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アキバと聞いて、大多数の人間が思い浮かべるのは、東京の秋葉原だろう。が、残念だが〈アキバと〉は一切無関係である。
「比良ちゃん、どうしたの?」
いかんいかん。ついボーッとしてしまった。
それだけ〈アキバ〉はつまらないのだ。
「早く行こ。何もない、つまらない、汚いの三拍子揃った〈アキバ〉に」
相変わらず悪意のない言葉を発しちゃってるよ。
来蘭ちゃんが言うとマニアが喜びそうな気がするけど。
「行くのは構わないけど、なんで〈空き場〉に?」
「だって今日の比良ちゃん、特にご機嫌ナナメなんだもん。だから、ストレスを発散させてあげたくてね」
ま、眩しすぎる! なんて友達思いの天使ちゃんなんだ! あたしにはもったいない親友だあ!
「適当に座っている男性を殴れば気分爽快でしょ?」
眩しい! 言ってることはダークなのに、そんな考えを根底から覆す笑顔。
「そうだよねぇ。よりによって〈アキバ〉でゴロゴロしてる野郎共を殴ってもバチ当たんねえよね」
あたしの脳が全開になる。頭では理解しているが、やはり、イライラを吹き飛ばしたい気持ちが勝っていたからだ。
「行こ行こおお!」
ルンルン気分で来蘭ちゃんが入っていく。来蘭ちゃんはべつに親友が暴行を起こしてもスルーする気満々なんだろう。あたしも、べつに自分がどうなろうが構わないと思ってるところがあるし。
「腕がなるー」
肩をグルグル回しながら〈アキバ〉入ると、何にもない空間が広がっている。公園にだって砂場やブランコくらいならあるのに、アキバは文字通り〈空き場〉だからつまらない。天然芝が生えているのが唯一の自慢か。誰を殴ろうかと辺りを窺うが誰も居ない。流石に殴られたい野郎共は居ないようだ。
「男の子、滅びたのかな? わたしには不要な存在だからどうでもいいけどね」
「来蘭ちゃんはキツいよね。男の何が嫌なんだっけ?」
「全部」
ストレートな返答キター! 流石は百合っ子! 容赦ない言葉の原液だー!
「まあ、居ないんじゃあ殴れない。あたしは諦めるよ」
「えー!」
来蘭ちゃんが本当に悔しがってるよ!?
そういえば訊いたことなかったけど、どうして男をそこまで毛嫌いしてるのか。共感できる部分もあるけど、あたしはそこまで嫌ってはいないし、存在も否定してない。
「ね? ハラ減らない? そろそろ甘味チャージしたい」
さっき食わされたチョコを忘れるには、甘いものを食べるのが最短ルートだと思う。いや、食べたい!
「いいよー。こんな使えない場所なんかに長居は無用だもんね!」
表情と言葉が合ってない。そして厄介なことに来蘭ちゃんには悪意はない。
「ヨッシャ! 待ってろ甘味」
〈アキバ〉に睨みを決めている来蘭ちゃんから目を逸らしつつ、あたしの足は進んでいく。
「比良ちゃん。わたしも女の子チャージしたいよ~」
やっぱり、天然天使は凄いと思う。




