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「さっさとしろー!! この女を殺すぞ!!」
マンションの五階。窓から刃物を持った男が女性を掴んで脅している。マンションを警察が包囲して犯人に必死の説得を試みているようだが意味を成していない状況だった。
「ささっと乗り込んじまえばいいのによ」
「でも迂闊に動いて、犯人を刺激するのはよくないよ。相手は人間……絶対に隙が生まれる」
あたしと二戸は、柱の陰からマンションの様子を伺っていた。正直言って、犯人そのものは脅威じゃない。マンションも普通の五階建てだから面白味もなさそうだし。
「無駄な抵抗はよせ。黙って投降するんだ」
刑事の一人が拡声器で犯人に呼び掛けている。
あれほどの時間の無駄をあたしは知らないけどね。
「比良、どう……」
二戸が話し掛けてきたが無視無視。いつまでも膠着状態が続くのはいただけないからね。
「誰だ!?」
驚く刑事を余所に、あたしは高くジャンプした。
エレベーターなんかより、あっという間に到着できるんでね。
「あぁ!?」
男が刃物をちらつかせている。あたしは、別に刃物に恐怖心はない。怖いのは、あたし自身が加減を知らないことだ。
「野郎に用はねえ。そこの女性を助けにきたのさ」
「お、お前! に、人間なのか!?」
「失礼だな! それが女子高生に対して言う言葉かよ」
なんとなくムカついた。あたしは、咄嗟に紐ネクタイを手に取り構えた。
「紐で何ができる?」
「……教えてやる。ふふっ」
あたしは野郎の頭上を乗り越えて背後をとる。野郎は咄嗟に振り向くが、それよりも早く、あたしの紐が野郎の首を締め上げた。
「うぐぅぅぅ!?」
クーッ! 毎度毎度、気持ちいいくらいに食い込みやがるー! この感触は病み付きになるねぇ。
「あ、あのー。し、死んでしまいます!?」
「え? アンタを殺そうとした奴だ。別に、殺しちまっても構わないでしょ」
「駄目です! 殺しは!?」
被害者の女性も困惑させてしまう程、あたしの首絞めは見苦しいらしい。せっかく良かったのに。残念だけどいいや。面倒は御免だ。
「はあはあ……うがぁ……」
「命拾いしたね。殺そうとした相手に助けられるなんて。まあ、運の尽きだけど」
あたしは飛び降りると、刑事に突入を促してマンションを離れる。蓋を開けてみれば、全く大したことのない騒動だった。無駄に動いただけ損だったってわけだ。
「また目立っちゃってたよ。どうすんの?」
「ほっとけっての。あたしは普通の行動を取ったまでだ」
「そうだった。比良にとっては普通だったよね。普通、普通。さあ、学校に戻ろう!」
あたしにとっては普通、だ。そんなことを思っていたら、どさくさ紛れに二戸が手を絡めてきたので振り払ってやった。油断も隙もありゃしねえ。
……あーあ……腹へった。




