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色とりどりの黙示録  作者: owen
序章
11/97

8

 真夜中の州間高速道路七十五号線を、七人は乗れそうな乗用車で西へ向けて走る。

 運転するのは、三十代後半の男。背は百八十五センチくらい。服装は黒のティーシャツに紺のジャケットにジーンズ、髪は黒というより茶色に近い。かなり鍛えていると思われる屈強そうな体。右頬には深い切り傷があり、なんか戦士っぽい。ゴツゴツした手でハンドルを握っている。

 男の名は、白銀しろがね栄一えいいちという。

「娘は元気にしているか?」

 栄一が、横の、助手席の黒希に訊いた。

 黒希は後部座席の三人が眠っているのを確認してから、

「いつまで経っても親が帰ってこないから、寂しがってるぞ」

 鬱陶しそうな調子で言った。

 華凪のことは、他のメンバーには一言も言っていない。言おうとしない。

「華凪なら、お前がいるから大丈夫だろう」

「大丈夫、ねぇ……」

 意味ありげな声音に、栄一は黒希の方を見た。道路は直線で一本しかないので、多少の余所見は大丈夫だ。いや、大丈夫のはずだ。

「何か気掛かりでもあるのか?」

「……いい加減、家を出ようかと思ってな」

 黒希は窓に頭を預け、言った。何気なく外に目を向ける。緑のない広野が、道路の左右に広がっていた。

「本気か?」

 と訊いてくる栄一を、黒希は睨んだ。

「寧ろ、家に残れって言うお前の方がイカれてると俺は思うが」

「……」

 栄一は口を噤んだ。

 黒希は続ける。

「悪魔や怪物、殺人鬼なんかを相手にする最悪の仕事をやってるんだ。それに一般人が巻き込まれればどうなるか、知らないほどバカじゃないだろ」

「華凪が巻き込まれるのを懸念しているのか」

「お前はしてないのか?」

「まさか。大事な一人娘だ」

「なら、俺を追い出すべきだ。アイツを守れとお前は俺に言ったが、もう、守る必要もないだろ。そもそも、今まで何から守っていたのか、俺が自覚してないんだ」

「……家を出て、お前は何処に行くんだ」

「海留の所にでも行くよ。あそこなら、お前の家までそう遠くない。廃工場の地下にあるって点は気に食わないが、路上で寝るよりはマシだ」

 栄一は少し黙れ、何かを思い出したような表情を浮かべると、

「この時期を選んだのには、何か特別な理由でもあるのか?」

「時期って、何がだ」

「お前と初めて会ったのは、確かこの頃だった」

「……そうだっけか」

「それで、関係はあるのか?」

「ないと言えば嘘になるが、言う気はない。お前には関係ないしな」

「……そうか」

 車が右折した。広野に曲がる。曲がった先には道路がなく、車体が揺れた。

 後部座席の方から誰かの呻き声が聞こえた。

 揺れで目が覚めたらしい。

 黒希が後ろを見ると、海留と叶が眠たげに目を開けて欠伸をしていた。

「着いたんですか?」

 海留が訊いてくる。

 黒希は微笑を浮かべながら、

「まだだ。寝ててもいいぞ。素敵なモーニングコールで起こしてやる」

 それに、叶がビクッと体を震わせたが、誰も気付きはしない。

「……黙ってろ無能が」

 ボソッと海留は言った。

「ん。何か言ったか?」

「いいえ、何も」

 愛想笑いを顔に貼り付けて、海留は答えた。

 黒希は微笑を浮かべ、海留に向けて中指を立てると前に向き直った。

 すると、車が停まった。

「着いたぞ」

 言うと、栄一は車を降りた。

 黒希も車を降りて、辺りを見回した。が、何もない。地下施設と聞いていたが地下に通じる扉すらない。

「本当にここか?」

 栄一の方を見ると、彼は手元のタブレットを見下ろしていた。

「ああ。ここのはずだ」

「……何にもないぞ」

 車から海留と叶が降りてきて、同じく周囲に何もないのを確認すると訝しげな表情になった。

「今、連絡してみる。準備をしておけ」

 栄一は歩き出し、車から少し離れた所で何処へ電話をかけ始めた。

 黒希は車の後ろに回り込み、トランクを開けた。中には、プラスチック製の箱が五つ置かれていた。

 それらを開ける。

 中には、黒いスポンジのようなものにはめ込まれた様々な銃やナイフ、弾倉が詰め込まれていた。

 その中から、黒希は、拳銃のベレッタM92と刃渡り二十センチほどの銀製のナイフを一本を取り出した。

 慣れた手つきで拳銃の弾倉を抜き取り、残弾数を確認する。弾倉には銀の弾が込められていた。

 ナイフを腰の後ろに挟み、支度を終える。

 横から海留と叶が来る。

 二人は、黒希と同じように支度を始めた。

 海留は、拳銃のM1911と銀のナイフを。

 叶は、拳銃のスタームルガーP345と銀のナイフを二本と、伸縮できる警棒を取り出した。

「黒希、弾は鉄と銀のどっちがいい?」

 叶が訊いてくる。

「銀にしとけ」

 と言いながら、黒希は銀の弾が込められた弾倉を三つほど取り、ズボンのポケットに入れた。

「海留」

「何でしょうリーダー」

「もし敵が出たとして、相手がバケモンなら殺しても構わないが、人間なら殺すなよ。咲が嫌がるからな」

 それに、海留は小さく息を吐き、

「……了解です。ですが、こちらの命が危険になったら殺します」

「それでいい」

 黒希は海留にだけ念を押すように言った。

 言い終えた直後くらいのこと。

 地面が揺れた。地震で言えば、震度一程度の弱い揺れだ。

「……地震?」

 叶が呟く。

「入り口が開いた音だ」

 電話を終え、こちらに歩み寄ってきた栄一が答えた。

「扉って?」と、三人が言いかけると、栄一はある方向を指差した。

 車の後ろから移動し、そちらを見ると、地面に四角い穴が空いていた。明らかな人工物の階段が穴の向こうにあった。

「洒落てんな、SF映画かよ」

 穴を覗き込んだ黒希が言う。

 その後ろで海留は、

「栄一さん。ここに施設があるなんて聞いたことがありませんが、安全なんですか?」

「上からの依頼だ。電話でな。声もそっくりだったし成りすましっていう可能性はないと思うが」

「しかし……」

 尚も疑念を消せずにいる海留に、黒希が、

「何か出てきたら対処。これぞ最高の作戦だろ」

 呑気な調子で言った。

「作戦になってませんけど。それはそれとして、咲さんはどうするんですか?」

「倫理を考えれば……叶。お前が運べ」

「うん」

 叶は素直に頷き、車の方に歩いて行った。彼女が咲を背負って戻ると、

「さてと。さっさと終わらせるか」

 面倒臭そうな調子で、黒希は言った。

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