1-4
「比良、探しちゃったよ。どこほっつき歩いてたの?」
教室に戻るなり、何故あたしは二戸と顔を会わせなきゃならん。
「お前に関係ないだろが!」
「え、あるよ? 幼なじみでしょ?」
相変わらずのヘラヘラ顔。何考えてるのか読めない表情で、あたしに話し掛けてきやがって。
「幼なじみなんて形だけみたいなもんだろが。お互いたまたまご近所さん。それだけ」
「そういうのを運命って言うんじゃ……」
最後まで言葉を聞くこともなく、あたしは返答代わりに鉄拳を見舞ってやった。二戸の反応は分かりきっているので、スルーして席に着く。
「比良ちゃん。二戸から何か言われたの?」
「いつも通りの会話だよ。来蘭ちゃんが気にすることはない」
「それは無理だよ。あんな邪魔者に比良ちゃんが取られちゃうんだと思うと、いてもたってもいられないもん」
二戸を邪魔者と言ってのける来蘭ちゃんの表情は青ざめていた。来蘭ちゃんは、あたしと二戸が幼なじみだと知って以降、男性に対しての警戒心を高めている。二戸が来蘭ちゃんを変えてしまった原因の一つなのは間違いない。
「あたしが? 有り得ないね。有りっこないね、うん。そんな事が起きた時はこの世の終わりだ」
「この世の……終わり!? ふえええ!!」
来蘭ちゃんの表情が強ばっていく。これはますます二戸に対しての警戒心が強くなっていくな。
「……てか、早く先公の奴来ねえのか。たったと帰らせろっての」
あたしは退屈になり、背凭れに寄り掛かる。教室の天井程、退屈な天井などないんじゃないかというくらいに教室はつまらない。あーあ、何か騒動でも起きないもんかねえ。
「皆。遅くなってすまない。実は、この近くのマンションで立て籠りがあったみたいなんだ。安全策として、しばらく学校での待機になった。くれぐれも外には出ないように」
先公が戻ってきたと思ったらこれだ。退屈を増加させる騒動なんか起きなくていいってんだ。
「恐いね。でも犯人が女の子だったら応援しちゃおっか」
いやいや。犯人に性別も年齢も関係ないって! 応援なんかしちゃ駄目だよ!? 来蘭ちゃんに悪意はなくても絶対駄目だよ!
「どっちにせよ、さっさと解決してくれ」
あたしは眼鏡をクイっとあげる。せめて意識くらい保とうと思っての行動だ。
「なあ。シャバに出ない? 比良なら得意でしょ、抜け駆け」
「なんでお前に指図されなきゃなんねえ」
「堅いこと言わない。このまま閉じ込められるのは、我慢ならないでしょ」
ちっ! 悔しいが図星だ。あたしにとって我慢が一番耐えられない。苦痛以外の何物でもない。
「わたしも邪魔者と同じ意見。邪魔者と同じ意見だという事実が受け入れ難いけど。わたしも比良ちゃんがこのまま燻っているのは良くないと思う」
やんわり隣の二戸を否定しての助言。
しかも、一切、二戸を見ようとせず。これだけで充分男にとって大ダメージの筈なんだが、二戸は違う。寧ろ悦びの舞いを見せるくらいだ。
「いーね! 来蘭の暴言の嵐。比良とは違った舞いができるだろう」
「き、キモい。男性が近くに居るだけで気分が害す!」
「もっと言ってもいいんだよ? 来蘭の言葉は最高の刺激になるんだ!」
「イヤーー!!」
来蘭ちゃん。遂にぶっ叩いたよ。叩いちまったよ。
あーあ。二戸、廊下にぶっ飛びやがった。
「だ、男性に触れちゃったー!? わたしはオシマイだ!」
「大丈夫だって来蘭ちゃん。しっかり洗えば!」
「ふ、フォローになってないよ……比良」
痛々しいが、どこか嬉しそうな顔で二戸が寄ってくる。そして、あたしに耳打ちをしてきた。『比良は、保健委員だろう?』……って。身の毛がよだったが好都合だ。
「おい、二戸! 保健室に連れてってやる。付いてこい」
「比良から誘ってくれるなんて。夢みたいだよ」
二戸が調子を合わせて付いてくる。促したのは二戸だけど。
「来蘭に叩かれ、外に出れて……おまけに比良とデートだなんて幸せだよ」
「あたしに叩かれたくなきゃ黙れ。というか目的の現場まで走るっての!」
「比良と追い掛けっこか~。今日はツイてる!」
あたしの後ろを二戸が追ってくる形となる。
ハッキリ言って、ストーカーより太刀悪い。殴ろうが蹴ろうが二戸にとっちゃ褒美になっちまうからね。諸刃の剣ってやつだ。
「早くしろ! 置いてくぞ!」
「あはは! 待ってよ~比良!」
あたしは、構わず速度をあげていった。




