8-5
「比良。比良って!」
いつもいつもしつこく追い掛けてくる幼なじみ。
周囲の視線などお構いなしだ。
「うっせーな。一体何のようだっての?」
「えへへ。比良さあ、今日誕生日だろ?」
「だったらなんだって。あたしの誕生日だろうが何だろうが関係ないだろう?」
「そんなつまんないこと言わないでって~。幼なじみとして、比良を祝ってあげたいんだ!」
「別に、お前に祝られる覚えはないっての。家に帰れば、親が祝ってくれるから」
二戸に背を向けて歩き出す。赤いランドセルが、いつもに増して重い。教科書の厚みが増してる気がする。
「もう! 遠慮せずに受け取ってよ」
二戸は、あたしの前に先回りすると、あたしを壁際まで追い込んでいく。流石に動揺したあたしに構うことなく、二戸の手があたしの視界を遮った。
「はい! これで完璧だ!」
「お前、二戸! いきなり何のつもりだ!? 危ねえじゃんかっての!」
「あはは! ごめんよ。でもこうでもしないと受け取ってくれないでしょ?」
「はあ?」
二戸の言葉と耳や鼻に違和感を覚えたあたしは、顔に手をもっていく。するとなんだ、身に覚えのない物を身に付けているじゃないか。
「め、メガネ!?」
「比良は眼鏡なんか無くても十分可愛いけど、お洒落としてどうかなって思ったんだよ。度は入ってないから安心していいよ」
洒落じゃないが、二戸はニコッと笑みを見せた。
こいつなりのサプライズなのだろう。してやったりという笑みだ。自慢じゃないが、十歳にもなって、初めて男の子からプレゼントをされた。正直言って嬉しかったりする。けど、こいつにそれを悟られるのは何か嫌だっての。
「……しゃーねえ……受け取ってやるっての。感謝しな。あたしは物持ちがいいんだ。このメガネも簡単には壊れたりしねえから安心しな!」
あたしは、クイっとメガネをあげて見せた。
※ ※ ※
「殺ス!!」
もう怒りに身を任せていた。相手がどうなろうと知ったこったないと思っていた。
「比良姉!!」
「!!!?」
突如、綺姫の前に、懐流が現れた。
あたしの正面に立ち、両手を広げている。だが、感情的になっている以上、簡単には止まれなかった。
「比良さん!!」
灯可里の声と共にあたしの身体は動きを止めた。
懐流は、微動だにせず立っている。あたしのことを信じてくれていた証だった。
「……何なの……まったく。感情に身を任せるだなんて、貴族の風上にも置けないわ。話になりませんわよ」
綺姫は得意気に扇子を扇ぎ始める。しかし、そんな涼しい顔も長くはなかった。パチンっと音を鳴らして綺姫の頬が赤くなった。
「姉上の馬鹿! それでも遠流路の人間か! 人の大事な物を踏み壊した挙げ句、笑うなど……最低じゃい!」
あたしよりも小さい背中が、その時はとても大きく頼もしく見えた。




