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普通、炎が燃え盛っていたら一刻も早くその場から離れるだろう。しかし、あたしはそんなのお構い無し。何故かと訊かれたらこう答えるね。
「そこに炎があるから」
二階に颯爽と上がり、目的の教室に迫る。近付いて実感したけど、やっぱ熱い。夏の「暑い」とは種類が違うね。おまけに焦げ臭い。椅子やら机やら真っ黒焦げてなんだろうねぇ。さーて、突っ込みますか。
近くにあった水道の蛇口を捻り、勢いよく水を全身に被る。服が水を吸って重くなる。身体は冷たいのに周りは熱くて気持ち悪りい。
「おりゃ!」
意を決して炎の中へ飛び込む。炎も凄いが煙も凄い。勿論吸い込んだらアウトだ。それでなくても、既に目が痛いから視界が狭い。なんとか煙を追い出そうと廊下の窓を開けるが、そう簡単に逃げてくれる気はなさそうだ。
(……ん? あそこだけ煙の流れが違う。どうやら放火犯はあそこに居るみたいだねぇ)
口と鼻を袖で覆いながら少しずつ進んでいく。
机と机の間をしゃがみながら進み、標的を窺う。
煙で視界が遮られてはいるが、生憎あたしは相手の気配を感じれる。特に殺気には敏感だ。
「そこに居るのか? 平衡比良」
げ!? 相手も気配に敏感かよ。しかも、あたしが平衡比良だと確信している。この炎と煙の中で。
ていうか、こんな炎と煙の中で普通に喋っていやがる。
「喋るのを拒むか。平衡の人間ならば、どんな状況下でも会話をこなせると思っていたが。少し期待を持ちすぎたか」
この声……どっかで聞いたような……。あたしが知っている奴なのか? 一体誰なんだ。
「そろそろハッキリと姿を見せろ。いつまでも読みあいなぞしたくはない。立て!」
(……爆竹だあ!?)
コロコロと床を転がる爆竹は点火されていた。本能的に素早く立ち上がる。あたしの動きの変化に相手が気付いたらしい。煙の流れが変わりやがった。
「待っていたぞ、平衡比良。この手で、平衡の人間を始末できる時がようやくきたんだ」
(平衡を始末!? やれやれ、平衡の人間は恨みを買われるのがお約束なのか? カッコよく言えば〝因果〟かね)
「我が一族の仇だ……死をもって償え!」
(ジョーダン、だろう!?)
機械音、モーター音が響き渡る。肌に触れられたら無事じゃ済まない。流石のあたしも未体験の凶器だよソレ。刀や鋸が可愛く見りゃあ。
「骨ごとバラバラにしてやる!」
あたしに対して、大きく振り落とされたソレは、あたしの側にあった机を真っ二つにした。
……そう。樹齢何百年の立派な大木だろうと伐ってしまう凶器、チェーンソーが振り落とされたのだ。




