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色とりどりの黙示録  作者: owen
序章
17/97

13

今さらですが、ご意見があれば遠慮なくどうぞ


 

「ふわぁ……ん……あれ?」

 咲が目を覚ました。

「ようやく起きたか」

 呆れた調子で叶は言った。

 二人はベルトコンベヤーのある広い部屋にいた。

 停止状態にあるベルトコンベヤー上のコンテナの陰に身を潜めていた。

 咲は寝ぼけ顏で辺りを見回し、

「この音、何?」

 鉄パイプでコンテナを叩くような音がしていた。かなり大きな音だったが気にはならなかった。

 コンテナの陰から顔を出そうとした咲の首根っこを叶は掴み、引き戻した。

「危ないぞ」

「え? 何で?」

「説明するとだな、黒希達と逸れた。それと、敵に銃撃されてる」

「じゃあ、この音って……鉄砲の音?」

 銃撃されているというのに、寝起きのせいか咲は驚かなかった。寝起きにしても能天気すぎる。

「ああ。だから、ここにいろよ。一歩でも出れば顔に穴が開くぞ」

「叶は?」

「ちょっと出てくる」

「どうして? 力を使えば……」

「さっき試したけど、か効かなかった」

「じゃあ……殺すの?」

 咲が哀しげな表情を浮かべ、訊いてくる。

 叶は咲の青い瞳を見つめ、答えた。

「大丈夫、殺さないよ。ちょっと痛い目に遭ってもらうけど」

 それでも、咲の表情は優れなかった。

「……怪我しないでね」

「ん」

 頷き、コンテナから飛び出した。

 ベルトコンベヤーから飛び降り、鉄柱の陰に隠れて銃撃を凌ぐ。

 敵の位置を把握するため、室内に目を走らせた。

 数は六人。全員がライフル、特殊部隊の装備で武装しているよう。厄介なことに一人一人が互いをカバーし合える位置にいる。それだけで、相手が高度な訓練を受けていることが判る。

 だが、それはこちらも同じ。

 銃撃が止む。その隙に、叶は拳銃を構えた。

 狙いは隊員ではなく、天井の照明。

 場を暗闇に閉ざす。

 隊員達がライフルに付けられたライトを点けた。その光の輪の中に、叶はいない。

 照明を全て破壊した時には、彼女は動いていた。

 音を立てずに梯子を登り、ベルトコンベヤーの上の足場へ。

 そこに二人。まだ、叶を探し続けている。

 叶は警棒を振り下ろし、最大の長さに伸ばした。全長は三十センチほど。

 警棒を伸ばした時に生じた小さな音で、手前の隊員がこちらを振り向いた。

 叶は横の手摺に跳び乗り、勢いをつけて隊員の顔を蹴り飛ばした。

 呻き声がした。男だ。

 二メートル先にいる隊員がこちらを振り向いた。銃口が向けられる。

 走るか? ダメだ、間に合わない。

 叶は手摺を飛び越え、足場の淵を両手で掴んでぶら下がった。

 銃声が連続して聞こえた。両手に強い振動を感じた。耐えられずに左手を離して、足場の真下の鉄骨を掴んで、今度は右手を離した。足場の下にぶら下がる。

 真上から足音がする。隊員が叶を探しているようで、ライトの光が右往左往している。

 光が、叶から見て右に向けられた。

 叶は足を揺らして勢いをつけて左に飛んで、足場の淵を掴んだ。そこから手摺を登り、腕の力だけで体を持ち上げ、足場に着地する。

 隊員の背後にこっそりと忍び寄り、警棒で後頭部を殴る。気絶させる。

 二人排除。残り四人。

 次の標的に向け、叶は動く。

 叶は、優れた身体能力の高さ故に近接格闘を得意とする。特殊能力が関与しない体術なら、『シーカー』内ではあの男二人より飛び抜けて上手い。情けない話だ。

 足場の下、ベルトコンベヤーの操作盤と思われる機械の近くに一人いた。

 銃に付けられたライトは、もう点いていない。叶を警戒してのことだろうが、彼女はとっくに暗闇に目を慣らしたので支障はなかった。

 足場から飛び降りる。

 能天に一発食らわそうかと思ったが、死なれても後味が悪い。

 着地し、警棒で隊員の片足を払い、地面に倒す。喉に加減した一撃を加え、一時的に窒息させる。

 背後に気配を感じ取る。前からも、一人迫ってくる。その手にはナイフが。

 叶はまず、前から迫ってきた隊員が突き出してきたナイフを横に払い、鳩尾を狙い膝蹴りを放つ。

 一人無力化。

 そのまま、膝蹴りを繰り出した右足を後ろに向け勢いよく伸ばした。

 背後にいた隊員は、それを右手で受け止め、右脇に挟んで拘束した。

 隊員に背中を向けるような体勢になる叶に、隊員は左手に持ったナイフを突き出した。

 叶は、自ら左足を払われたように倒れ、ナイフを避けた。地面に顔をつく前に、腰を回転きかせ、仰向けになる。右足の拘束は解かれなかったが、十分だ。両手で地面を押し、勢いをつけて左足の裏で隊員の顎を、アッパーの如く蹴り飛ばした。

 倒す。無力化する。

 残るは一人。

 何処だと辺りを見る叶の背後で、銃声が響いた。

「ッ⁉︎」

 慌てて振り返る。視界に弾丸が飛び込んできた。

 終わった。そう、思った。

 しかし、

「……あ、れ?」

 目の前には、銃を撃つ隊員がいる。

 銃口から放たれている弾丸は、確かに自分の体を貫いている。にも拘らず、痛みがない。それどころか、風穴も開いていない。

 妙な感覚だった。まるで、幽霊にでもなった気分だ。

「安心しろ。それはホログラムだよ」

 男の声がした。今もなお撃ち続ける隊員の向こう側に、男がいた。白衣姿の、黄色い瞳の中年男性。

 叶は隊員が落とした銃に手を伸ばし……それを掴めずに愕然とした。

「何で……」

「ホログラムだって言っただろ。それより、見事な体術だった。まさか、二人を相手に勝つとは思っていなかったよ」

 と、男は本当に感心したように言う。

 叶は腰の後ろの拳銃に手を伸ばし、

「……誰」

「俺は……」

 と、男が名乗ろとした瞬間。

 それは凄まじい轟音に掻き消された。


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