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その瞬間、あたしの脳裏に〝死〟が過った。
流石のあたしも身体を八つ裂きにされたら、ひとたまりもないからだ。しかし、野性の勘なのか、あたしは後方の廊下の窓から飛び降りていた。
「……間一髪……か」
無意識の行動うえ、〝飛び降りていた〟なんて他人事のように思えるが、その行動がなければ確実に死んでいただろうね。
「逃がすと?」
二階の窓から身を乗り出している黒い服の女。外に出てハッキリした。貴族の会合の帰りに会った女だ。
確かに向こうはあたしを知ってる風だったが、当のあたしに心当たりがない。チェーンソーで追い掛け回してくる位だから、よっぽどの事をしたのかねぇ?
「なんであたしを知ってるんだ? あたしはお前を知らないんだけど」
「知らないだ? ……そうだろうよ! アッシの殺意の矛先はお前ではないのだからな」
チェーンソーを唸らせながら地上へと飛び降りてきた女。黒い格好をしてると、さながら死神に見えてくる。鎌のほうが可愛いげがあるっての。
「あたしを殺したい原因は何だ? 理由もなしに殺されるのは御免だよ」
「……理由……? ふふふ……理由、だと? 平衡のせいで、一族が滅びたんだぞ! アッシの貴族の誇りもだぞ!」
「……一族……貴族……誇り……そうか。灯可里が言っていた滅びた貴族ってのがお前の」
「平衡が滅ぼしたんだ! 許せないぞ! アッシの誇りを奪いやがって」
「何が何だっての? あたしには心当たりないって」
「……お前の父親が予定通りに縁談を進めていればいいものを! 一方的に破談にしたあげく、何の取り柄もない庶民の女と添い遂げやがった! ふざけやがってー!」
「お父が? へえ……そうなんだ」
「何が可笑しい!?」
「結局のところ、お父はお母を選んだわけだ。そっちの家の事情はどうあれ、そのお陰であたしは生まれてきたんだ。感謝しなきゃねぇ」
「ふざけるな! そのせいでアッシの家系は終わった。母は父と結婚したが、アッシを生んだあとに父と別れた。その後、出会いはなく、親戚は歳で他界。
アッシが最後の望みになっているが、望みは薄い。
だから! アッシは平衡を許せない!」
ほーん。お父がそっちのと予定通りくっついてれば、母親は別れることなく、繁栄も問題なかったと言いたいわけね。ま、それだと自分が生まれなかったという考えには至ってないみたいだよ、こりゃ。
「悪いけど、それは結果論。運がなかった……それだけだ。……精々お前が頑張ることだねぇ。意地でも貴族っていう肩書きを持っていたいのならね!」
あたしは、サツの居る校門まで駆けていく。
チェーンソーの音が否応なしに迫っているけど。




