9-3
「所轄は通常勤務だ。手出し無用!」
普段は何でもない会議室らしいのだが、今回は事情が違うらしい。あたしとキイラの目の前を何人もの人間が行き交っている。
「本店としても正念場でしょうね。〈自由軍〉の確保が今後の警察の信用にも関わるのだもの」
「所轄だ本店だなんて言ってないで、たったと捕まえろってんだ。人間捕まえんのに人間同士で争ってどうすんだっての」
「難しいのよ。本庁のプライドが許さないもの。地方の平和と安全を任されている所轄と、都市部を任されていて場合によっては国の危機とも対峙しなければならない本庁では格が違うもの」
「警察に大きいも小さいもないだろう。市民を護るのにいちいち『護っていいですか?』なんて訊くか?」
「適材適所だわ。所轄は大人しく街を護ってろってことよ。そこは割り切らないと……綺麗事で片付かないのが社会よ」
キイラの目付きが変わる。それは社会人のソレだ。
「ワタシは、ホワイトハッカーとして協力するの。貴女のことは伝えてあるから。……と言っても指示には従うこと」
「へーい」
あたしは軽く返事をしつつテーブルへと近付く。
会議室の構造は、大学の教室みたいな感じの、席が段々と黒板がある下に続いているようなもんだ……多分ねえ。大学の事なんか知らねえからね。
「この書類は捜査関係者以外は閲覧禁止だ。部外者は出ていけ」
「あん? あたしは関係者だっての。聞いてないのかよ」
スーツをビシッと着て決めているのに勿体ない。
話が分かる奴なら楽なんだがな。
「そうだったのか。まあ、邪魔だけはしないように」
あくまで厄介者扱いか。サツのお偉いさんは、人を見る目があるようだねえ。そうさ、あたしは厄介者になるだろうよ。
「比良。言ったそばからこれだもの。少しは行動を慎みなさいな」
「……充分慎んでるけど?」
イタズラっぽく笑みを浮かべながら資料に目を通す。見馴れない活字のオンパレードに欠伸が出そうになったのを堪えた。今すぐ折って飛ばしてやろうか。
「比良。約束だった人に会わせてあげるわ。貴女と似たような行動をしてワタシに注意された彼に」
「ようやくご対面ってかい?」
「さ、行きましょう」
そう言われて、あたしはキイラの後を付いていく。
着いた先は休憩所。刑事ドラマでよく見る感じ。自販機の側のベンチに座っている男性がいた。
「待った?」
「いんや。寝てた。こんな紙切れ読んでられっか」
「だらしない。それでも大学生なわけ?」
「関係ないない。眠くなるもんはなるんだ」
キイラの言葉をさらりと受け流しながら伸びをしている赤髪の男性。んー、あたしと似ているか?
「ほら、自己紹介。社会のルール」
「……あ、おう。漢、紅蓮 緋だ」
緋と名乗った男性は握手を求めてきた。何だか分からんが、面白くなってきたかねえ。あたしはすぐさま応じた。




