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色とりどりの黙示録  作者: owen
序章
15/97

11

2015年10月14日に誤字修正を行いました

 

 試しに、何度か撃ってみる。

 金属同士がぶつかったような甲高い音がする。

 実体はある。なら殺せるはずだと黒希は考える。

 銃を左手に持ち替える。

 その間にも、電流体はゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。

 顔のない、それを見て、黒希は目を細め、呟く。

「……ライカ」

 名を呼ぶ。

 黒希の斜め後ろに、小さな人影が現れる。

 十歳くらいの少女。身長は百三十センチ弱。

 黒のメイド服に似た衣装に身を包んでいて、フリルの付いたカチューシャが載せられた黒い長髪。まるで、暗闇を纏っているかのような容姿だ。

 ライカは赤い瞳を、黒希に向けた。

 黒希は変なものでも見るような目で、

「……何だその格好。いつもの服はどうした」

 ライカは己の服装を見下ろし、

「ごすろり、って言うんだっけか? 知り合いに着せられた」

「知り合い?」

 言及しようとする黒希からライカは目を逸らし、前方から歩み寄ってくる電流体に目を向けた。

「用件はアレか?」

「ああ。アレは何だ」

「知らん」

 ライカは即答した。

 黒希はあまりの返事の速さに面食らい、やがて我に返り、

「アレは、どう見たって人間じゃない。お前なら何か知ってるだろ」

 ライカは仕方ないといった様子で電流体を凝視して、こう言った。

「……知らん。少なくとも、お前に視えるってことは魔術的な存在じゃないな。となると科学側、つまり、お前の領分だ。私に頼るな」

「私に頼るなって……お前は俺の『契約者』だろうがこのクソあま

「ふん……で、用件はそれだけか?」

「力を貸せ」

「……あんまり使い過ぎるなよ」

 そう言い残し、ライカは煙のように消えてしまった。

 黒希は電流体に視線を固定し、全神経を研ぎ澄ませた。

 相手を殺す。

 できなければ、こちらが死ぬだけ。叶達にも被害が及ぶ。

 だから、消す。殺す。

 彼の中で燻る殺意が形を得たような、そんな武器が右手に握られた。

 全長二メートルほどの、漆黒の大鎌。

 痛みがした。焼鏝やきごてを当てられたような痛みだ。

 黒希は、痛みに僅かに顔を歪め、そして、地面を蹴った。

 ほんの一瞬で、二十メートルはあった電流体との距離が、十数センチにまで縮まる。

 肩に担ぐように構えていた大鎌を、電流体の肩目掛け振り下ろした。

 轟音が部屋を揺らし、衝撃波は通路を粉砕した。

 瓦礫と共に落下する最中、黒希は電流体の姿を視認した。常に光を発しているのだから嫌でも目に入った。

 その体には、傷一つ付いていない。

「チッ……ん」

 重力に身を委ねていた黒希は、ふと、ある言葉を思い出した。

『下に水が溜まっているようですね。冷水、でしょうか』

 海留の、あの秀才の言葉だ。

「水……電気……ッ⁉︎」

 全身から嫌な汗が噴き出すのを感じながら、黒希は大鎌を使って電流体を側に引き寄せた。

 左手で、両足の靴に触れる。すると、白かった靴底が黒に染め上げられた。

 靴底を染め上げたものの正体は、影。手の中にある影を操って、靴底に纏わせたのだ。

 影はどんな物質よりも強固で、何人にも破壊は不可能。それを持ってすれば、電流の侵入など許すはずがない。

 その足で電流体の背中を踏み台にし、最寄りのパイプに向け思いっきり跳んだ。

 電流体が、物凄い勢いで落下する。水面に激突する音がする。大きな水柱が立つ。

 パイプに大鎌の刃を突き刺し、ぶら下がる。

 電流体の方を見る。この暗闇の中、奴の姿がはっきりと視認できるのは幸いだ。

 水面に浮上する電流体が、こちらに右手のひらを見せた。

 直後。

 手のひらから白い閃光が、水を焼き、一直線に放たれた。

 黒希はパイプを蹴って、崩壊せずに残っていた通路の端に跳び移った。

 さらに、立て続けに電撃が放たれる。さっきよりも威力は弱く、しかし大きくの電撃が飛んでくる。

 黒希は左手を微かに動かし、自身の足元にあった影を操って防御壁を作った。

 壁の側面に、光の如き速さで電流体が回り込んできた。

 突き出してきた右手を、黒希は振り向きざまに斜め下から振り上げた大鎌で、受け止める。

 バチッと、電流体の右手が火花を散らす。それが徐々に強くなる。

 黒希は嫌な予感がして後ろへ跳び下がろうとしたが、電流体に大鎌を掴まれたことで、身動きを封じられてしまった。

 しかし、黒希の表情に焦りはない。

 彼の右手から大鎌が消えた。

 影で包んだ右足で電流体の腹を突き刺すように蹴り、怯ませ、距離を置くため後ろへ跳ぶ。

「どうすっかな……」

 最初の一撃で、物理攻撃は無意味と感じた。相手は空気も同然。斬っても斬っても、こちらは体力を消耗するだけ。

「……」

 斬っても無駄なら、閉じ込めるしかないか。

 影を使い、閉じ込める。一時的な対処にしかならないが、科学に関してなら海留の方が詳しい。電気の分解方法なども知っているはずだ。

 そうと決まれば、黒希は動いた。

 地面に影を這わせつつ、近接戦で注意を引く。まぁ、相手に警戒心があるかどうかは知らないが。

 電流体も動いた。

 その動きは、さっきの倍近く速くなっていた。

 だが、黒希は反応する。

 電流体の動きを半眼で追い、突き出された右手を大鎌で防ぐ。

 重い一撃だったが、何とか両手を使わずに受け止められた。

 目と鼻の先で、右手が火花を散らした。

 何かが起きる前に、影で電流体を囲った。

 中で光が瞬く。もう少し遅ければ、危なかった。

 黒希には、顔のない電流体が悔しがっているように見えた。それはきっと、彼の性根が腐っているからだろう。

 一息吐いて、地上に戻ろうと振り返ると、黒い特殊部隊の装備で全身を覆った四人組がいた。

 所属部署のロゴは、ない。

 その全員が、ほぼ同時にライフルを構えた。銃口の先にいるのは、もちろん黒希。

 影で防げば話は早い。だが、一度に操れる影には限りがある。

 人間らしき特殊部隊と人間じゃない電流体。

 どちらの対処が簡単か。

「はぁ……」

 黒希は疲れたようにため息を吐き、短く息を吸って止めた。眠たげな半眼を、鋭く光らせる。

 大鎌の切っ先を下に向けるように構える。

 引き金が引かれ、弾丸が放たれる。

 弾の速度は言うまでもなく、速い。普通の人間なら、拳銃から放たれた一発を目で追って避けるのが限界だろう。

 しかし、幸いなことに、黒希はその『普通』の範疇にいない。

 眉間に迫る一発の弾丸を、大鎌を振り上げ、誰もいない方向へ弾いた。

 そこから、黒希は到底人間とは思えない速度の挙動を見せた。

 避けられる弾は躱し、避けきれなければ大鎌で弾くだけの、簡単な作業。

 弾丸の雨が止む。

 黒希は大きく上に跳び、部隊の中心に着地すると同時に大鎌を振り下ろした。

 地面を砕く。

視界の端で、倒れる特殊部隊員の姿が見えた。

それを見た黒希は、

「……どうなってんだ」


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