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電流体に向け、海留は発砲した。
「下がれ海留‼︎」
黒希は叫び、電流体を撃ち続けながら、出入り口のドアの方へ向かった。
海留に続き部屋を出ると、
「何なんですかアレ。銀の弾が通用しないなんて」
「悪魔の類じゃないってことだ」
栄一の元に駆け戻ると、
「さっきの音は何だ?」
「変なのが出てきやがった」
と、黒希が答えると、栄一は拳銃を構えた。
部屋から電流体が出てくる。歩みは遅い。
「言っとくけど、銀は通用しない」
「じゃあどうする?」
そこで叶が、
「私が……」
名乗り出ようとしたが、黒希は遮った。
「いや、ああいうのは俺の領分だ。お前らは上に戻ってろ」
「でも……」
叶は何か言いかけたが、すぐに口を噤み頷いた。
「さっさと行け」
言って、黒希は電流体の方を振り返った。
「行きましょう」
海留を最後尾に、一同は黒希をその場に残して走り出した。
元来た道を戻る。一直線なので迷いようがない。
ないはずだ。
「……ん?」
栄一が足を止めた。
それにつられて、叶、海留も足を止める。
「急に止まるなよ栄一」
叶が言うが、栄一は前の一点見つめたままピクリとも動かなかった。
「叶さん、気付いてないんですか?」
それに、叶は海留の方を振り返った。
「何に」
海留は小さく息を吐き、そして、
「階段が消えています」
叶はキョトンとして、前を振り返った。
「階段から下りて七十三歩で、あの広い空間に出ました。ですが、もう七十五歩も歩いてます」
「いちいち数えてんの?」
「頭の中に歩数計があるんで」
冗談めかしに答えると、海留はどうすべきかの話に変えた。
「戻るわけにもいきませんし、進むしかないでしょうね。他に出口は?」
栄一はタブレットで施設の見取り図を見て、
「……ないな。他に出口を……?」
栄一が顔を上げた時、周りに人はいなかった。
海留と叶の姿が、音も無く消えてしまっていた。