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「うひぃぃぃ」
あたし、平衡比良。只今、目の前で親友の来蘭ちゃんが涎を垂らしている様子を眺めている。
言っておくが、あたしは、人の涎を垂らしている様子を眺める趣味はないし、自分で涎を垂らす趣味もない。
「来蘭ちゃん。帰ってこーい」
「比良姉……この人……」
あたしの隣に座る男の子。金髪の小学生、遠流路懐琉が来蘭ちゃんを見て困惑している。無理もない。七歳には刺激の強い光景だろう。
「心配ないって。来蘭ちゃんは天然で変わっているけど、悪い人間じゃあないよ」
「でも、女の人を見ながら涎を垂らしてるんじゃ」
「……大目に見てあげて」
ごめんよ来蘭ちゃん。七歳のガキを納得させられる言い訳が思い付かなかった。ふ、不覚。
「ねえ比良ちゃん。わたしを呼んだ理由って何? どうして男の子連れ?」
「ほら。メールでも知らせたけど……貴族の事。その話の流れで面倒見ることになった男の子だよ」
「わたしは別に比良ちゃんが貴族の血を引いていても接し方を変える気はないよ。けど、比良ちゃんが遠くに行ったら嫌だなあ」
「オーバーだっての。あたしは変わらないよ」
「比良ちゃんを取らないでよお? カイルン」
お? 小学生ならセーフなんだ。ふー。
言うなら早めがいいと思って意を決してたけど、これで安心安心。良かったねぇ懐琉。来蘭ちゃんに認められたよ。
「か、カイルン」
ま、あだ名は大目に見てあげて。
「比良姉……あれ」
「ん?」
懐琉が窓から指を差す。あたしと来蘭ちゃんも窓を覗く。言い忘れていたけど、今はあたしの部屋に居る。
だからなのか、窓から見える人間は笑顔で手を振っている。あたしはカーテンに手を伸ばすが、懐琉がそれを拒んだ。
「あの人、様子が変じゃい」
「うん?」
アイツが変わっているのは百も承知だけど。う~ん。そう言われれば違和感あるかもな。しゃーない。
「どしたよ? 二戸」
外で笑顔を振り撒く幼なじみ。あたしに惚れていると豪語する変態の男子高校生の二戸に声を掛ける。
あたしが話し掛けるや、無駄に騒ぎだすのが二戸のお決まりだ。
「比良……ヤバい……」
「比良ちゃん、お邪魔の様子変だよ」
さっきまでゲームのキャラクターの絵を見て、涎を垂らしていた人の台詞じゃないよね!? ま、確かにいつものアイツじゃねえ。
「二戸?」
「が、学校が……ヤバい!」
いつになく真剣な表情に変わった二戸を見て、あたし達は外に出た。




