしている。
だが、海留と叶は男の顔を見て足を止めた。
二人の男の顔に、仮面のような半透明の不気味な顔が貼り付いていた。
人間ではないモノが、男達に憑いていた。
二人は一度目を合わせ、踵を返して走り出した。
後ろから追ってくる男一人に海留は狙いを定め、引き金を引いた。
右肩に命中する。傷口から黒煙が上がる。男の顔に貼り付いた顔が、苦痛に歪む。しかしそれだけ。動きまでは止まらない。
「どうして悪魔がここにいるんだよ!」
叶が言う。
悪魔。醜く、卑しい人間の成れの果て。それが、男達にとり憑くモノの正体。
「考えるのは後です! 早く幻術を!」
非常階段の手前、叶は立ち止まって悪魔の方を振り向き、パチンと指を鳴らした。
廊下に、奇妙な風が吹いた。
衣服を通り抜け、直接肌に当たり、さらに体内にまで浸透する風。
悪魔の動きが止まった。
叶の力、幻術。名の通り幻を見せる力だ。
二人は非常階段を駆け下りる。
逃げるしか手段がないわけじゃない。悪魔に対抗するために、二人が持つ拳銃には銀の弾が込められている。
だが、今の目的はラップトップの回収と生還。危険を冒さず逃げるのが、この状況においては賢明な判断と言える。
外に出て、車に乗り込む。
「出してください!」
海留が叫ぶと、栄一はアクセルを踏んで車を発進させた。
ホテルから十分に離れると、
「何があった?」
栄一が訊いてくる。
それに海留が答える。
「悪魔がいました」
「悪魔が? 何故だ」
「知りませんよ。悪魔はともかく、ラップトップを見つけました。『アウトサイダー』に関する情報が得られるかもしれません」
「よし、よくやった。ラップトップはこちらで分析する」
「それなら、僕も一緒に本部に行きます」
「分かった。今日はご苦労だったな」
不可解な事もあったが、何はともあれ、本日の業務は終了した。




