8-4
「フィナーレ・ムーン!」
木刀をブーメランのように飛ばしてみる。三日月と木刀ってなんか似てね? あたしなりのお遊びなんだけどどうかねえ。
「正しき光を持って邪悪なる魂を封じることを許可す」
「しまった! か、身体が!?」
黒スーツの野郎共が、一斉に動きを止めやがった。
灯可里が何か唱えたらあーなったってこっちゃあ、灯可里も特異家系か?
「比良さん、今のうちに!」
「おうよ」
返ってきた木刀を受け取ると、野郎共を次から次に気絶させていく。人様の家の前で倒れられても困るが、いつまでも立ってられても嫌なんでねぇ。
「天道灯可里! やはり邪魔だわね、貴女」
「綺姫。貴女のやり方は強引です。すぐに力に頼ってしまう。相手も人間なのです……何故、話をしようとしないのですか」
「……話をして済めば、それに越したことはありませんわ。現実、そう簡単にはいきませんでしょ?」
「貴女にとって話し合いなど無駄だからです。そういう認識を捨てていない貴女が、まともに他人の話を聞くことなどありません。先ず、貴女が歩み寄らなければなりません」
「私が? ……ちゃんちゃら可笑しいですわよ。この遠流路 綺姫が自ら歩み寄るですって? 冗談も大概にしなさいな。この私と話をしたければ、それを望む者が、この私に頭を垂れるべきではなくて?」
「……綺姫……あの時のように自由を奪わせてもらいます」
灯可里が右手を胸元に構えて呪文を唱える。これで、綺姫って懐流の姉貴も大人しくなるだろうよ。
「ふふっ……。いつまでもそうやって乗り切れるとしたら大間違いですわよ!」
綺姫っての、普通に動いてるじゃねえか!? 灯可里の呪文が効いてないっての!?
「そんな! 私の……天道家の金縛りが通じないなんて」
「舐めないでくださる? 三下貴族!」
「うっ!?」
綺姫が、持っていた扇子を畳み、おもいっきり灯可里の鳩尾に打ち込んだ。灯可里は堪らず俯せになる。
「灯可里!」
「さあ、渡してくださる? ……秘宝の石を」
綺姫は、我が物顔で手を差し出してきた。そこに遠慮とか建前とか作法なんかない。
『私に渡さなければ容赦しない』って感じだ。何て言うか、あたしとは違う意味で貴族らしくない。否、貴族ってのはこういう奴のほうが多いのか?
「やなこった。灯可里を痛め付けた奴に渡すもんなんかねえっての。それにこいつは灯可里から譲られたもんだ。端から渡す気なんかねえっての!」
「頭に来るわね……平衡比良。三下……いえ、四下貴族の平衡の小娘が生意気に! 貴女なんか庶民と変わらないのよ! だから、こんな塵同然の眼鏡を掛けている!」
あたしの顔面を扇子が掠めていく。あたしの眼を覆っていたメガネが、力なく地面に落下していく。
「私を怒らすと……こうなるのよ!」
綺姫の右足が、あたしのメガネを容赦なく踏み潰していく。バキッと、悲鳴のようにメガネは音を立てて砕けてしまった。その光景を見たあたしの自制心の鎖も砕けてしまったけれど……ねぇ。
「クソアマ!!」
木刀が地面に突き刺さり、砕けたメガネの残骸が宙に浮く。目の前に立っている綺姫が苦悶の表情を浮かべていたが、知ったこっちゃないっての。
「殺ス!!」
地面から木刀を引き抜くと、あたしは構わず綺姫へ振り下ろした。




