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事情により、勝手ながら次の投稿は明後日になります
申し訳ありません
叶の姿を見た途端、黒希は安堵した。
それも、一瞬のこと。
彼女の前にいた白衣姿の男を見て、目の前が真っ暗になった。
怒りが滲む雄叫びを上げ、突進する。
憎き男の襟首を掴み、コンテナに叩きつける。
「龍地……どうしてお前がここにいる⁉︎」
龍地と呼ばれた男は、少しの間痛みに顔を歪め、口を開いた。
「顔を見に来た、それだけだ」
黒希の目元が、怒りで微かに動いた。
「どのツラ下げて言ってンだよ。まさか、此の期に及ンで父親ですなンてくだらねェ台詞吐かすンじゃねェだろォな?」
殺せ。
心の中で、何かが囁く。
「お前には、謝りたいと思っている」
「謝る? 本気で言ってンのか?」
「……」
龍地は沈黙で答えた。
本気だと分かる。
だが、黒希の怒りは消えない。寧ろ強くなる。
殺せ。
心の中で、何かが囁く。
「今さら遅ェよ。涼風は地獄に落ちた。お前が落とした。俺も、お前が地獄に落とした。その事実は変わらねぇんだよ‼︎‼︎」
最後の最後で、黒希の口調が通常に戻った。その時の彼の表情は怒りに塗れ、しかし、瞳は悲しげに揺らいでいた。
龍地の頬に向け、ありったけの力を込めた右拳を放つ。
龍地は、白衣の中に左手を伸ばした。
直後に、黒希の体は弾かれたように吹き飛び、弧を描いて落ちた。
気を持ち直し上半身を起こすと、黒いシャボン玉の中にいる龍地に向け、
「逃げる気か‼︎」
怒鳴った。
龍地は何も言わず、姿を消した。
追いかけようと駆け出すが、シャボン玉は消滅してしまった。
「クソッ……」
怒り任せに両の拳を握る。血が滴るほど、強く握っていた。
「……黒希?」
横から叶が声を掛けてきた。
今のは、見られただろう。
なんと説明しようか考えていると、
「黒希、手から血が……」
叶が歩み寄ってくる。心配そうに言ってくる。
するとさらに、コンテナの陰から咲が出てくる。
二人に見られた。
黒希は唇を噛んだ。
「手、見せて」
叶が両手を取って、傷の具合を診てくれる。
爪が食い込んでできた傷だと分かると、
「さっきの人……知り合い?」
恐る恐る訊いてきた。
黒希は彼女の顔を見て、目を逸らし言った。
「……お前には関係……いや、何でもない。答えたくない」
「……いいよ別に。でも、困ってるなら力を貸すからさ。何でも言って」
「……」
叶に返す言葉はなかった。
「……そうだ。お前ら、怪我はないか」
叶と咲を交互に見て、訊く。
二人は、ぎこちなく頷いた。
やはり、さっきの事を気にしているようだった。
気不味い雰囲気が三人の間に満ちる。
「みなさん!」
上から海留の声がした。
高い位置にある足場に、海留の姿があった。
階段を早足で降り、こちらに駆け寄ってくる。
「怪我は?」
それに、黒希が三人を代表して答える。
「ない。お前は」
「ないです。それよりここに……」
それを遮り、黒希は、
「帰るぞ。仕事は終わりだ」
海留の横を通り、階段に向けて歩き出した。
「リーダー!」
黒希は無視して、逃げるように歩き続けた。