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8-6

「……う!?……」


「比良姉!?」


 何だ? 身体が重い。意識が遠退いていく……。

 懐流に身体を支えられながら、あたしは気を失った。

 次に目が覚めると、あたしはベッドに横たわっていた。寝るときにはいつも枕元に置いてあるメガネは無かった。そう、壊されたのは現実だ。


「……だらしないねぇ……」


 左腕で目を覆う。これまで当たり前にあった物を失うことが、こんなにもキツイものだとは思わなかったっての。あたしは少し贅沢な思いをしてきたのかもしれない。メガネ一つ壊されたくらいで、この体たらくだ。


「会わす顔……ないっての」


 普段は、顔を会わすたびに他愛もない口喧嘩をしたり、つまらんじゃれあいをしてるけど、流石に貰ったものを壊されているのに、普段通りになんかできないっての。


「……比良姉?」


「懐流!? ……ノックした?」


「何度もしたが返事がなかったから入ってしまったのじゃ。ごめんなさい」


 あたしの洗濯物を運んできてくれたようだ。

 そうだ。懐流が黙って入ってくる筈がない。


「誰も怒ったりしないよ。服、ありがとさん」


「いいんじゃよ。僕にできることなんてこれくらいじゃから」


「できることを当たり前にできることは凄いことなんだ。過小評価なんか駄目だっての」


「比良姉……」


 懐流が、あたしの横にちょこんと座る。


「どうした? 綺姫ジュリエの事ならもういい。お前が責任を感じる必要はない」


「……違うんじゃ。姉上の事を何とも思ってないと言ったら嘘になる……けど違うんじゃ。僕が心配なのは比良姉じゃよ!」


「懐流」


「姉上を攻撃しようとしていたときの比良姉、尋常じゃなかったんじゃ。こう言ってはなんじゃが、とても人間業とは思えなかった」


「……あたしが怖くなったかい?」


「違うんじゃ! 心配なんじゃよ。またもしかしたら比良姉が暴走するんじゃないかって。比良姉の意思とは関係無く、誰かを傷付けてしまうんじゃないかと」


 あたしを見るその目は、心の底から想ってくれているのが一目で分かる程に潤んでいた。


「そっか。懐流はあたしを心配してくれてるんだな。嬉しいっての……弟から心配される姉でいられて」


 懐流の頭をガシガシと強く撫でる。傍でこうして想ってくれる人が居ることを感じていたかった。まあ、撫でられてる懐流は、少し迷惑ぽかったけど。


「んじゃ、腹が減ったことだし、リビングに行きますかねえ。懐流、今日の夕飯何?」


「カレーじゃってよ。僕、生まれてこの方、カレーを食べたことがないから楽しみじゃよ!」


 カレーを食べたことがない小学生と聞けば普通なら驚くだろう。が、懐流の事情を知っていればそうでもない。いいだろう……庶民の味を食らわせてやるっての。


「そういえば! 比良姉、これ。灯可里さんから」


 懐流から封筒を渡された。灯可里が書いたものだとは封筒の筆跡を見て分かった。きっと、あたしが気を失ったからわざわざ書いて寄越したのだろう。


「あとは何かあったか?」


「一応、姉上から伝言を預かっているんじゃ……。『いつか必ず負かしてみせる! 首を洗って待ってることよ! ホホホホホ!』 ……じゃと。秘宝の石も諦めてはないみたいじゃった」


「上等だ。来るものは拒まない。売られた喧嘩は買うってのが、あたしの信念だからねえ」


 よーし! 気合いを入れる為にも、鱈腹たらふく、カレーを食ってやるっての!

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