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あたしと緋を乗せたタクシーが、城山家へと着いた。書いて字のごとくと言うべきか、その家の風貌は正に〝城〟のようだ。
「気を付けろ……妙だぜ」
城山家の敷地に足を踏み込んだ瞬間、緋が声にした。山勘にしては、分かった風だ。やはり只者ではないみたいだねぇ。
「行くっての!」
玄関の扉を力強く引く。しかし、勢い余って吹き飛ばされてしまった。あ、開いていたってかい!?
「どうやら先客が居るようだぜ」
緋は、グイグイと中へと進んでいく。あたしも後を付いていく。行き着いた先は大広間。金持ちのお約束なのか? ……いや、こんな血の匂いが鼻を刺激する大広間は、サスペンスのお約束か。
「やはり来たか」
奥から現れた白装束の人間。それが何人も現れた。正直言って気味悪い。
「お前達が〈自由軍〉か!」
「如何にも。今、作戦を遂行したところだ。もうここに用はない」
「待ちやがれ!」
緋が、白装束の一人を掴まえる。が、意図も簡単に突き放されてしまった。〈自由軍〉の面々が外へと出てしまう。
「待ちなっての」
「何だ。今、キミ達に用はない」
「こっちは大有りだっての! お前達が誘拐した女の子は無事なのか!?」
「ああ。彼女は只のエサだ。端から危害を加えるつもりなどない。生きている」
「お前達の狙いは何だっての! 貴族を殺すのが目的なら、灯可里を生かしておく必要はない筈だ!」
「狙い? そんなの簡単だ。貴族に対する復讐だよ。殺すだけが復讐にはならない。それだけだ」
「……何だって」
復讐? 〈自由軍〉の目的が復讐だって? なんだって団体で復讐なんて……理解なんてしたきゃないが……。
「何でもかんでも金で解決出来ると思い上がっている貴族に思い知らせてやるのさ。世の中、金じゃあどうすることも出来ないこともあるってな!」
「……何を言ってる……ての」
「〈自由軍〉は、金銭では動かない。惑わされない。幾ら積まれようが、だ」
「そこまでの恨みを?」
「オレの実家は、先祖代々続く和菓子屋だった。地元では評判のいい店だった。なのに……なのにだ! 由緒ある貴族だか何だか知らないが、いきなり街に現れて、店を畳めと言ってきた。店を潰して自分等の店を出店すると言ってきた! ……実家は大反対したが、貴族共の強引な取引に負けてしまった。心労が重なって、あんなに元気だった祖父と祖母が死んでしまった。オレの両親も意気消沈だ。これまでの歴史を絶たれたんだ! どうしても許せなかった!」
「……そんなお前に同情した奴等が集まったのが〈自由軍〉なのか……」
「そうだ。この理不尽な世の中を変えるために……人間の真の自由のために、オレは立ち上がったんだ!」
これが正義なのか? その為なら、どんな犠牲も問わないと言うのかい。復讐の為なら、どんな正義でも許されるってのかい!
「貴族でも、そんな酷い奴等ばっかじゃねえっての! 皆が皆、同じじゃない」
「……やっぱり、貴族の血を引いている人間は言うことが違うや。おめでたいよ、比良」
「何で……あたしの名前を!」
「できればバラしたくなかったんだけど、比良に訊かれちゃあ仕方ない」
顔を覆っていた布を剥いだ男。いつもなら笑顔を絶やさないであろう顔。まるで別人の顔があたしの目の前で露になった。
「……二戸……だと!?」
「残念だよ、比良」
二戸の顔から笑顔が消えていた。




